人工台風発電のエンジニアリング・モデル

各種ソーラーエネルギー発電比較で各種方式のコスト比較を行なうに当たり、太陽熱で対流風を発生させ風力発電 する人工台風発電の単価はソーラー・ミッション・テクノロジーズ社が公表したソーラータワーに関するデータを使わせてもらった。公表 データから推算すると発電単価は19.9yen/kWhである。 通常の風力発電より高いが現時点でのソーラーセル発電よりはるかに安い。フルスケールの商用プラント稼動前のため、その技術的健全性を見極める目的でリ バースエンジニアリングを行なったのでここに紹介する。

この技術はドイツの研究開発省が考案した仕掛けである。地表を透明なプラスティックフィルムまたはガラスで円形に覆い、 フィルム下で太陽光で暖められた空気が円形のソーラーコレクターの中央に建っている中空の風洞に流れ込み、風洞内外の温度差に対応する空気密度差で生じる 風駆動力で塔底部に多数設置されているウィンドタービンを回すという原理の応用である。その概念図はおおよそ下図のようになる。

solartower.gif (8319 バイト)

1982-1989年にかけてプロトタイプのプラントがスペインのドンキホーテゆかりの地、カ スティリア・ラ・マンチャ地方のマンザナーレで稼動した。この概念を最適化して実用可能な発電単価まで下げ、オーストラリア、ニューサウス・ ウェールズ州のウエントワース・シャーに建設しようというプロジェクトを州政府も出資するエンバイロンミッション社が 推進中である。

さてプロトタイプと商用第1号プラントに関し、公表されたデータは非常にすくない。少ないデータからシステムの諸パラ メーターを再構築するには熱力学、流体力学に矛盾しないシステム・モデルが必要となる。そしてそのモデルはすべてハンドブックなどに掲載されている式をつ かって構築した。こうしてモデルと公表データの乖離をタービン入口の縮流係数を補正するパラメータ、アルファでおこなった。

ソーラーコレクター・モデル

ソーラーコレクターは平らな地表に高さ数メートルの鋼製ポールを立て、その上に鋼製ワイヤーを張って0.1mm厚のフッ 化ビニル樹脂製のプラスティック・フィルムで覆っただけの簡単な構造である。 透明フィルムを透過した太陽光は空気加熱、夜間冷却した地面の再加熱に使われるが、残りは地面からの赤外輻射として宇宙に再放射されて失われる。こうして 熱吸収効率ηcには限度がある。この熱吸収効率は下式より空気の入口と出 口温度と太陽輻射から逆算できる。

放射照度(Solar Emission)はIEC60904-1 AM1.5基準として1kW /m2と した。

コレクター受光面積は

Ac=(π/4) dc2      (m2)

ここでdcはコレクターの直径   (m)

太陽輻射エネルギーQは

Q=860.1 Ac     (kcal/h)

巻末のコレクターの熱収支モデルから計算される熱吸収効率をηc(%)とすればコレクターで空気 が吸収した熱Qc

Qc=Qηc/100 

かつ

Qc=G (ii-io)  (kcal/h)

ここでG(kg/h)は空気の総質量流量で、iiとioはコレクター入口 温度tiと出口温度toでのエンタルピーである。ここでΔt=to-tiは コレクターでの温度上昇である。空気のエンタルピーiは窒素と酸素のそれぞれの温度の多項式から計算し、窒素79モル%、酸素21モル%として加重平均し て求めた。空気中の湿度は無視した。

i=(0.79 (6.5 (273+t)+0.001 (273+t)2/2)+0.21 (8.27(273+t)+0.000258 (273+t)2/2+187,700/(273+t)))/28.8     (kcal/kg)

コレクター入口と出口の空気の比容積は平均分子量28.8の空気1kgmolの0度C、1気圧(10,332Kg/m2) における容積は22.4m3であるから、理想気体仮定で:

v=(22.4/28.8) (273+t)/(273+0) (10,332/pi)        (m3/kg)

ここでpi (Kg/m2)はコレクター入口の大気圧である。

空気の比重ρ は

ρ=1/v    (kg/m3)

コレクターはフィルム製のため、コレクター内部圧力は大気圧である。したがって吸収された熱エネルギーは空気の温度を上 げるだけで圧力のエネルギーには変換されない。この高温の空気が風車を通過してドラフトタワーに入って初めてタワー内外の温度すなわち密度差が内部空気の 浮力に転換される。この浮力は圧力変化にはならず、速度のエネルギーに変換されるわけである。

コレクターでの摩擦損失エネルギーFhと圧力損失Δphは下の Fanningの式を使った。

Fh=f 4 (u2/2 gc) (r/dh)      (Kg m/kg)

Δph=ρ Fh       (Kg/m2)

ここでr=dc/2はコレクターの半径、uはコレクター内平均流速、dhは コレクターの平均流動相当直径である。

直径dcのコレクター周辺部の入口のカバー高をZi とすると吸入口断面積 ai、入口流速 ui、入口流動相当直径 dhi

ai=π Zi dc      (m2)

ui=(G/3,600) vi /ai     (m/sec)

dhi=2 Zi pdc/(Zi + pdc )     (m)

コレクターの中央にある塔径dtの1.4倍の円周をコレクターの出口とし、出口のカバー高をZoと すると出口断面積 ao、出口流速 uo、出口流動相当直径 dho

ao=π Zo dc      (m2)

uo=(G/3,600) vo /ao    (m/sec)

dho=2 Zo 1.4πdt/(Zo + 1.4πdt )      (m)

故に、

u=(ui+uo)/2      (m/sec)

dh=(dhi+dho)/2         (m)

乱流域でのファニングのフリクションファクタ(摩擦係数)はレイノズル数Re=ρ u dh/μが中間領域にあるため下式を採用した。fは収斂計算で解く。

1/SQRT(f)=-4log10((e/dh)/3.71+1.26/(Re √(f))))       (-)

ここで空気の常温における粘土はm=0.018c.p.=0.000018kg/m sec、地面とカバーの平均粗さを e (mm)とした。

タービン入口絞り機構モデル

コレクターからタービンに入る絞り損失は乱流域では下式が成立する。

Fc ζuo2/2 gc     (Kg m/kg)

Δpc=ρ Fc       (Kg/m2)

ここで急激な絞り損失係数xを絞り面積比a2/a1=u1/u2か ら求めるペリーハンドブック掲載のRouseのデータを使った。収斂計算を自動化するためRouseのデータに一致する下記のグリーンウッドの相関式を 作った。

ζ =0.5 EXP((-10(u1/u2)2+10(u1/u2 )-5) (u1/u2 )2.2 )     (-)

contraction.gif (11986 バイト)

絞り面積比a2/a1と急激な絞り損 失係数ζ   の相関

αは緩やかな絞りへの補正係数で、オーストラリアの公表データ から逆算する。いわばモデルの全系の損失をこの係数で現実にあわせる戦略である。

ウィンドタービンモデル

大気中に風車を設置すると空気がブレードを避けて拡大することができるため風車を通過する空気量は減少する。この割合は ベッツ係数といい、16/27だが、カウルのある場合はすべて風車を通過するためベッツ係数は1である。従って風車で回収できる理論動力Eは風車に入る空 気質量mに風車に入る速度エネルギーui2/2 gcと出る速度エネルギーuo2/2 gcの差を乗じたものである。

E=m (ui2-uo2)/2 gc      (Kg m/sec)

ここでここで風車に入る空気質量は

m=G/3,600     (kg/sec)

軸出力はこれにブレード効率ηbを乗じたもので、電気出力は発電機効率ηgを 乗じたものである。

ηbがブレード効率、ηgが発電機効率とすれば軸端出力と発電端出力はそ れぞれ

Shaft Power=(ηb/100) E/101.972/1,000  (MW)

Power Output=(ηg/100) Shaft Power     (MW)

風車以外の流路は遮断して全量が風車を通過するような構造にするため、風車に入る風速は風車の口径によって決まる。風車 に入る風速ui (m/sec)、風車の台数n 、風車の断面積a  または風車の半 径r (m)、空気の比容積viのとき

ui=(m/n) vi /a  = (m/n) vi/ (πr2)      (m/sec)

故に  

r =√(m/n) vi/(πui )     (m)

ドラフトタワーに入る風速uiは浮力Δpdと摩擦損失Δplのバランスで決まる。設計時は浮力と摩擦が一致する流速を探せばよいことにな る。

風車を出る風速uoはドラフトタワーの内径dtで決まる。

uo=m vo/at     (m/sec)

at=(p/4) dt2    (m2)

タービンでの抽出量FtΔpt

Ft= (ui2-uo2)/2 gc    (Kg m/kg)

Δpt=ρ Ft      (Kg/m2)

ドラフトタワーモデル

塔高 Z (m) の塔頂の気温は米国航空宇宙局(NASA)が公表している下の標準大気の気温分布式より求めた。

to + 273=(ti + 273) - 0.0065 Z      (oC)

おなじく米国航空宇宙局(NASA)の式を使い塔頂の気圧pは

po=pi (1- 0.0065 Z/(t0 + 273)5.2569      (Kg/m2)

塔壁の摩擦損失エネルギーFfと圧力損失Δpfは下のFanningの式 を使った。

Ff=f 4 (u2/2 gc) (Z/dt)      (Kg m/kg)

Δpf=ρ Ff       (Kg/m2)

乱流の粗面管のファニングの管摩擦係数はレイノズル数Re=ρ u dt/μ が 充分大きいので下式を採用した。

f=(1/(2.28-4 log (e/dt)))2    (-)

ここで空気の常温における粘土はm=0.018c.p.=0.000018kg/m sec、壁面の荒さ、すなわち凸凹の高さを e (mm)とした。

塔頂で大気に放散される速度エネルギー損失Fe とΔpe

Fe=uo2/2 gc      (Kg m/kg)

Δpe=ρ  Fe      (Kg/m2)

塔壁を貫通して失われる熱エネルギーQtは熱伝導度k の保温をz (mm)内張りし、塔内外の温度差を ti-ta (deg. C)とすると

Qt=At (k/z) (ti - ta)      (kcal/h)

ここで岩綿を使えばk = 0.05(kcal/m/h/C))

At= π dt Z      (m2)

コレクターと地表との摩擦損失Fhは断熱系でないので保存されないが、塔底タービン入絞り損失Fc、 塔壁との摩擦損失Ffに相当熱Qfは塔内の湿った空気を暖め浮力に貢献する。

Qf=G(Fc + Ff)/J     (kcal/h)

ここで、J=423   (Kg m/kcal)

タービンを通過した空気は広い風洞に入って風速が減ずるだけで気圧は変わらない。しかし温度はタービンブレードの損失と 塔壁との摩擦熱でわずかであるが上昇し、塔壁から外気への熱損失で下がる。タービンブレード損失相当熱Qbは、

Qb=E (1 - ηb/100 ) /(G/3,600)      (kcal/h)

結果、塔頂温度toは、

to=ti + (-Qt + Qf + Qb)/(G Cp)     (oC)

ここで比熱Cpは空気中の水分は無視して下式で推算した。

Cp=(0.79 (6.5+0.001 (273+t)) + 0.21 ( 8.27+0.000258 (273+t)-187,700/(273+t)2))/28.8       (kcal/kg C)

摩擦損失などで塔頂温度が上がれば、浮力も増える。この計算はループ構造になっているので収斂計算が必要になる。

高度差が大きくなると無視できなくなる断熱膨張による温度効果も算入することにしているが、これは次回発表に含める。

圧力バランス

塔高Z (m)のドラフト効果による浮力Δpdlは 外気の平均密度ρoと塔内平均密度ρi から

Δpdl=(ρoi ) Z   (Kg/m2)

全系の圧力損失は

  Δpl=Δph + Δpc + Δpt + Δpf + Δpe     (Kg/m2)

定常状態では下式が成立する。

Δpdl= Δpl     (Kg/m2)

以上でシステム全体のモデル記述は完了である。エクセルで170行のプログラミングをした。コレクターでの熱吸収率hcは塔内速度uから逆算される空気の質量流量Gとコレクターでの温度上昇Δt=to-tiからストレートに計算できる。摩擦係数、摩 擦損失と熱損失の浮力への影響、浮力と摩擦損失がバランスするタービン入口風速の計算はエクセルのソルバー機能を使って収斂計算をした。

ついでに付録としてソーラーコレクターの詳細解析モデルを添付する。

ソーラーコレクターの熱収支モデル

実験結果のシステム解析でコレクターでの総合熱吸収率ηcが帰納法でもとまる。一方カバーと地表 との熱伝達のメカニズム と熱収支モデルからも演繹的に求めることができる。

ソーラーコレクターを流れにそって分割し、各区分に関し以下の熱収支計算を行うのが理想であるが簡単のため、分割していないモデルで計算した。

Kirchhoffの法則によれば黒体から発する熱輻射線が黒体と同一温度の実在固体表面に投射するとき、熱輻射線の強 度スペクトル分布は同一のため、その表面の吸収率aは熱放射率εに等しい。

a = ε

しかし太陽と地表のように温度が等しくないときは熱輻射線の強度スペクトル分布が変り、太陽光の吸収率 as = εs は太陽の表面温度(6,000oK)の関数 になる。

従ってカバーに吸収される太陽の熱輻射は。

Qsc= as Q  (kcal/h)

太陽光の主力たる6,000度Cに相当するスペクトル部分はカバーを透過して地表に到達する。この熱をQseと すると

Qse= Q - Qsc = Q (1 - as )   (kcal/h)

ここに(1 - as )  は太陽光透過率ηsと定義すると

Qsc= Q (1-ηs)   (kcal/h)

Qse= Q η  (kcal/h)

カバーの温度をtcとすると黒体放射はStefan-Botzmannの式で表される。

E=4.88((t+273)/100)4     (kcal/m2 h)

カバーからほぼ同じ温度の周辺に輻射される熱放射率εは カバーの表面温度の吸収率acと等しい。このときカバー上面からは宇宙に向けてQcuが放射される。また下 面では地表に向けてQce量が放射される。

Qcu= Qce=Ac εc Ec    (kcal/h)

QseやQceは地面に吸収されて地面の温度上昇をあげる。この温度をteと すると地面から宇宙への黒体放射はStefan-Botzmannの式で表される。

Ee=4.88 x ((te+273)/100)4     (kcal/m2 h)

地表の熱放射率をεe = aeと すると地表から赤外線輻射損失Qe

   Qe=Ac εe Ee    (kcal/h)

このうち一部はカバーに再吸収される。カバーの吸収率acのとき

Qec=Qe ac (kcal/h)

残りはカバーを透過し、宇宙に永久に失われる。 

Qeu= Qe (1-ac)   (kcal/h)

ここでηrはカバーの赤外線透過率と定義すると ηr = (1-ac)

Qec=Qe (1-ηr) (kcal/h)

Qeu= Qe ηr  (kcal/h)

さて地表上を流れる空気の強制対流伝熱係数heaは平板上を流れる空気のレイノズル数乱流域に 入っているのでヌッセルト型で

hf=0.036Re0.8 Pr(1/3)   (k/r)      (kcal/m2 h oC)

ここでレイノズル数 Re=ρ x u x r/μ、プランドル数 P =Cp μ 3,600/k。

空気の熱伝導率k=0.0276(kcal/m h C) 、rはコレクターの半径(m)であ る。

地表上を流れる空気の自然対流伝熱係数hn

hn=1.3 Δt1/3           (kcal/m2 h oC)

地表とその上を流れる空気の間では下記の伝熱が行なわれる。

Qea=Ac (hf + hn) LMTDea  (kcal/h)

ここで地表と空気の対数平均温度差LMTDea

LMTDea=( Δti - Δto)/(2.3log(Δti/Δto))             (oC)

ここでΔti=te-tiは入口での温度差、Δto=te-toは 出口での温度差である。

カバーとその下を流れる空気の間では下記の伝熱が行なわれる。温度差をLMTDacとするとhは 地表との強制対流伝熱係数と同じであるから

Qac=Ac hf LMTDac   (kcal/h)

カバーとその上を吹く自然の風との間には下記の伝熱が行なわれる。外気温度とカバーとの温度差をLMTDcwと し、風速からhw を計算するとして。

Qwc=Ac hw LMTDwc   (kcal/h)

簡単にするため、空気は太陽光と赤外線に関し完全透明と仮定するとカバーに関しては次ぎの熱収支が成立する。

Qsc + Qec+  Qac + Qwc= Qcu + Qce    (kcal/h)

地表に関しては次ぎの熱収支が成立する。

Qse + Qce= Qea + Qe    (kcal/h)

したがってコレクターでの熱吸収率ηc

ηc=100 Qc/Q =100 (Qea-Qac)/Q   (%)

となる。

本解析にあたっては森永晴彦、千葉孝男 、友眞昌太郎三氏のご指導をたまわった。ここに感謝いたします。

April 4, 2004

Rev. July 29, 2005

このエンジニアリング・モデルはその後、改良を加えました。詳細はインタナショナル・ ワークショップでグリーンウッド氏が発表した「人口台風発電」 をご覧ください。

Rev. December 5, 2011


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