読書録

シリアル番号 1008

書名

孤絶の諷刺家 アンブローズ・ビアス

著者

西川正身

出版社

新潮社

ジャンル

伝記

発行日

1974/4/10発行

購入日

2009/3/23

評価

新潮選書

パスポート申請の帰り、藤沢駅構内の古書市で買う。芥川龍之介は彼の作品に惚れこんだことは有名。友人別役実の「当世悪魔の辞典」はアンブローズ・ビアスの作品をもじったものだろう。

高校生時代にアメリカ人の女の子と文通していて、両親があなたの名前はイカボッドを連想すると言わっていると書いてきた。調べてみるといかがわしい人物だったようで、気分を害して文通をやめたことがある。

この本を読むとサウス・ダコタのブラックヒルズで砂金が発見されたとき、ここにやってきたイカボッド・M・ウェストなる男が人々に株を売ってブラックヒルズ砂金採取会社を設立した。しかし経営 がいい加減で弁護士にたのまれてピンチヒッターに立ったのがアンブローズ・ビアスだったというところを読んで、世の中は狭いと思う。

芥川の名作、「藪の中」はビアスの短編「月明の道」からヒントを得て書かれたものという。これが黒沢明の名作「羅生門」として欧米で絶賛されたわけが分かる。

ビ アスは「一時的な精神異常に二種類あって、一つは自殺に、いま一つは結婚に終わる」という警句を残している。南北戦争の北軍に志願して従軍し たとき、おさな馴染みのファティマと婚約した。シャーマン将軍指揮下で中尉としてアトランタ攻略直前にピケッツ・ミルの戦い参加して重傷を負った後、ファ ティマから婚約解消の申し出を受けている。

ビアスはこのピケッツ・ミルの戦いのとき、前面に敵が待ち受けているのを発見、報告したのにシャーマン将軍が無視し、攻撃続行を命じたこと、アトランタ西 北マイルのケネソー山攻略の時正面攻撃はさけて側面攻撃すべしと進言したにもかかわらずシャーマンは正面攻撃にこだわってしっぱいしたと後日ビアスは The Crime at Pickett's Millという一文を草して批判した。なにかシャーマンは無能な乃木将軍を思わせる。こうしてビアスは将軍というものすべて、いや指導層すべてに疑惑の目 を向けるようになったのだ。これは私も同じでいまだに、「日本の政治・経済の不調の原因」などという雑文を書いている。

そのごビアスは依願除隊し、財務省の役人となって南軍がのこした綿花を合衆国財産として没収する仕事をする。かれは頑として袖の下を受け取るような買収行為は拒否したとされる。

ヘイズン将軍のさそいに乗って、カルフォルニアへの調査旅行隊に加わるが、正規軍の大佐にはなれず少尉だったのでそこで軍を辞して、カルフォルニアに留まることにした。こうして一人のジャーナリストが誕生するのだ。

サンフランシスコで雑誌の編集者になり成功。サンラファエルで妻ととなるメアリ・エレン・デイと会う。その後妻の父がだしてくれた資金でロンドンに出る。

3年後に先に帰っていた妻を追って帰国し、妻とも別居し、その後、ウィリアム・ランドルフ・ハーストと長い関係を持つ。再晩年、妻と息子を失った後、かっ て従軍した南北戦争の古戦場を歩き回った後、ニューオーリンズやサン・アントニオに遊び、メキシコ独立戦争を取材に国境を越えた後、ゆくへ不明となる。 71才。

アンブローズ・ビアスの警句を幾つか採集した。12771278127912801505である。

Rev. March 3, 2013


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