言語録

シリアル番号 日付

1370

2010/8/14

カンナ 2010/9/15 大船フラワーセンター

名言 根府川
東海道の小駅
赤いカンナの咲いている駅

たつぷり栄養のある
大きな花の向うに
いつもまつさおな海がひろがつていた

中尉との恋の話を聞かされながら
友と二人ここを通ったことがあった

あふれるような青春をリュックにつめこみ
動員令をポケットに
ゆられていったこともある

燃えさかる東京をあとに
ネーブルの花の白かったふるさとへ
たどりつくときも
あなたは在った

丈高いカンナの花よ
おだやかな相模の海よ

沖に光る波のひとほら
ああそんなかがやきに似た
十代の歳月
風船のように消えた
無知で純粋で徒労だった歳月
失われたたった一つの海賊箱

ほっそりと
蒼く
国をだきしめて
眉をあげていた
菜ッパ服時代の小さいあたしを

根府川の海よ
忘れはしないだろう?

女の年輪をましながら
再び私は通過する
あれから八年
ひたすらに不敵なこころを育て

海よ

あなたのように
あらぬ方を眺めながら…。
言った人、出典 茨木のり子「根府川(ねぶかわ)の海」
引用した人、他 朝日新聞織井優佳の夕刊トップ記事
根府川の駅は大正の開業時からのもので米国製の鉄骨がつかわれている。カンナは外来種で資材についてきた種から自生したのだろうという。太平洋戦争当時に機銃掃射の跡が梁に残る。

茨木のり子は 茨木は夫である医師の三浦安信に先立たれ、一人暮らしであった。2006年2月、病気のため東京都西東京市東伏見の自宅で死去。享年79。訪ねて来た親戚が寝室で死亡しているのを発見した。死去はその二日前の2月17日。死後Yと書かれた箱に残された「夢」という詩がみつかる。

ふわりとした重み

からだのあちらこちらに

刻されるあなたのしるし

ゆっくりと

新婚の日々よりも焦らずに

おだやかに

執拗に

私の全身を浸してくる

この世ならぬ充足感

のぼのびとからだをひらいて

受け入れて

自分の声にふと目覚める


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