読書録

シリアル番号 886

書名

夏目漱石集 現代日本文学全集 第十九篇

著者

夏目漱石

出版社

改造社

ジャンル

小説

発行日

1927/6/5発行

購入日

2007/08/20

評価

母の蔵書

母の 兄が1931年に当時まだ独身だった母に贈ったもの

我輩は猫である、倫敦搭、坊ちゃん、草枕、文鳥、修善寺日記、思い出す事など、道草他収録。

小宮豊隆氏の「漱石先生小伝」が巻頭を飾っている。曰く先生は人を責めるより前に自分を責めるようとする様に、人を憎むよりも前に先づ人を愛さうとする様に、そうして、ひっくるめて人間を離れて自然に即(つ)かうとする様に、心持が段々に変わって行った。その心持の光を最初に感じさせるものは、先生の「修善寺の日記」である。また「思い出す事など」などであると。

とある人が生前に「漱石が長期滞在した修善寺の旅館『菊屋』に引退後夫婦でゆっくり行きたいね」と言っていたという。残された妻がこれを思い出し、菊屋に出かけたという話しを聞いていたこともあり、この二つを興味深く読んだ。

漱石は胃潰瘍の療養のため、明治43年8月6日に菊屋に逗留するのだが、8月24日に大吐血し、30分間脳貧血で人事不肖に陥ると妻の鏡が記録している。回復した後、漱石が記した「思い出す事など」に漱石はこの30分のことは全く記憶がなく、直接時間がつながっていると書いている。この記憶の連続の経験は私がスキーで転倒し、脳震盪をおこしたときの記憶と全く同じである。

大吐血が新聞で報道されたため、全国から漱石の友人・知人が見舞いにかけつけ、漱石はそれまで世を斜めに見てきた態度をあらため、感謝の気持ちで一杯になったと記している。

いまどき胃潰瘍などプロトン・ポンプ阻害剤で治ってしまうのだが、当時はそのような薬も無く、タバコの害についてうすうす気がついていたが、漱石は吐血後もタバコをのみ続けるのである。これでは直るはずもない。

ちなみに菊屋の漱石の間は修善寺の夏目漱石記念館に移設されたという。

2010年5月、はからずも修善寺の菊屋と「虹の郷」に移設された「漱石の間」を訪れることになる。


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