先東京大学生産技術研究所

エネルギーシ ステムインテグレーション社会連携研究部門

 第1回 ESIシンポジ ウム 

エネルギーシステムインテグレーション

ーその現状と可能性ー

2018年5月9日


 

東京大学 生産技術研究所は、2018年1月よりエネルギーシステムインテグレーション社会連携研究部門(以下ESI)を設立し、4月より本格活動を開始 した。多分NEDOがスポンサー。

ESIでは、中長期の電力/エネルギーシステムの構造的な変化に対し、エネルギー工学連携研究センター(CEE)の活動の成果を活用し、2030年、ある いはより長期の2050年に代表される今後の電力/エネルギーシステムにおける新しい技術、制度、価値、可能性を考慮して、全体システムの需給運用、設備 計画、個別システム、個別技術の運用・制御開発・評価・適用検討と新たなサービスなどのビジネスの検討を通して、価値、評価の考え方の確立、これらを実施 する評価ツールの開発、それらを用いた電力/エネルギーシステムの検討と提案、これらの検討の活動を通した、人材育成を行うことを目的という。


グリーンウッド氏はその第一回シンポジウムに参加した。以下は印象深い事項のメモである。

萩本和彦教授:九州電力管内でもPV出力が最大需要の80%にも達し、万一PV出力が需要を越えるようであれば3万の発 電業者に電話をかけて出力を抑制してくれるように待機したという笑えない事態が発生した。一方需要側でも少ないながらバッテリーを持つところも増え、将来 的にはEV車も普及することが予想されるのでこの需要側の資源(Demand Side Resources)を需給バランス市場に積極的に参加してもらうためのIncentiveを探ろうというのが本ESIの目的である。

デンマークもアイルランドも再生可能エネルギー比率が高いがデンマークはノルウェーの水力発電とつながっており、系統制御に何ら問題はない。これに繋がっていないアイルランドは九州と同じでつらいはずである。

現時点では九州電力では幸いにも揚水発電で過大PV出力を吸収できている。しかし揚水発電設備の維持には金もかかり、沖 縄では1基廃棄されという事態にもなっている。笑えないのは福島第一の事故直後、逆上した東電が原発用につくった揚水発電を有効利用することに頭が回ら ず、無益な計画停電に走ったことも話題に出た。

現在のように昼夜の価格構成が原発のための昼高、夜低のパターンではだれもバッテリーサービスで儲けることができず、デマンドサイドのバッテリー資源を統合することは難しい。そこでダイナミックプライシングで需要側のリソースの参加を誘導するという方策である。

NECスマートエネルギー事業部の工藤耕治氏がLFC信号(負荷周波数制御のことで電力系統の周波数偏差、連系線潮流の変動を検出して出す制御信号のこ と。これをPVのパワーコンディショナーあるいはバッテリーのパワーコンディショナー等の10万に達するDemand Side Resourcesに伝送し、系統周波数を基準値に保持する制御。信号の伝送はLTE網(次世代高速携帯通信規格4G)を使うということですでに技術的に 問題いないことは証明済であると解説。ただグリッドの周波数は通常大型の発電所はAFCとガバナーフリー運転をし、小型の発電所は「負荷制限運転」をする ため、太陽電池のパワーコンディショナーも「負荷制限運転」をすることになるのだろう。

FIT制度のおかげでPVに投資した人は高額買い入れで儲かったが、大部分の人はその高額分を全国民で均等に負担したため損し た。この問題のあるFIT制度が原因で九州で は世界で最速なPV普及普及速度となったが、考え方によってはこれは最新のDemand Side Resources統合のチャンスでもあり、世界のリーダーになれる可能性もある。東大の責務としては皆が利己的に動いても皆が得する「神の手」を作れる システムを提案できるかだ。東北地方の風車は殆ど5万キロワット時の持っているが、使われていない。これらをネットワークに引き出す制度を提案したい。

ゼロ・エネルギー・ビルのためにはバッテリーだけでなく、ヒート・ポンプで氷蓄熱や温水蓄熱なども組み合わせることも検討する必要があるし、半年の蓄熱はできないから常温・常圧で貯蔵できるアルコール畜エネルギーなども検討する必要があるだろう。

セキスイハウスはゼロ・エネルギー・ハウスを2,500万円程度で市販している。最近は新築よりリノベーション需要が立 ちあがっているのでPV+バッテリーのメンテナンスも含めている。通常はPV+バッテリーに固定資産税は見逃されているが、セキスイハウスは建物と発電シ ステム一体であるため固定資産税の対象になるのではと気が付いた。

経産省は既存の電力システムを温存するために、検討を続けてきた4つの制度(ベースロード電源市場、間接送電権、容量市 場、需給調整市場)に前向き だ。容量市場とは火力発電の調整力を売買する市場のことで本研究とも深く関係する。しかし経産省がムキになるほど、電力料金に配電網が占めるコスト(電力 料金の1/3)が重荷になってオフグリッド運用のゼロエネルギーハウスが普及するのではという予感を覚えた。小売電力料金が2/3になるダイナミックプライシングは考えられないからである。したがって需要側のバッテリー資源を有効活用 する方策を見つけるという東大の構想は失敗の運命にあるように思える。東大も経産省も敗者になる宿命なのだ。所詮発電、送配電、需要側蓄電池の組み合わせによるハイブリッド運転は発電と需要側蓄電池の組み合わせには絶対的に勝てないからである。

環境省の役人からは、大学が推奨するシステムインテグレーションがみつかったら、それを国民がほしくならなければ政治家を説得して制度化できないのでしっかり研究していいものを提案してほしい。

2016年4月の電力全面自由化を契機に電気事業に参入。家庭向けなど低圧部門で基本料金ゼロの料金メニューを投入し、一気に知名度を上げたLooopのバッテリービジネスの説明があった。Looopのビジネスにはバッテリーをもてば料金割引のスキームも加えたという。

May 9, 2018
Rev. May 26, 2018

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