読書録

シリアル番号 1103

書名

崩壊するエネルギー文明:再点検(リビジット)

著者

武田修三郎

出版社

叶體`会議

ジャンル

環境

発行日

2011/11/1初版第1刷

購入日

2012/3/11

評価



昨日東京にでたついでにトヨタの豊田章一郎名誉会長推薦だとトヨタのN氏に推奨された本復刻本を買い求め、夜中の1時までに読した。LNGや石炭を過小評 価しているのはチト不勉強だなとおもったが、全体のトーンはほぼ28年前の1988年頃から自社の技報に連載した私の「論 文と随想集」収録の論文と重なるロジックだ。そして私の雑文よりも深い哲学的含意もあり、ローマクラブに刺激されたとはいえ、36年まえに書かれ た本とし ては秀逸な本とおもう。それに私の知らなかったことも2つばかり散見されて勉強になった。

第一は私はエネルギー交代のS曲線はロジスティック曲線で表現しているのに、武田氏はシグモイド曲線を使っていたこと。ローマクラブや私の 「炭酸ガス排出量削減に関する世界シミュレーション」は微分方程式を立てたわけだけれど、それはロジスティック 曲線になるわけで、「グローバル・ヒーティングの黙示 録 ー政策研究所・マスコミの一歩先を行く予測」ではロジスティック曲線に 統一した。シグモイド関数はロジスティック関数の特殊例で、エクセルなどなかった時代はこの方が便利だったのだろう。

第二は低レベル放射線の害としていままでみたこともない図が掲載されていたことだ。スターングラス博士の1935-1970年の原爆水爆実験時代の「幼児 死亡率 と低放射能の関係」という図だ。どうしてこのデータがいままで私の目にとまらなかったのだろうかと調べるとそれはICRP報告書に反するということのよう だ。ここでも原爆の被害報告を忌避する米国の意思を感じる。日本の放射線医療学者はこのデータをみたこともないのだろう。放射線医療学者は放射線はツー ルのためどうしても好意的になる。しかし自分たちは厳重に管理された環境で守られている。いつ食品に入ってくるかわからない恐怖を理解できる人間では ないため政府に便利に安全神話樹立のためにつかわれるのだ。調べると「Secret Fallout: Low-level Radiation from Hiroshima to Three Mile Island」by Dr. Ernest J. Sternglass 1981 (邦題:赤ん坊を襲う放射能)のようだ。引用された図

原子力資料室によれば同様の主張を行う学者にジョン・ゴフマン氏,ヘレン・カルディコット氏などがおり,原子力反対派らはしばしば彼らの主張する説を採用 した評価を行うことでも知られている。いわば政府から無用な危険神話吹聴者と認定されているわけだ。E.J.スターングラス博士は、低線量放射線の健康へ の影響がICRP報告書等で述べられている見積りよりも大き く、かつ、極低線量域では線量率が低い方が放射線の効果が大きいこと特に乳幼児に対するリスクは高く、核実験フォールアウトやTMI事故により放出された 放射能によって乳幼児の死亡率が上がり、またそれらの放射能による胎児期の被曝によって青少年の知能低下が生じた、等と主張した(1960〜1970年 代)。これらの仮説について米国科学アカデミー委員会(1982年)等は「乳児死亡率の増加は疫学的に確証されない。極低線量域の効果についてはその理論 的根拠となった試験管内実験による細胞膜への影響は科学的に認められるが、細胞膜損傷と発病や自己免疫疾患との関係は確立されておらず、また多数の実験結 果は低線量、低線量率で発がん誘発率が高くなるという仮説を支持
していないので、更に研究が必要である」としている。

武田修三郎氏は第0章で「ソクラテスは、ソフィストを知の売春婦として忌嫌ったといわれる。アリストテレス以来最大の論理学者の一人であるラッセルは   現在の大学教授や専門家をソフィストとした。なぜ、その彼らをソクラテスは忌み嫌ったのか。それは、彼らが自分の専門や、狭い自分だけの知識をひらけさせ るこ とにある。しかし、実は、知や思考は、経済と同じに合成の法則ではなく、合成の誤謬則(パラドックス集第14番)のもとにある。現代のソフィストの自説の意見の押し付けも同様害にな る。

と書いている。

1977年のカーター大統領のとき、核拡散防止条約批准のとき、はじめて日本はこれは不平等条約だとしてアメリカ―に初めてノーといったが通らなかった。 ライシャワーは「グローバリゼーションは新たな文明である。そしてそのためには認識を変える必要がある。それを行うのは教育である」といった。

Rev. April 2, 2013

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