読書録

シリアル番号 519

書名

風の盆恋歌

著者

高橋 治

出版社

新潮社

ジャンル

小説

発行日

1987/8/25発行
2002/6/15第33刷

購入日

2002/08/18

評価

賢人会で越中八尾(やつお)おわら風の盆を見に行こうという話があった。そのとき、風の盆については 何の知識も無かったが、NHKの歌番組でその何たるかを知った。なかにし礼が高橋治の小説「崖の上の二人」に感銘を受け、高橋治に手紙を書く。二人で八尾 に出かけ、その後、3年かかって「風の盆恋歌」の歌詞を作ったという。

なかにし礼が感銘を受けた小説はどんなものだろうと今は題も「風の盆恋歌」と変えた高橋の小説を書店でさがして読みはじめた。NHKの影響は大き く、すべて売り切れ、5軒目にしてようやく手にすることができた。 裏表紙には「互いに不倫という名の本当の愛を知った今は・・・。ぼんぼりに灯がともり、胡弓の音が流れるとき、風の盆の夜がふける。越中おわらの祭りの夜 に、死の予感にふるえつつ忍び逢う一組の男女。心を通わせながら、離れ離れに20年の歳月を生きた男と女がたどる、あやうい恋の旅路を金沢、パリ、八尾、 白峰を舞台に美しく描き出す長編恋愛小説」とある。一晩で読破。推理小説のごとき書き方で途中で止められない。2006/2薄れた記憶をリフレッシュする ために再読した。

八尾のお盆祭りがなぜ「風の盆」と呼ばれるかというと9月の台風時期に白山を越えて吹く風がフェーン現象を起こして過酷なためという。また胡弓の音が独特らしい。 小説の基調となるおわら風の盆の本歌や囃子が引用されている。しかしメロディーは聴いたことがなければ理解不能だ。 やはり9月1ー3日に訪れなければ味わえない。いつかと思っている。

あんたと添えねば、娑婆に出た甲斐ない、 遅くなったら送っていくよ、人目がなければ、あんたの部屋まで

小説の中で天生峠(あもうとうげ)を二人の道行のルートとして使っている。かってハーレー・ダビッドソンで乗鞍岳越えで入った飛騨高山から清見村を通り 、国道360号に出てから天生峠を越えたことがある。なつかしく読んだ。 ただ白山のスーパー林道はまだ通過していない。いつかこの林道を通って白峰村に入り、白山にも登りたい。白峰村の牛首紬(うしくびつむぎ)もでてくる。

本小説では天生峠は鏡花の「高野聖」に出てくると書いてあった。興味を持って近くの図書館で泉鏡花の「高野聖」を読んでみたが、鏡花は天生峠は飛騨越えして信州松本に抜ける峠として書いてある。鏡花は安房峠(あぼうとうげ)と 天生峠を間違えたのではないか とも思える。高野聖が参謀本部作成の地図を見ると書いている。天生峠を越え、飛騨の高山をすぎて安房峠をこえれば松本だから間違いともいえない。いずれに せよ峠で高野山の若き修行僧が蛭とか魔性の女にたぶらかされる思い出が夢か幻にしては生々しい。蛭はいまでも丹沢にいるという。鏡花は金沢出身、高橋も若 きとき金沢の四高で学んだ。

この本がモーチベーションとなって能登・若狭湾の旅にでて越中八尾、河北潟と大野川、旧制四高、杉津を訪れた。白峰村はいずれ白山登山の折にチャンスがあるだろう。

Rev. September 4, 2016


トップ ページヘ