読書録

シリアル番号 905

書名

旅路 自伝小説

著者

藤原てい

出版社

読売新聞社

ジャンル

小説

発行日

1981/11/16第1刷
1983/11/6第16刷

購入日

2007/10/25

評価

国家の品格」の著者藤原正彦の母、作家新田次郎の妻の書いた自伝小説

母の蔵書

講演録を読んだので読むつもりになった。面白く刺激的。

藤原ていが3人の子供を抱え、満州の夫の任地に同伴したとき建国大学教授の家で開かれたゼミナールで学んだ。この席で満州人の学生がでまだ日本が負けると決っていないのに藤原ていに「国は敗れても、民族は残る」と語った。この学生は続けて「私の国をごらんなさい、何遍も戦いに負けましたが、民族はゆうゆうと生きているでしょう。心配しなくていいですよ」と。日本が負けるのは彼らにはお見通しだったのだ。

日本人は聞きたくない言葉なので敗戦の可能性は仲間内では話さない。だから敗戦は最後に満人から教わることになる。したがって貯金通帳はあっても手持ち現金はほとんどなく、その後、朝鮮を通過して帰国するまでの難民生活で難儀することになる。

軍人家族は敗戦情報が早いので現金も事前に用意し、余裕を持って難民生活を送ることになるのだ。

満州人にしろ、朝鮮人にしろ敗戦国の日本人につらく当たる人もいれば、親切な人もいる、しかし同じ日本人仲間で仲間苛め、だまして金を巻き上げる人がでてくるのは一番つらい。

それにしても夫はソ連に拉致され、子供3人をかかえて北朝鮮宣川収容所に収容されてからの生存はすざまじい。若い女はソ連兵に調達されてずたずたになって帰ってくる。赤ん坊は生まれてすぐ間引かざるを得ない。多くの人が死んだ。ソ連軍にかけあっても無意味である。なにもしてくれない。結局独自の判断で無断で収容所を脱出し、南に向かって無料の無蓋貨車にのせてもらって平壌につく。ここもあふれるばかりの日本人。貨車に乗って動く限り南下し、夜の中をあるき、ついに4人の朝鮮兵に助けられて、米軍のいる国境へゆけといわれる。気がついたときには米軍のトラックの中だったという。そして開城につくのだ。あとは記憶がない。気がついたら長野の実家に居たというのだ。夫は先に帰国していた。

戦後の気象庁の官舎での苦しい生活のなかで、体の変調に気がついて遺書を書いた。これを読んだ夫が本として出版してくれたらベストセラーとなってしまうのだ。一躍有名人となって官舎を逃げ出し、一軒家を持つ。

そのうちに夫も直木賞を受賞し、50才にして二足の草鞋を脱ぐのである。作家として無理がたたったのか心筋梗塞で死んでしまうのである。



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