1998年6月1日発行社内報第38巻2号(通巻221号)掲載小論

温室効果ガスの削減目標値達成への提言

グリーンウッド

COP3の目標値は達成可能か

気象変動枠組み条約第3回締結国会議(通称COP3)で日本の温室効果ガスの削減目標は2008-2012年において1990年度の6%と決まりました。削減対象は炭酸ガス、メタン、N2OHFC、PFC、SF6です。通産省はさっそく省エネ法を改正したり、発電部門の2010年での炭酸ガス排出削減目標値を9%にするとか、火力電源卸入札規制などのアドバルーンをあげております。実は日本では2010年には20%の自然増が予測されており、他のOECD諸国でも事情は同じで、自国内で目標値を達成可能な国はなく、排出権取り引き頼みとのことです。ここでは自然増の無い1990年状態でCOP3の目標値が達成可能か検討してみましょう。

LNGの燃料発熱量当たりの炭酸ガス排出量は石炭の約58%です。水素含有量が多い分、炭酸ガス排出量を削減できます。また、LNGはコンバインドサイクルを使えますので、タービン入り口温度1,500℃の最新コンバインドサイクルを採用すれば、炭酸ガス排出量削減にダブルに有効です。1990年の発電部門の年間炭酸ガス総排出量6,750万トンに占める石炭火力の炭酸ガス排出量は19%ですので、既設石炭火力の82%をLNG焚き最新コンバインドサイクルに転換するとすれば、計算上は9%の炭酸ガス排出量削減が可能となります。しかし、2010年までに既設の82%に達する石炭火力を、LNG火力に転換することは、当社のようにLNGプラントビジネスの50%のシェアを持っている企業にとってはまことに有りがたいことですが、日本の経済的競争力低下を考えれば、非現実的といえるのではないでしょうか。石炭火力の47%を原子力発電に転換しても9%の削減が可能ですが、世界的な反原子力潮流のなかで、これが可能とは考えにくいのです。

通産省が発電部門に6%より大きな9%という数値を割り当てたのは発電部門以外では排出抑制が困難と考えたためと推察されます。日本の1990年の年間炭酸ガス総排出量約3億トンに占める各部門の炭酸ガス排出量の内訳は表―1の通りです。日本が国内で化石燃料を精製または消費するときに排出する炭酸ガスに加え、石炭の採炭時のエネルギー消費、原油タンカー・石炭輸送船推進動力、天然ガス液化動力、LNGタンカー推進動力、ウラン精製から発生する炭酸ガス排出量を全て含んでおります。COP3では日本国内で排出する炭酸ガスにのみ適用となっておりますが、地球温暖化問題を解決するには消費国に流れる全ての一次エネルギーの処理、輸送に関わる炭酸ガス排出量を消費国のそれに参入すべきと考え算入しました。

表-1 日本の1990年度の炭酸ガス総排出量の内訳

部門

%

石油部門 4.3
天然ガス部門 2.1
石炭部門 6.1
発電部門 22.7
都市ガス部門 0.1
産業部門 33.4
民生部門 11.7
運輸部門 19.6

前述のように、通産省は発電部門に大きな期待をいだいておりますが、実は産業部門が最大の炭酸ガス排出者で33.4%に達します。発電部門の22.7%が第2位で、運輸部門の19.6%が第3位です。

最大の産業部門をなんとかしなければならないわけですが、省エネ法だけで、充分でしょうか。産業部門の中でも石油化学や化学工業などのプロセス・インダストリーは熱交換器による熱回収を徹底して行うことにより経済性を確保しております。温度差による伝熱を利用しますので、費用は温度差に逆比例します。すなわち省エネコストは温度差がゼロになるピンチポイントで無限に発散し、費用対効果が急速に収縮するという特徴があります。このようなわけで、省エネはかなり困難です。

発電部門に次いで3番目に多い運輸部門には技術的に希望があります。運輸部門が排出する炭酸ガスの殆どは自動車の内燃機関が発生するものです。内燃機関は定格回転数で定格出力を出す時は25%位の熱効率を出せますが、実際の使用条件は、道路事情により、アイドリング状態の時間が多く、平均すれば数%というところでしょうか。川崎市営バスは、交差点で信号待ちの間にエンジンが自動発停するバスを導入しております。アイドリング時の低効率を避ける安価な方法です。私も乗る機会がありましたが、渋滞を生じるような問題はありませんでした。むしろ不快な振動と騒音がなく、快適とさえいえます。トヨタ自動車が昨年ハイブリッドカーを200万円台で市販開始しました。エンジンの自動発停に加え、エンジンの低速回転時にモーターで中継ぎをし、エンジンを最高効率の近傍で使用しようとするものです。減速時に動力回収を行うこともできます。価格も魅力的で、乗り心地も快適、他社も追従するとのことですので、運輸部門の炭酸ガス排出抑制の切り札になるとおもいます。CNGも期待される燃料です。

運輸部門に次いで4番目の民生部門11.7%の炭酸ガス排出量の殆どは暖房、風呂、炊事用の燃料が中心で、炭酸ガス削減は家屋の断熱度向上などむずかしいものばかりです。

民生部門に次いで5番目の石炭部門6.1%の炭酸ガス排出量のうち最大のものは鉄鋼業の使うコークス用石炭からのものです。技術的には高炉をやめて天然ガスによる直接還元鉄の輸入に切り替えるなど考えられますが、いかがなものでしょうか。

石油部門の4.3%の炭酸ガス排出量は石炭部門に次いで6番目です。殆どは石油精製の約5%の所内消費です。熱回収は先にも述べましたように、省エネコストがピンチポイントで無限に発散するため、熱回収に大きな期待はできません。

以上、概観しましたように産業部門、民生部門、石炭部門、石油部門に多くを期待できないと通産省は思い込み、発電部門に過大な期待を寄せるわけです。

 

そこで提案

しかしほんとうでしょうか。石油精製では熱回収は限界にきております。しかしそのプロセス流体の温度レベルは水素製造用のスチームリフォーマーを除き、望ましくない熱分解を避けるために500-600℃以下です。所内燃料の燃焼温度は1,800℃位あります。石油精製が使っている加熱炉では1,200-1,330℃の大きな温度差で熱交換しているのです。ここに大きなエクセルギー・ロスがあります。

図-1 カルノー効率

BTG発電の発電効率が、最新コンバインドサイクルの発電効率より低効率なのはBTG発電に使われるボイラー伝熱壁金属の耐熱温度限界のため、サイクル流体であるスチームと燃焼温度に大きな温度差があるためです。

ガスタービンの排気温度は800℃前後です。製油所の加熱を全てガスタービン排気で行うことを考えてみましょう。図―1カルノー効率のヒートシンク温度が30℃の場合のカルノー効率とBTG発電やコンバインドサイクルの発電効率を比較するとカルノー効率の約66%が実発電効率です。ヒートシンク温度が800℃のガスタービン発電を行えば、所内燃料の発熱量の約20%相当の電力が得られる計算になります。無論、電力となった分だけ所内燃料消費は増しますが、この電力は見掛け100%の発電効率で発電されたことになります。このガスタービン排気加熱を日本の全リファイナリーに適用すれば、118PJ/yearの発電量が確保できます。

この発電量は日本の石炭火力発電量の34%に相当します。これを外販するわけです。石油精製業としては省エネルギーになりませんが、日本国家としてはこの外販分に相当する発電量に見合う分、石炭火力を削減できますから、リファイナリーの炭酸ガス排出量の増分を算入しても電力部門の炭酸ガス排出量の4.3%の削減を達成できることになります。9%の削減を達成するためには既設石炭火力の43%をLNG火力に転換するだけで良いことになり、石炭火力のLNG火力への変換は半分で済む計算となります。パワー・コンバインド・リファイナリーと呼んだらどうでしょうか。この方法はなにも石油精製業にのみ適用可能なものではなく、産業部門のプロセス・インダストリーにも適用可能です。

スチームリフォーマやエチレン分解炉など1,000℃前後のプロセス加熱にすら、ガスタービンを組み合わせることが可能です。ガスタービンの燃焼器の中にこのプロセスヒーターを組み込むのです。プロセス流体により冷却される分だけガスタービンの入り口温度を1,300℃に冷却するための希釈空気量を減らすことができますので、空気圧縮機動力が減り、ガスタービンの正味出力が増加します。

以上、石油学会のエネルギー・環境部会講演会で行った講演「我が国がやらねばならない省エネルギー・世界に先駆けて」とこの秋に予定されているペトロテック誌地球環境特集号掲載予定論文の論旨の一部をご紹介しました。この概念の実現へ向けて皆様の情熱を期待します。

 

脚注

ダブルの意味:最新コンバインドサイクルの発電効率は55%、石炭焚きBTG発電の発電効率は40%で効率が良い分と炭素が少ない分炭酸ガス排出量がダブルに削減されるという意味。BTGとはボイラー・タービン・ジェネレータの略。

CNG:圧縮天然ガスのこと

エクセルギー・ロス:温度差に相当する理論動力のこと

PJ:ペタジュール、1015ジュール

Rev. December 8, 2007


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