読書録

シリアル番号 861

書名

ブリューゲルへの旅

著者

中野孝次

出版社

文芸春秋社

ジャンル

評論

発行日

2004/5/10第1刷

購入日

2007/06/10

評価

若き頃、400年前のヨーロッパに農民の肢体が詳細に描かれたブリューゲルの絵を初めて見たとき、男達が着るタイツと股間の コッドピース(codpiece股袋)という突起物に目が釘付けになったことを覚えている。一時の流行だとしても、学校で教わったヨーロッパのイメージと反するものを感じ、以後ブリューゲルの絵はチャンスある毎に観てきた。

ところで股袋は金属製の鎧にその起源があるという。フランスでは「ブラゲッド」、ドイツでは「ラッツ」とよばれる。

ブリューゲル好きを知っていて、家人が何冊かの著者の本を買ってきた。同じ著者の本としてはかって「清貧の思想」を読んだことがある。

ドイツ文学の翻訳者、批評家の著者が40才になってから若き頃からの憧れのウィーンにきて長期間滞在したが、ウィーンのバロック様式の建築物が重苦しく、なぜか深い憂鬱の気分に陥ってしまった。ある日ブリューゲルの「雪中の狩人」に出会い、絵が「ここがお前の帰ってゆくべき場所だ」と語りかけてきたように感じた。 戦中の日本を若き日に経験し、西洋にあこがれた自分だったが西洋の現実は日本と大差ないということを悟った。こうして西洋文明への小径と決別をした著者、中野流人生哲学をブリューゲルの絵に託して綴ったエッセイ。

本書は紀行文の型を採用し、ブリューゲルの絵を探して、ウィーン、パリ、ロンドン、プラハ、ダルムシュタット、ナポリ、ブリュッセル、マドリッド、ブタペスト、ニューヨークと旅する。 紹介される絵は「雪の中の狩人」、「悪女フリート」、「麦刈り」、「雪中の東方三賢王の礼拝」、「二匹の猿」、「謝肉祭と四旬節の戦い」、「農民の踊り」、「農家の婚礼」、「乾草づくり」、「足なえ達」、「バベルの塔」、「イカルスの墜落」など。 これらの絵はほとんどSalvastyle.comで大画面で閲覧できます。

関連文献を読破して蓄積した知識をひけらかしたところもあり、林望の親分という雰囲気。

ブリューゲルの絵はブリュッセルの王立古典美術館でかなり集中的に観た。


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