読書録

シリアル番号 816

書名

放射能で首都圏消滅

著者

古長谷(こながや)

出版社

三五館

ジャンル

技術

発行日

2006/4/26初版

購入日

2006/11/26

評価

娘の蔵書

著者のサイン入り

日本の地震学者が過去30年間マグニチュード8以上の地震が発生するだろうと警告を発し、政府も研究の支援と広報をしてきた東海地震地帯の真上、御前崎近くにあるBWR型の 浜岡原発に特にハイライトを当て問題点を解説している。プレート境界型地震は100-150年に1回発生する 。しかるに前回の1854年の安政東海地震から150年間静かだったため、特にこの地帯に注目があつまっているのだ。政府の地震調査委員会は 2006/1/1/以降30年間の東海地震の発生確率は87%と公表。150年間静かだった理由として海嶺というコブがズレを止めているのではという仮説 がでている。これがいつはずれるか?

浜岡原発の直下10-20kmにはプレートの境界面がある。ほかのプレート型巨大地震の発生する境界面は陸から100kmの海上にあるのと比べ、至近距離にあるわけで 距離による減衰が期待できない。このため原子炉に大きな加速度が加わると予想されているのだ。

震度Iと最大加速度αの相関はいろいろある 。下式もその一つ。

α = 100.5*I-0.6

そして震度の距離による減衰は下の式のようになる。

Iest = I0+n logR+a x

R=SQRT(2+h2)

ここでIest:距離によって減衰した震度の推定値
I0:基準となる震度値
n:幾何減衰係数
凵F震央距離km
h:震源深さkm
a :粘性減衰係数

このように 浜岡原発はM7.2の兵庫県南部地震とおなじ至近距離にあるのに加えプレート型のためM8クラスに達する可能性があるのだ。

しかるに浜岡原発は他の日本のすべての原発と同じく1981/7/20に原子力安全委員会が制定した耐震設計審査指針に従い いまだにマグニチュード6.5、深さ10kmの直下型地震想定することになっているのだ。

こうして炉が破壊され、五重の放射能封じ込めバリヤが破壊されると風下200kmにある首都圏を放棄せざるをえないという警告の書である。事故後6時間で放射能は横浜に達するという。

チェルノブイリ事故では炉心から320km以内でヒトが住んではならないとされる15キューリー/km2以上の汚染が発生している。(著者がキューリー/km2キューリーとしたのは間違い)

ただし政府はこのような事故の発生確率はゼロに近いとして議論することすら避けている。マスコミも政府見解を繰り返すだけである。しかし一般大衆はもはや 政府の公式見解を信じてはいない。政府が頼りにならなければ自衛しなければならないのは当然。地震後、風向きを見てすぐ首都圏を離れるのが得策というもの だろう。だが荒川にかかる橋は30ケ所しかないので荒川より西に住む人は自宅閉じこもりしか手はない。水道水が出るうちに汚染されていない水を風呂に溜め ること。食品も1週間分備蓄しておくこと。閉じこもりは1週間。降雨にふれないとうに注意。それから浄水器を用意すること。放射能検知器や防塵マスクなど 用意すべきだろう。窓などの開口部は目張りすること。 こうして1週間自宅に閉じこもるのだ。

さて肝心の原子炉の耐震性だが、浜岡2号炉はBWR型で燃料棒集合体を支える炉心支持板が地震にたえないので、燃料棒集合体は共振はしない、岩盤強度は 強、建屋鉄骨の粘性を大にして地震動が減衰すると仮定して設計したという内部告発があり、廃炉となったという。ただBWR型の3、4炉と滋賀原発2号機と 同じ5号炉は20年に渡る裁判の結果を織り込んでインターナルポンプと改良型制御棒駆動機構を設置した改良型沸騰水型炉=ABWRが稼動中。

BWR炉は下から十字型の断面を持つ制御棒を炉心支持板の穴を貫通して上向きに燃料集合体の隙間に挿入する仕掛けになっている。BWR炉は自己制御性が あるとはいえ、地震動で制御棒が曲がったり折れたりすれば挿入できなくなるおそれがあり、核分裂反応を制御できず暴走の危険性が残る。スリーマイル島は PWR炉であったためかろうじてメルトダウンした燃料が炉内にとどまったが、下部に多数の貫通穴を持つBWR炉でメルトダウンした燃料が発する高温に炉下 部の鏡板が耐えられるかはなはだ疑問である。

1981/7/20に原子力安全委員会が決定した耐震設計審査指針ではマグニチュード6.5、深さ10kmの直下型地震想定することになっている。このた め、浜岡原発の耐震基準は設計用最強地震(S1)の加速度は450ガル、設計用限界地震(S2)の最大加速度は600ガルである。M7.2の兵庫県南部地 震で観測された加速度は震源が深さ16kmだったため、距離による減衰が少なく、地表の最大加速度が880ガルに達した。中部電力は2005年になりよう やく耐震補強工事をしてS2を1,000ガルに引き上げるとしているが周辺配管だけで原子炉本体には手をつけない計画である。ちなみに全国の原発のS2の 加速度は370ガルが多い。柏崎刈羽は450ガルである。

また耐震設計審査指針では上下動と水平動の加速度の比は1/2としている 。しかし兵庫県南部地震で観測された上下動の最大加速度は556ガルであり、上下動と水平動の加速度の比は0.63となり、設計指針は甘いと考えられている。2005/8/16のM7.2の宮城県沖地震で 震源から100km離れた女川原発で観測された最大加速度は251.2ガルで設計値の250ガルを越えた。

原子力委員会の2006年の改訂指針では「直下型地震」に代えて、「震源を特定せずに想定する地震動」を考えることになっている。耐震指針検討分科会のな かで石橋克彦委員は地震学の立場から、「震源を特定できない場所ではマグニチュード7.3までの内陸地殻内地震が起こり得るので、敷地の地盤特性に応じて 応答スペクトルを策定すると提案したが、原子力委員会は マグニチュード7.3を採用せず、事業者が独自に決めてよいことにした。また改訂指針は新設のみに適用され、既設は各事業者が任意に検討するという緩いも のであった。

もし浜岡で事故が発生すれば風下にある首都圏は放射能で汚染される可能性がある。1週間自宅に閉じこもったあと自宅周辺が放射能で汚染されていることが判 明したら自宅を捨てて安全な土地に移住しなければならなくなる。原発の少ない北海道などに安い土地をあらかじめ購入しておけばなお良い。そういう用意がで きない人は困るだろう。このような広範な汚染を引き起こせば中部電力など破産してしまうだろう 。怒っただれかがインドのポバール事故のとき活躍した米国の弁護士のような辣腕弁護士でも雇って、日本政府と原子力委員会の委員を相手に損害賠償保証要求するかもしれ ない。2006年に改耐震基準を既設まで遡って改訂 しなかった原子力委員会が怠慢の罪で訴えられないように祈りましょう。

Rev. July 20, 2007


娘にもらって読んでから原発の危険性に目覚める契機となった本。この本が危惧した浜岡ではなく、福島であったのは大した意味は無く、いわば必然であったとかんずるものである。

Rev. April 18, 2011


静岡県の住民の岩下さんから著者は三島市市会議で細野豪志氏の元秘書だったと聞く。おもえばこの本を読んで2007年に「通らなかった道」を書き、順次「グローバル・ヒーティングの黙示録」を書いたのである。そして2013年に予想は的中したのである。

Rev. September 9, 2013

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