Wakwak山歩会は2003 年7月と8月の異常気象にはばまれて、会津駒 ヶ岳と大朝日岳登山を断念した。9月になってようやく天候が回復し、昨年9月、雨のため断念した空木岳(2,864m)に再挑戦することになった。空木岳 は中央アルプス南部の主峰の一つで、「日本百名山」のほか、「花の百名山」にも挙げられている名峰だが、なんといっても魅力的なのはその名前だ。 美しい響きの山名は、うつぎの花の雪形が山腹に現れることに由来するという。
千畳敷駅→宝剣岳→三沢岳→桧尾岳→熊沢岳→東川岳→空木岳→菅 の台駐車場ルートは朱色
今回は熟年登山隊らしくロープウェイを利用して一気に標高2,600mまで登り、宝剣岳から空木岳まで中央アルプス主脈 を縦走することにした。
第1日
昨年、 2002年の木曽駒ヶ岳登山と同じように小田原駅に4名全員集合。富士山麓、中央高速経由駒ヶ根ICまでとばす。菅の台駐車場に駐車、バス、 ロープウエイを乗り継いで千畳敷駅到着。ここは1999年9月の一般観光客としての訪問も 含め、三度目の訪問だが、今回の天候が一番よい。宝剣岳もよく見える。ただちに登山開始。千畳敷カールのお花畑に残っていた花はミヤマツメクサ、黄色いミ ヤマコウゾリナ、ミヤマムラサキ、アザミのようなクロトヒレン、トリカブト、キンポウゲであった。八丁坂の登りは昨年経験しているので緊張感なしである。 乗越浄土までは小一時間で到達。昨年と同じ宝剣山荘にチェックイン。チェックイン直後夕立が来るがすぐ雨は上がる。
乗越浄土より千畳敷カールを振り返る
昨年は木曽駒ケ岳往復したので夕食まで宝剣岳を往復する。高所恐怖症で岩登りに不慣れなグリーンウッド氏も下の写真の人 が立っている岩壁のバンドを巻く地点直下までよじ登ったがそこで引き返した。
宝剣岳の岩場を下る今回のリーダーのマー
眼下には宝剣山荘(青屋根)と天狗荘(赤屋根)が見える。その向こうに中岳がかすんでみえる。雲が一瞬晴れるとそのすぐ 左手奥に木曽駒ケ岳が見えた。宝剣岳下山中軽い夕立が来る。ファックスで届く天気図をみて、明日は縦走日和と確信。ビールと夕食後は7時消灯。夜は満天の 星が輝いていた。
宝剣岳より宝剣山荘を見下ろす
第2日
朝6時宝剣山荘出発。空木岳への縦走路は宝剣岳を越えてゆくのが普通であるが、宝剣岳南稜のナイフリッジ状の岩稜(キ レッ ト)は敬遠して千畳敷カール底まで下り、極楽平に登り返す迂回路をとることにする。快晴のため乗越浄土で遠方に今回の縦走目的地の空木岳とその長大な池山 尾根を望むことができた。明日、空木岳登頂後はこの長大な尾根を下ることになるのだ。
乗越浄土で遠方に今回の縦走目的地、空木岳とその長大な池山尾根を望む
約1時間で千畳敷カール底に到着。快晴の下、カールを囲む宝剣岳、乗越浄土、八丁坂がクッキリと見える。お花畑ではヨツ バシオガマ、紫色のタカネグンナイフウロをみつける。
千畳敷カール
約1時間で極楽平に登り返す。宝剣岳から単独行のご老体が飄々とやってくるのに驚く。木曽側の眼前には三ノ沢岳が美しい 姿を見せている。
左から木曽駒ケ岳、中岳、宝剣岳 (クリさん撮影)
小休止の後、空木岳に向かって主脈縦走の開始だ。ごく緩やかな坂を上り始める。路傍にはコマウスユキソウの群落がある。 姿島田娘ノ頭のピークを過ぎると、これから渡ってゆかなければならない縦走路の全ぼうが見渡せた。濁沢大峰(2,724m)少し雲に隠れた檜尾岳(ひ のきおだけ2,728m)、 と空木岳はほぼ一直線上に並んでいる。檜尾岳からは右に曲がり、檜尾岳、大滝山、熊沢岳(2,778m)は一直線にならんでいる。熊沢岳から再度左に曲が り、少し雲に隠れた東川岳までまっすぐだ。東川岳と空木岳の間は木曽殿越の鞍部が見える。木曽殿越鞍部に今日の目的地木曽殿山荘があるのだ。やれやれ、こ の山々全て走破しなければならない。途中は檜尾岳から下界に下る尾根道があるだけで、他に逃げ場がない。疲労困憊せず、怪我をしないようにしなければ生き て帰る保証はないのだ。
3回の下りと登りを4時間かかってくりかえしてようやく檜尾岳に到着し、ニギリメシを食す。檜尾岳から熊沢岳の間には大 きな山は大滝山だけであるが、実際に歩くと沢山の下りと登り返しの連続である。稜線に沿って花崗岩が風化してできたザレ場をジグザグに登り大きな岩を迂回 し、岩の間を木曽側に出たり、伊那側に出たりしながらピーク付近を通過して再びザレ場を下るという単調な作業の繰り返しでまるで、修行のようである。両側 は急な斜面で当然目がまわり、スリル万点である。
下の写真では大滝山は断層によって稜線が二つ並行に並んでいる様が見える。この特異な地形に関しては小泉武栄著「山の自然学」にくわし い。並行稜線の間は窪地になっていてこの別天地にホシガラスが住み着いていた。
島田娘ノ頭より濁沢大峰、檜尾岳、大滝山、熊沢岳、東川岳、空木岳、南駒ケ岳を望む
檜尾岳から熊沢岳までは4回の下りと登りを3時間くりかえしてようやく到着。ここから木曽殿山荘までコースタイム2時間 である。ということは山小屋の門限の16:30には間に合わないということになる。携帯で山小屋にその旨伝える。ここで電話で予約を入れた足の速そうな若 い人にも伝言を依頼する。我々より後に単独行のご老体が続いているので心配だが、ヘッドランプを使うハメには陥りたくもなし、面倒はみていられない。自分 のペースで歩いてもらうしかないと先にゆくことにする。これまで約1時間毎に小休止を入れ、水分の補給に勤めてきたが、以後は小休止を入れず、数え切れな いほどアップダウンを2時間ブッ続けに繰り返す。熊沢岳近くなると次第に岩場も増え、アングルやクサリが多くなる。クサリもなにも用意されていない岩場は 岩に抱きついて下る。熊沢岳山頂からは御岳山が見える。
熊沢五峰という突起を2時間かけて越えて、ようやく東側岳に到着。途中雨がパラパラとくる。雨仕舞いをして歩き通す。薄 暗くなって、アングルを見落とし、伊那側に土砂崩れしている危険地帯に入り込みヒヤリとしたこともあった。東側岳からはコースタイム20分だそうであるか ら我々でも5:30には山小屋に到着できるであろうとわかりホットする。雲が一瞬晴れ、空木岳がその全容を顕したが、息を呑むそのアルペン的姿に、今日の 経験を踏まえ、ほんとうに登れるのかという不安が胸をよぎる。木曽殿越へ向けてのザレ場の下りは左側が断崖で、恐怖感を感ずる。約1時間遅れてようやく山 小屋に到着。すでに夕食は始まっていてすぐ食べろと言われる。疲労困憊していて、ビールも夕食もよく喉を通らない。心理的な影響もあるのだろう。心配して いたご老体は20分後に到着。ほぼ暗くなる時であった。やれやれ。夕刻7時の名古屋NHKの天気予報を見てから8時消灯。寝入りばな、今日通過した縦走路 の危険箇所がフラッシュバックする。夜は満天の星。
本日の総距離8.53km、累積登り684m、累積下り1,043m。
第3日
5:30から始まった朝食の間、山小屋のあるじから、空木岳登山の注意事項を聞く、山小屋から見えているピークは実は主 峰ではなく、第一ピークで、その後に第二ピークが控え、主峰は三番目のものだという。ピークに登る急坂はストックを使ってもよいが、岩場になったらストッ クをしまい両手を自由にして三点確保で登ること、細いクサリは頼ってはいけないこと、池山尾根を下るルートを間違わないようにすること、小地獄、大地獄は 階段と橋で優しくなったので心配は不要などと聞く。ますます気が重くなるが、後に引くほうがより怖いので進むしかないと腹をくくる。
朝5:00、木曽殿山荘の窓より空木岳第一ピークを望む。手前のゴザは高山植物再生 地、ドラム缶集積地はヘリパッド
小屋を出てとっつきの急坂の登坂は修行者になった気構えで登る。でも昨日の中央アルプス主脈縦走の洗礼の賜物か、山小屋 のあるじの脅しがキツ過ぎたのか、マニュアル通り、キチット決めて第一、第二ピークを順次征服してゆくと意外にあっけなく主峰に到着できた。2時間10分 で登れたわけである。バンザイ!アルプスとはケルト語の岩山という意味だそうだか、納得である。
第一ピークより第二ピーク、空木本峰を望む
小休止し、記念撮影。
空木岳山頂, 左よりイチ、クリ、コン、マー (マーさん撮影)
![]() 左手前から熊沢岳、大滝山、檜尾岳と続く、宝剣岳は雲の中 昨日縦走してきた中央アルプス主脈を振り返る。下の写真がそれだが、左手前から右に熊沢岳、大滝山、檜尾岳 と続き、ここで左に折れ曲がり、ほぼまっすぐ宝剣岳に連なっている。宝剣岳は雲の中である。遠く左手に三ノ沢岳が見える。 |
![]() 空木岳山頂よりこれから下る池山尾根を望む これから下る池山尾根とその右手の空木平の全ぼうが東側眼下に横たわっている。その優美な姿は好ましいが、 その先の落ち込んだ痩せ尾根に小地獄、大地獄が待っているのだ。南稜は南駒ケ岳(2841m)に連なっている。 |
空木平へ入らぬように空木岳駒峰ヒュッテを左に回りこんで下る。疲れ過ぎの食欲低下を恐れ、10:00早めのランチをと る。今越えて来たばかりの空木岳は池山尾根からみればあのアルペン的な恐ろしげな姿が右手裏側にチラッと見えるだけで、全体に女性的な柔和な姿を見せてい る。尾根の南側にある空木平も桃源郷のようだ。
空木岳非難小屋下より空木岳を振り返る
池山尾根をまっすぐ下ってゆき、大きな四角い駒石を過ぎるとやがて樹林帯に入る。
駒石とグリーンウッド氏 (クリさん撮影)
林のなかでカケスの声が聞こえ、路傍にはシラタマノキ、アカモノの可憐な姿がみえる。空木平からの路の合流点も過ぎ、迷 い尾根を大きく左周りで回りこむと、小地獄を通過する。グルグル廻るのでたしかにここで方向音痴になる。次にこの先500メートルは滑落事故多しという看 板がでていて緊張感をあおる。聞いていたハシゴや橋は古く、心もとないがなんとか無事通過。林の中を3時間下って尻無に着く、標高が1,970mもある。 山頂から894mしか下っていないのだ。まだ1,000mも残っている。更に40分下ると、水飲み場に着く。左手100メートルに池山小屋という看板があ る。ここにタクシー会社の電話番号の案内板があったので、携帯で一時間後に池山林道終点に迎えにきてくれるよう予約を入れる。これで少なくとも1時間は節 約できた。あとは林道終点まで1時間ひたすら下って、今回の縦走は完了した。2日間の総歩数約3万歩であった。山小屋のあるじに事前に教えてもらってなけ れば、あと1時間、何度も林道を横断する下山道を歩くことになっていただろう。
本日の総距離9.76km、累積登り535m、累積下り1,655m。
菅の台駐車場から少し山手の「こまくさの湯」で旅の疲れを癒す。
帰路、国道246号線が事故によるものか大渋滞しているのを発見、急遽足柄峠、地蔵堂経由の山道を走行するというおまけ までついた。かって雪の中、金時山登山したときにタクシーで雪の中を登った道である。
反省
天候にめぐまれて、縦走できた。うっかりリーダーにだまされてとんでもないところにつれてこられたものだと、道中ひやひ やものであった。弱音を吐いて脱落できないのが辛い。途中逃げ場がなく、前にすすむほうがましというハメに陥った。空木岳をまじかにみて怖気づき、木曽殿 小屋から木曽谷に逃避しようかとまじめに考えたほどである。昨年、風雨のため、極楽平で縦走を中断したのは正解であった。強行していたら遭難していたかも しれないと実感した。4人のメンバーのうち、リーダーの1人を除き、全員、順繰りに体調不調となり、岩場が多いこともその原因の一つではあろうが、全般の パーフォーマンスは非常にゆっくりしたものになった。2年前の北岳の実績の半分のスピードであった。3日目からは体が順応したのか全員の調子が出てきた。 単独行でゆっくり歩いているご老体の粘りには感心した。
今回は写真も沢山撮影できたが、一番迫力のある空木岳のシーンは先をいそいでいたため撮影できなかったのが心残り。
スケジュール とパーフォ−マンス
日付 | 場所 | 予定時刻 | 実時刻 | 歩数 | 高度差 | 毎時高度差 | 毎時歩数 |
第1日目 | JR小田原駅 | 7:50 集合・発 | 7:50 集合 | ||||
9/16/2003 | 山中湖・中央高速・駒ヶ根 ランチ | ||||||
菅の台駐車場、バスに乗り換え (900m) | 12:00着、12:40発 | 12:12発 | |||||
しらび平 | 13:00着 | ||||||
千畳敷駅(2,600m) | 14:00着 | 13:15着 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
宝剣山荘[泊] Hotel Serial No.232 | 15:00着 | 14:25着 |
1,245 |
250 |
216 |
1,245 |
|
宝剣岳(2,850m)往復 | |||||||
第2日目 | 宝剣山荘 | 6:00発 | 6:15発 |
|
0 | ||
9/17/2003 | 千畳敷駅 | 7:00着 | 7:07着 |
2,087 |
954 | ||
極楽平 | 8:00着 |
2,565 |
540 | ||||
桧尾岳(2,727m) ランチ | 11:30発 | 12:00着 |
6,747 |
1,045 | |||
熊沢岳(2,778m) | 15:00着 | ||||||
木曽殿越/木曽殿山荘(2,587m) [泊] Hotel Serial No.265 | 15:30 着 | 17:30着 |
11,865 |
930 | |||
第3日目 | 木曽殿山荘 | 6:00発 | 6:00発 |
12,293 |
|||
9/18/2003 | 空木岳(2,864m) | 8:00 着 | 8:10着 |
12,814 |
0 |
0 | 240 |
ランチ | 10:00 | ||||||
尻無 (1,970m) | 13:05着 |
21,531 |
-894 |
182 | 1,772 | ||
池山水飲み場 | 13:45着 |
23,868 |
|
3,504 | |||
池山林道終点(1,400m) | 14:50着 |
29,377 |
-1,465 |
326 | 5,101 | ||
菅の台駐車場(900m) タクシー利用 | 15:00着 | 15:20着 |
-1,964 |
||||
小田原駅 | 20:00着 |
装備・食糧
山行装備
:初秋3,000m級の2泊登山程度のもの。雨具、防寒・防風具、下山時つかうひざプロテクタ。スパッツは携行したが使わなかった。軍手でよかったが、雨
など天候の急変にそなえ、保温のきく登山用手袋は用意したほうがいい。
ドライブ旅行中:軽装。 登山に不要な着替えを車中に置いておくのを忘れて全行程担ぎまわってしまった。
食糧 :スポーツドリンク水毎日2リットル、アミノサプリメント、ビタミンC、アメ、チョコレート、非常食。(2泊共に食事付き
その他データ
バス :800円、駐車料金 400円/1日
ロープウェイ:8時〜17時20分間隔運転1,180円
池山林道終点からのタクシー代、2,800円
温泉:「こまくさの湯」500円。
September 21, 2003
Rev. November 25, 2017
2013/7/29 20名の70才台を含む韓国人グループがもどり梅雨の悪天候の中、28
日に駒ケ根市側の池山から入山し、空木岳の木曽殿山荘に1泊。29日早朝に宝剣岳の宝剣山荘を目指していたという。檜尾岳手前の南側で1名、檜尾岳過ぎた
宝剣との中間の尾根で2名、いずれも登山道で心肺停止状態で発見された。宝剣では1名が滑落死していた。4名は檜尾岳避難小屋経由下山した。気温は10℃
だが強い風雨で衰弱したらしい。
August 7, 2013