2016年7月31日、NEWフォーラムの第25回目として別役不条理劇観劇会2が開かれた。前回は『星の王子様』がテーマであったが、今回は「かぐや姫伝説」がテーマという。題して「月・こうこう・風・そうそう」。新国立劇場、小劇場が舞台だ。
朝
日新聞に別役氏のインタビュー記事が掲載されていた。そのなかで「かっての高度成長期は世の中が単純で、不条理劇は書きやすかった。しかし最近は現実のほ
うがあまりに不条理になってしまい。劇作家は苦労
する。西洋で発達したブラックユーモアは日本では湿度が高すぎる。も少し乾いた日本的なグレーなユーモア、芭蕉の俳句みたいなものをめざしています」と
いっていた。女性記者に「恋愛は取り上げないんですか」ときかれ「ないかもね」。ただ三島由紀夫の「潮騒」のような恋愛劇は書いておきたい気はある。とのこ と。
新国立劇場は初めて訪問。ただやたら大きく、トイレが小さく、長い行列ができる。
劇は一言で言ってよかった。「星の王子様」のバリエーションはなかなかなじめないところがあったが、今回はシチュエーションは純日本的で舞台装置もよくできていて感情移入が容易にできた。知っている役者は「ごぜ」を演じる竹下景子だけだが、そういう有名人は不要だ。
この劇にはいろいろ怪しげな人物が多数登場するが、なかでもミカドが謎だ。憲法9条改正の本当の目的は憲法を統治者にとって都合のよいように変えようという悪党どもの魂胆だ。当然ミカドが安泰であり、万世一系の男系でなければならないことになる。無論、別役氏が現役のミカドの心のうちを知っていたわけではないではないだろうが、この劇がこけら落としするころ現役のミカドが生前引退の希望を表明するだろうと報じられている。憲法改正を企んでいる悪党一派にとっては非常に都合の悪いことだ。ミカドが彼らのアキレス腱であると感ずる作家の無意識の感性が掘り当てたのではとこの劇を見ていてふと思った。
ミカドが憲法9条を連想させたのは竹林の向こうに輝いていた月が突然真っ赤になって、それが日章旗を連想させたためかも知れない。弓に矢をつがえて引き絞って客席にも向けるのではないかという恐怖感もあった。別役氏が投げた謎は実世界でどう展開するのだろうか?
このフォーラムのメンバーは作家と同世代で、竹林に住む老夫婦も同世代ということになる。冒頭で老夫婦が、心中しようとしているのをみて、われわれもそういう世代の仲間入りしたんだと痛切に感じた。肝心の別役氏は体調がすぐれないとのことで、会えなかった。
三ッ井、進藤、小粥、小笠原、田中、青木
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August 1, 2016