原発再稼動の不都合な真実

グリーンウッド

 


藤沢数奇著「『反原発』の不都合な真実」というトンでも本がでた。感情論を超えた議論のために。リスク分析からの視点とあるが、原発の最大のリスクは長期 間住めないところがでることを無視して事故の死者数だけで比較し、原発は安全で全く問題なしと強弁するトンでも本である。これが結構売れているというから 世の中には物事の本質を理解できない人が大勢いるようだ。そうこうしているうちに物事が分からない人達の集まりの最右翼、野田首相は原発を安全だと専門家 がいうから私の責任(私の権限で)で再稼動したという。専門家とは誰か?どうしても動かしたい村の連中だろう。やむを得ない。再稼動の不都 合な真実をここに列挙しよう。

ナチス・ドイツの宣伝相のパウル・ヨーゼフ・ゲッペルスは「嘘も百回言えば本当になる」とうそぶいた。ゆえに野田首相はナチ並みということになる。



メルトダウンは防げない

電力供給経路は1系統のみ。地震・津波がなくともバッテリー上がり、メタルクラッドの故障、リレーコイルの断線、ケーブルの絶縁破壊、ネズミ、突発停電、太陽嵐による電力網の破壊、などで電源が失われる。電力がなければ運転情報は断絶し、電磁弁コイル断線で 遠隔弁の開閉すら出来なくなり、圧力容器減圧、崩壊熱除去が困難になる。電力だけではない、計装用空気配管が地震で破壊されれば、空気作動の遠隔弁は操作不能に陥る。

消防車による水注入のために仮設バッテリーとボンベで減圧するにしても、減圧している間に蒸発で水を失い、崩壊熱でメルトダウンに至る。

津波で海水取水が不可能になり、消防車しか水源がなくなり、崩壊熱除去が困難になる。

メルトダウン熱で水位計が誤動作。

保安院は電源車を用意し、緊急時に使う弁の動作確実性の向上を図ると抽象的な表現をしていて政治的人心操作しているだけだ。冷却にかかわる格納容器内部の 電動隔離弁と電源車を結ぶケーブ ル、スイッチギ ア、リレー回路、直流電源に関し1系列以外に、非常 冷却系のバックアップとして電動弁以外の異なる駆動形式の隔離弁(空気または油圧)を並列に持てと具体的には要求していない。全てがだめなときの手動弁バックアップなどの規定もない。これでは 深層防護とはいえないだろう。2010年のBPのメキシコ湾の防噴装置は3重のバックアップが、空のバッテリー、ソレノイドコイル断線、通信機能損失です べて失われ、広範な海洋汚染を引き起こした。原子力発電で1重のバックアップということは理解を超える。全てこれらの心筋梗塞状態に 陥る可能性を 除去するための多重化もなしの 拙速の再スタートは、ロシアンルーレットとおなじである。



リレー

冷却水を高圧の炉心に注入するためには空圧駆動の減圧弁を開けなければならないが、窒素を送り込むソレノイド弁が直流電源損失で開閉できず、格納容器内圧 があがると窒素圧不足で開弁不能。格納容器内圧をさげるために格納容器ベントしようにも、計装空気配管が地震で破断したのか開弁できなかった。にもかかわ らず地震と津波に気がとられて保安院はストレステストの項目にもしない。

こうして中央給電式の直流電源喪失後にはこれら遠隔操作弁を遠隔操作できない。それぞれの制御ロジック回路にはそれぞれ専用のバッテリーを内蔵させなければ 片手おちというものだろう。

このように保安院は基本設計の瑕疵には触れず、周辺のどうでもよいパッチ当て30項目を作成していた。政府はたった2日の検討でこの30項目を即席基準と して泥縄的に地元説得しようとしている。そもそも保安院にしろ、安全委員会にしろ、原子力カルト集団の人間がそこに居座る限り、自己正当化する。彼らを更 迭し、外から汚れていない人材を任命しなければ正しいことは行われにくい。電力会社と利害を共有する地元首長は唯々諾々として再稼働に同意する。きわめて腐敗した構造だ。

再稼動なくして日本の産業の将来はないというが、日本の産業がだめなのは原発事故前からの症状ではないか。日本脱出可能な産業はすでに空洞化している。米カルフォルニア大バークレー校のD・ティース 教授の指摘のとおり、日本の産業界はソニーに代表されるように「動学的能力」が欠けているから無益な価格競争で疲弊したのである。動学的能力とは新たな収 益機会を迅速に識別し、既存の有形、無形の資産と組織形態を迅速に再編成する能力である。

井上智洋(進化経済学会論集第16集C2-2,2012年3月)の言葉で締めくくろう。「原発は自動車の走行と同じく確率的暴力である。この不確実性が人 々に脅威を与える。行動経済学では、人は不確実性を嫌悪する傾向にある。これを『曖昧性の回避』(risk aversionではなくambiguity aversion)が実験的に確認されている。このような不確実性が不効用をもたらすわけで、原発の忌避は合理的行動ということになる。原発維持派は不確 実性がもたらす不安感を功利計算勘定に入れ忘れている。リバタリアニズム(自由至上主義)からみれば、保険で賠償可能であれば原発稼働も可とする考えもあ りそうにみえるがそうではない。まず保険を引き受ける保険会社はない。それに市場が機能するためには賠償額が先にきまっていなければならない。しかし賠償 額は事後的に裁判所できまる。だからここに市場メカニズムは作用せず暴力的収奪のみが残る。すなわちリバタリアニズムは原発には適用できない。だから原発 は事故を起こしてなんぼという権利侵害の前に、建設・稼働そのものが権利侵害になるということ。だから事故を起こした時だけ責任者を処罰して済む話ではな い。被害がおよびそうな地方自治体とあらかじめ保証額を取り決めることもリバタリアン原則に違反する。なぜなら個々人と賠償額を取り決めてないからであ る。(従軍慰安婦問題が発生する)仮に地方自治体が民主主義的手続きで原発受け入れを決めたところで、一人でも原発に反対すればリバタリアニズムからみれ ば合意なしの取引となる。すなわち暴力的収奪とみなされてもやむを得ない。結果として原発は無宿の地でしか稼働は許されない。こうして「功利原則」と「リ バタリアン原則」に照らし、原発再稼動の主張は一見合理的にみえてじつはそうではない」

<BWR>

ー福島ー

圧力容器は格納容器上端に近接して設置されているため、水棺方式は不可。

上下方向1,800ガル以上で燃料集合体が飛び跳ね制御棒挿入不可、核分裂継続の可能性有り。(女川3号機では縦横13センチ、長さ4.5メートルの筒状 燃料集合体のジルコニウム製のカバーが1,386体中、10数体は2センチ程破損している。(地震時炉内にあった集合体は500体)2%が上部格子板と当 たって破損したとしか考えられぬ。2号機についても同様の損傷がないか調査中。このように制御棒挿入不可の可能性が残っている)

アイソレーション・コンデンサー(IC)の自然循環配管の隔離モーター弁が電源損失で開弁不可。

タービン駆動のRCICも電源喪失で蒸気隔離弁を開けられず、崩壊熱でメルトダウン。

バッテリー動力駆動のECCSもバッテリーが上がれば崩壊熱でメルトダウン。

ー女川ー

女川は敷地高さが津波より高かった故に東北地震にも生き抜いた実績をもっているが、東北電力常務取締役渡部孝男氏の資料をみると、規制委員会が要求していないことは何もしていない。

例えば非常用高圧電源盤が依然として原子力建屋の付属施設地下に設置されている。そもそ電源盤は水没すれば、非常用発電機からの電力を非常用ポンプに送れなくなるのに、いまだに建屋の底に設置し続けるのは非常識。

女川は敷地高さがあっても2号炉の補機冷却海水ポンプの電源ケーブルを通す洞道を通って海水が原子炉建屋付属棟(非管理区域)に流れ込み、補機冷却系が全 系統使用不能になっている。このほかにも一号機高圧電源盤も接続導体と周辺の構造物が接触短絡し、火災が発生している。原子炉は複雑な構造なので、何が生 じてもおかしくない。

そもそも電源盤とか弁開閉のスイッチとは原子炉建屋内のあらゆるところに設置され、これらが水没すれば、安全装置としては役に立たないばかりか逆作動する こともありうるわけだ。沢山の遮断弁で安全確保するというBWRの設計思想が破綻しているわだから、再稼働前提の規制委員会はパペット化せざるをえない。

フィルタベントの備蓄水量にも言及ない。これみると東北電力が安全対策に特別優れているようには見えない。お上の言うことに従うフリをしているだけ。


<PWR>

蒸気発生器をICのように自然循環で使える。BWRのICのように隔離弁もなく冷却の確度は高い。

またRPVは格納容器の中心に鎮座しているため、必要なら水棺も可能。

原子力潜水艦や原子力空母のPWRは、原子炉が水面下にあるため海水を重力で流し込み水棺にできる。

封じ込めの脆弱性

<BWR>

格納容器対圧力容器容積比=20で小さく窒素置換。また格納容器設計圧は4atm。

福島事故でBWR炉の封じ込めのための格納容器の脆弱性がクローズアップされた。BWRは使用済み燃料取り出してプールに移すために格納容器上部に圧力容器蓋を取り出せる 直径数のふたがある。この交換は水張り下でおこなうために圧力容器と格納容器の間には水漏れシール(ダイヤフラム?)があってクリアランスはほとんどな い。メルトダウンすると圧力容器の温度が700Cまで上がり、赤熱する。直近の格納容器蓋も放射熱で高温になりゴム製のパッキンは焦げてガスがもれるの だ。

保安院は再稼働に当たって、ベントフィルターを付けるだけでよしとしているが、メルトダウンすれば格納容器内部の温度が高温となり、格納容器壁を貫通する ケーブル類のシールが高温で溶融し、格納容器蓋のボルトが伸びて、放射能が直接漏れ出てくる。ベントフィルターを追加してもこれをバイパスする漏れのた め、折角のフィルターは役に立たない。

圧力容器下部貫通炉内核計装ハウジング下端はPWRのようにシールされていないため、汚染水素ガスは部分メルトダウンで洗浄されぬまま格納容器にもれでる。

使用済燃料プールが高層階にあり地震で倒壊、燃料棒破損のおそれ。


BWRとPWRの格納容器内での使用済み燃料棒搬出法

<PWR>

格納容器対圧力容器容積比=200で大きいのて窒素置換はしない。メルトダウンすれば必ず爆発する。格納容器設計圧は通常4atmであるは大飯1,2号機はアイスコンデンサー付きとし設計圧は1atmでBWR並み

PWRは燃料交換を格納容器頂部で行う必要がないからトップフランジがなく、もれる可能性はない。

圧力容器は格納容器中心に鎮座し、仮にRPVが赤熱しても格納容器が破壊されるまで漏れにくい。

逃がし弁のスクラバーはあるしスプレイもあるのでがあるので冷却と洗浄は可能。

圧力容器下部貫通炉内核計装シンブル案内管はシールされており、部分メルトダウンで汚染水素ガスが格納容器にもれでることはない。

使用済燃料プールが半地下にあり、地震で倒壊、燃料棒破損のおそれなし。

米海軍の炉はすべてリッコーバー提督のこだわりの炉でPWRと聞く。


考察

べき分布はシステムが複雑で創発性をもつというところに本質があるのだろう。だからPRAでは予測できない。とはいえメルトダウンまでの確率と、ガスが漏れて 環境に放出されることは分けて考えられるのではと感ずる。なぜならスリーマイル事故だけ他の事故のべき分布に乗らないからだ。システムの差がでているわ け。その原因がどこにあるか考察したのだが、どのシステムにも共通なものとしてBWRの格納容器と圧力容器の位置関係にあるとにらんだわけ。ほとんどシャ ムの双生児のような構造で水も漏らさない構造だから一体として壊れてしまい、封じ込め隔壁として機能しないわけ。

こうしてBWRと大飯原発1,2号機のPWR、ロシアのチェルノブイリ式RBMKがヤバイ炉ということになる。世界には BWRが73基、RBMKが8基だから2,100炉年に1回の確率だとすると今後25年間にどこかで1回福島級が発生することになる。むろんメルトダウン 事故はもっと発生するだろうが、PWR は汚染はスリーマイル程度で済む。ヤバイ炉所有国とその基数は下記の通り。

米国     BWR x 27
日本           BWR x 28 +  PWR w/Ice condenserx 2
台湾           BWR x 6
スエーデン   BWR x 6
ドイツ          BWR x 3

ロシア         RPMK x 8

燃料棒を格納容器頂部から取り出すBWRというチョンボな炉を導入したのは米国自身と日本、台湾、ドイツ、スエーデンだけで英国はガス冷却炉、フランス、 カナダ、インド、中国、韓国はすべてPWRかCANDUだ。かれらは賢い。日本は独自判断がなく、ただ押し頂いた技術隷属国といえる。これも技術がわから ない人が政治主導できめた結果だろう。PWRをたたまま選んだ西日本も歴史的にウェスティングハウスを使っていたというだけの技術的な自主性があったとは いえない。これが私が文系が国を誤るという所以なわけ。故矢木栄東大教授(後千代田化工の副社長の天下る)が日本の原子力を自主開発か技術導入かを決める 委員長のとき、技術導入と採決したと聞く。骨のある学者ではなかったから各方面からの圧力を受けて日和見したのだろう。物理学者で自主開発派の武谷三男や 辞表を提出した坂田昌一先生にショックをうけた。しかし東大第二工学部をつくった兼重九郎教授の支持で技術導入を最終決断した。しかるに本人は賢明にも原 子力に嫌気をさして原研所長を 引く受けなかったという歴史がある。

BWRの欠点は今回の事故で新たに明らかになったものだ。私が不思議におもうのは調査委員会のなかにこれを問題視する委員がいないこと。これも村 主導の調査委員がその点に気が付いていないか意識的に認識したくないためだろう。仮に気が付いてもこのような見解で不利になる企業がでてくるのでどこかで消されてしまうだろう。

日本では断層とか老化で廃炉の優先順位を決める考えがあるが、むしろBWRから先に廃炉にするのが理屈にかなう。

このBWRとPWR比較論を整理したものはBWRの構造的欠陥参照。


2014年9月、原子力規制委員会による審査の結果、新たな規制基準で初 めて合格し、2015年に川内原発が再稼働したが、地震学者の石橋克彦氏(元国会事故調査員(神戸大学名誉教授)は最新の地震学から見て、川内原発は、新 たな規制基準をクリアしたとは言えないと指摘する。

「新規制基準の規則で定められているのは『内陸地殻内地震』『プレート間地震』『海洋プレート内地震』それぞれについて、敷地に大きい影響を与えると思わ れる地震を検討用地震として選定して、それぞれについて地震動を評価しなさいと決まっているのに、九州電力は『内陸地殻内地震』しか取り上げていない」

4年前の東日本大震災。福島の原発事故を受けて、より厳しくなった新たな規制基準では、地震対策の揺れの想定について、震源を特定できる場合、この3種類の地震から、「原発の敷地に大きな影響を与えると予想されるものを複数選定すること」としている。

3種類の地震というのは、「内陸地殻内地震」が、陸のプレート内部が深さ20キロ程度よりも浅い場所で起こる地震、「プレート間地震」とは、南海トラフと 九州の東岸のあるフィリピン海プレートと陸のプレートとの境界面で起こるもの、「海洋プレート内地震」とは、フィリピン海プレートの内部で発生する地震を 指す。

九州電力は、原発の敷地に大きな影響を与える地震は「震度5弱以上」の揺れだと独自に決定、「内陸地殻内地震」だけが当てはまるとした。

それ以外については、ここ数百年に起きた地震(「プレート間地震」:1662年 日向・大隅地域(M約7.5)、「海洋プレート内地震」:1909年 宮崎県西部地震(M約7.6))を挙げて、「震度5弱程度とは推定されない」と説明、検討対象から除いた。

しかし、石橋氏は、原発の地震想定は、一万年から十万年の単位で検証するのが世界の共通認識だから、この2種類の地震(「プレート間地震」「海洋プレート内地震」)についても、検討対象に入れるべきだったと指摘。

実際、政府は、東日本大震災の後に、「プレート間地震」の一つ「南海トラフ巨大地震」の被害想定を公表(内閣府(2012年))。「最大でM9の地震が襲う」とした。ここでは、「川内原発の場所に震度5弱が想定」されているのだ。

「川内原発は震度5弱の領域です。ですから、「プレート間地震」で川内原発は震度5弱程度(大きな影響がない)には達しないと言った、九州電力の主張は明らかに誤りであります。」

「安全側にモデルを作れば、場合によっては川内原発は震度6の領域に入るかもしれない」

しかも、「プレート間地震」は、強い揺れの時間が「内陸地殻内地震」よりもはるかに長いので、より厳しい耐震性が求められるという。


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April 7, 2012

Rev. October 27, 2015


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