サウザンド・ナイツ号クルーとして

 2007年

2007年6月6日(水)、南の風、6m/sec。 エバーフィールド氏が12チャンネルの何でも鑑定団に出演することになり、艇長としてセイリングしている姿を取材撮影するのでクルーとして乗船してほしいという要請がきた。

気軽に引きうけてでかけたが、結構、難儀することになった。まず風が強かった。女性のディレクター、カメラマン、マイクマンの3名のスタッフが一緒に乗船した。艇長がメーンセールを揚げるところを撮影したいという。しかしデッキは狭く、広角レンズも用意してない。カメラマンはライフラインを外せないかと言い出す。そんなことをすると落水しますよと断念させる。

艇長のエバーフィールド氏は氏の美学に基づいて友人からもらった農協の帽子を用意していたのだが、ディレクター嬢から顔が隠れると脱ぐことを命ぜられる。メーンセールを揚げるといってもスッと揚がるわけではない。時々マストトラック内でスラッグが引っかかる。これを処理するためにはマスト脇にクルーが必要なのだが、視聴者は艇長が一人でメーンセールを揚げていると思っているわけだからティラーをカメラの視野の外で扱っているクルーはのこのこと手助けにマストに出かけるわけにはゆかない。そこで艇長自らマストとウインチを往復することに相成る。 老生の力不足をおぎなおうと、ウィンチを使おうとすると、若々しく手で直接メーン・ハリヤードを引けと注文がでる。脊椎損傷の危険をおかしてなんとかメーンセールは揚がった。

艇長のメーンセール揚げが絵にならないと断念したのかディレクター嬢は艇長がティラー握っているところを撮影したいと言い出す。それではとジブセールを展帆したのだが、風がチト強い。ジブセールを縮帆しようとしたらファーリングシートがもつれてファーリングできなくなってしまった。クルーが舵をとり、機走微速前進で船首を風にたてて艇長みずからもつれてしまったジブファーラーと格闘している間、セールがばたばたし、不規則に揺れる船上でTVスタッフは早々とグロッキーになってしまった。カメラマンは潮をかぶったカメラを持ってキャビン内に退避。艇長は少々パニック状態で、なかなか事態を収拾できない。そうこうするうちに右側のシブシートの結び目がゆるんで外れてしまったではないか。これで抵抗がすくなくなってようやく暴れるジブを手で巻き取ることができた。

港に帰ってジブファーラーをセットアップして出直そうとメーンセールを下ろしたら、ディレクターは「午後に別の取材があるので港に帰らず、船上インタビューを終えてしまいたい」と言い出した。エンジン音がうるさいのでエンジンを止め、ベアポールでヒーブツーしながらの撮影となった。カメラマンは江ノ島の突堤が視野に入るように姿勢制御してくれとわめくし、 エバーフィールド氏が何度もNGを仕出かすし、ウネリが大きくてカメラアングルを維持できず、うまく撮影できない。いくつもある質疑応答カットを何度も撮りなおした。最悪のケースでは5回も撮り直しをするはめになった。風下の砂浜に乗り上げる寸前にエンジンを再始動して風上に移動するということを3回も繰り返したのだ。エンジン始動に失敗すればアウト。アンカー投げ込みの時間はあるだろうか?艇長として船の安全が気になって視線をテレビ視聴者に向け違和感のない応答をするのは容易ではない。この間クルーを勤めるグリーンウッド氏はカメラアングルの外で船の姿勢を確保しようと苦戦する。グロッキーになりながらもNGを出し続けたディレクター嬢には脱帽。船上インタビューもようやく終了して帰港せんとフェンダーを下ろしたところ、ロープが解けて一つが漂流をはじめた。思わぬ人命救助訓練をすることになる。

船上インタービュー

次にTVスタッフは別のモターボートに乗り移り、セーリングを船外から撮影したいという。七里ヶ浜をバックに撮影できないのでヨットと浜の間を並行に走りながら撮影しなければならないのだそうだ。なぜかと聞くと、七里ヶ浜のとある住人が神経質でもし彼の家を撮影すれば訴訟に訴えて放映できなくすると宣言しているからだという。最近は学校の先生に対する風当たりばかりでなく、TV局にも風当たりは強いようだ。TV局の傍若無人さはかなりのものがあったとはいえ「いちゃもん化社会」になったということか?

さてジブセールはリーフしたが、強風のため、ヒール角の大きい豪快なセーリングとなった。船上に姿を見せてはいけない裏方のクルーは荒れるキャビンで転げ廻り、怪我をする始末。 艇長が取材ボートにうっかり手を振ると、近寄ってきて手を振っては困る。取材ボートを意識しないでセーリングしてくれと注文がつく。

セーリングを船外から撮影

マリーナのバースに帰り着き、やれやれこれで終わりかと思いきや、停泊中の船と船名を撮影するためにスターボードサイド付けにしてほしいという。TVは画面に別の船が入るのを極端にきらう。プライバシー保護法の拡大解釈が行き過ぎと感じる。やおらフェンダーを付け替え、ワープして要望に応じた。艇長が船から桟橋に降りる時もライフラインにつかまって後ろ向きに下りようとするとダメがでて、前向きにポンと桟橋に飛び降りてくれと注文がでた。艇長は注文通りに再演したが足を捻挫しなかったのは拾い物だった。 動脈瘤を人工血管に交換された方だからサイボーグといってもよいくらいタフなのかもしれない。

撮影が終わり、TVスタッフが去ったあと、サウザンド・ナイツ号上でエバーフィールド氏夫人の手作りのイナリズシをいただき、ビールでノドの乾きを癒す。艇長は「もう歳だ、疲れた」と一言。

鎌倉プロバスクラブ・メンバーの坂間氏の持ち船、ドリーム号を教えてもらう。ノースショア製のフィッシャー25というロングキール艇で操舵室をもっている。リギンは2本マストのケッチ。ニス塗りの防舷材が美しい。操舵室の窓が下向きに傾斜しているのは荒天での視野確保のためで、横浜ベイサイドマリーナでみた米国籍のモータークルーザーと同じデザインコンセプトだ。坂間氏はこれで日本一周したいという夢を持っているようだ。ヤンマーのディーゼル・エンジンに物言わせれば可能だろう。高速道路代金とホテル代金が不要なだけ安上がりかもしれない。

Fisher25

小目次 「シエラザード号クルーとして」

このなんでも鑑定団は7月3日の夜、放映 された、貴乃花夫婦も同時出演していた。さてエバーフィールド氏が鑑定を依頼したのはバーナード・リーチの壺とされるものであったが、鑑定結果はバーナード・リーチの奥さんの作品とのことだった。

Rev. June 27, 2010


最近になって俳優の豊川悦司が七里ヶ浜に2軒家を持っていたとひょんなことで知った。一つは道路を挟んで我が家の斜め前にあった家であることは知っていた。週刊誌の記者がよく張りこんでいたものだ から自然と知るはめになる。そこはとある女性に住まわせていたと週刊誌に書いてあった。ばれて処分したことは知っている。しかしもう一つあるというのは知らなかった。それでわかった。テレビ局に絶対七里ヶ浜を映させないといった人間がだれか。

Rev. August 27, 2010


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