DME 対 CNG

先日トヨタ自動車系の某商社の部長からジメチル・エーテル(DME)についてどう思うか聞かれた。DMEは 天然ガスから合成できる液体燃料の一種だ。

私は「エンジニアリング企業在職中の1997年頃DMEをLNGの次の商品とすべく随分電力会社、商社、自動車会社に売り込みしたが、引退した今は天燃ガスをDMEに変換して自動車燃料とするよりも、圧縮天然ガス(CNG)として使ったほうが残り少なくなった地球由来資源の温存と温暖化防止に余程貢献すると考えるようになりました。そもそも天然ガスを触媒を使ってDMEに変換する過程で約30%のエネルギーが失われる。LNGの場合はこれが10%です。ウエル・ツー・タンク効率 からすればCNGの炭酸ガスの放出量は少ない。仮に温暖化防止を考慮せずとも、天然ガス資源がピークを迎える2050年ころにはDMEはその転換効率がCNGより低いために価格競争からずり落ちてCNGの一人勝ちになるのではないか。都市ガスシステムがインフラストラクチャーとして整備されているので。都市ガスを各家庭で圧縮してCNGとするベビコンを搭載した車をトヨタが開発して売り出したらよいと思う。ユーザーは家庭のガス栓を車に接続するだけで夜間に車載高圧ボンベに充填できます」と言った。

上の発言はDMEも点火エンジンで燃焼した場合のことであって、DMEをディーゼルエンジンで燃焼させればウエル・ツー・ホイール効率は両者ほぼ同じになる。ハイブリッド車」にまとめたようにCNGを点火エンジンで燃焼した場合とDMEをディーゼルエンジンで燃焼した場合のウエル・ツー・ホイール効率は下表のようになる。それぞれをハイブリッド車にしてもほぼ同じ。

DMEは硫黄も含まず、ディーゼル油としてはセタン価もよく理想の燃料である。あとはどちらが給油のインフラストラクチャー作りに向いているかといことによって普及するかどうかきまる。CNGは高圧ボンベが必要だがDMEもCNG程ではないがLPG並みの圧力容器は必要である。 既存のガソリン、ディーゼル油の給油ステーションとはべつの流通インフラストラクチャーが必要な点は両者とも同じ。

都市ガスシステムを有効利用すればむしろDMEよりCNGのインフラの方が構築が容易ではないかともいえる。夜間は都市ガスシステムには設計容量の10%以下しかガスは流れていないので、車専用のガスメーターをつければ夜間電力料金のように都市ガス料金から設備償却費を割り引いた安い夜間ガス料金とすることができる。結果として税負担のあるガソリンに対抗できるのではないか。このアイディアはむしろガス会社が積極的に取り組んだほうがよいかもしれない。

車種

ウエル・ツー・タンク効率

タンク・ツー・ホイール効率

ウエル・ツー・ホイール効率

圧縮天然ガス車(CNG)(市街地) 90 16 15
CNGハイブリッド車(市街地) 90 37 33
DMEディーゼル車(市街地) 70 22 15
DMEディーゼル・ハイブリッド車(市街地) 70 46 32

DMEもCNGも石油税の対象になっていないという点も同じ。現行の石油税制がDMEやCNGの普及のドライビングフォースになるだろう。DMEは今ディーゼル代替燃料としてトラック業界から期待の目をもってみられているとおもう。こう原油価格が上がったのではやってゆけない。CNGはDMEプラントの完成を待つまでもなくすぐ利用できるのが魅力だ。

一部の学者は石炭からもDMEを製造できるなどと考えて積極的に発言しているようだ。むろん彼らがなんと言おうと勝手だが、水素分の少ない石炭からDMEを合成するには石炭を酸素で部分燃焼させて一酸化炭素を作り、この一酸化炭素で水蒸気から酸素を奪って水素をつくるというややこしいことをしなければならない。結果、炭酸ガスの放出量が天然ガスを原料とする場合より増す。地球温暖化問題を伏せておいて石炭利用を説くのは片手落ちだろう。全体を見ず、我田引水しかしない学者が多すぎる。

天然ガス原料の場合はDMEを合成する水素と一酸化炭素の混合ガスはニッケル触媒を充填した反応器で製造する。ところがとある一流大学の学者は石炭をこの反応器に供給しろと主張したという。勘違いとしてはかなり重症の方である。

かってバイオ系の某大学教授が私の居たエンジニアリング企業の研究者が自由にした研究につき、社内では企業化せずと判断していたものを工業化すると宣伝したらしく、NHKの記者から取材を受け、往生した記憶がある。株価操作するためにしたとしか勘ぐられてもしかたのない行為に驚いた。多分この学者の視野が狭いためなのだろう。学者の権威に目がくらんで愚かな結論に飛びつくよういな愚はしてはいけないということだ。中央官庁の役人は自分の権益のために学者を悪用しようと官学複合体を結成するのでもっとやっかいだ。

October 9, 2005

2003年に事業統合した川鉄、日本鋼管系企業であるJFEホールディングと伊藤忠商事が2005/11/30にDMEを燃料とするトラックの業務用ナンバープレートを取得し、公道走行を始めたと発表した。トラックメーカーはイスズである。8年前イスズの役員達にDMEをすすめたことをなつかしく思い出す。実用化に8年かかったが早いほうだろう。

DMEはLPGのように圧力容器が必要である。フィッシャトロピッシュ合成でGTL (Gas to Liquid)を製造すれば、既存のディーゼル、ガソリン流通システムが利用できる。ただGTLは実用化されているDGMEよりウエル・ツー・タンク効率 が低い。DMEにせよGTLにせよ原油が40ドルになれば採算に乗るが、資源枯渇・地球温暖化の観点から問題がある

Rev. April 18, 2006


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