白山神社参道。石鳥居は額束と額が一つの石で造られており、小泊の名工・臼杵弥助の作といわれている。


白山神社拝殿。背後に神明造り風の本殿が妻入りで建つ。


境内の右手にある石臼塚。昭和52年(1977)に石臼を供養する塚としてつくられたもの。


石工の技術は、金銀の製錬作業にも使用され石臼をはじめ、石垣や家屋の土台に使う建築石材、
すり鉢などの生活用品や石塔のほか、石仏づくりなどに利用された。


境内にある能舞台。毎年11月の第2日曜に薪能を開催されている。
 小木町(おぎまち)から国道350号線を10kmほど北上して、小佐度(こさど)南西部の小泊(こどまり)白山神社に向かう。

 白山神社は日本各地に2,700社余り鎮座するが、とくに石川・新潟・岐阜・静岡・愛知の各県に多く分布する。新潟県神社庁のホームページには、佐渡島内に25社の白山神社があげられている。

 明治期の「神社明細帳」には、白山神社の創建は江戸時代前期の天和元年(1681)、菊理姫命(くくりひめのみこと)を祭神とし、合殿で武甕槌命(たけみかづちのみこと)を祀る。小泊の産土神(うぶすながみ)で、明治6年(1873)に村社に列せられたとある。
 伝承によれば、屋島で敗れた平家の落武者・平宗清(たいらのむねきよ)が、佐渡に渡り、小泊に住みつき、当地に祠宇(しう)を建立し、鎮守としたのが当社の起源とされている。

 境内にある能舞台は、江戸時代後期の建造であるが、建物の老朽化で上演が途絶えていた。一度は取り壊す話も出たというが、平成24年(2012)に有志と地域住民の保存活動によって建物修復が行われ、寄棟造妻入りの屋根は茅葺から銅板に張り替えられた。
 舞台は本舞台と後座からなり、背面の鏡板には松と竹が描かれ、天上には「道成寺」で使用する鐘穴がある。地謡座、橋掛り、鏡の間が常設されており、鏡の間は拝殿につながっている。

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 境内の右手に、昔懐かしい「鉄人28号」を彷彿させる樽型のオブジェがある。「石臼塚」と呼ばれるもので、石臼は、豆やソバの実など、さまざまな素材を挽いて粉にするための道具である。江戸時代中期から一般家庭に普及していったが、時代とともに石の道具は使われなくなり、家庭の台所から姿を消していった。これを惜しんだ地元の人々が、役目を終えた石臼を300余り寄せ集め、神社に奉納し、昭和52年(1977)に石臼を供養する塚としてつくられたものである。

 白山神社のある小泊地区は、隣接する真野(まの)町の椿尾(つばきお)とともに、江戸時代から石工(いしく)の里として栄えた土地である。小泊には、鎌倉時代に現在の愛知県岡崎市から佐渡に渡った平家の落人により石工の技法が伝えられてという伝説が残されている。小泊に定着した石工の技術は、その後、隣の椿尾に伝えられ、「小泊の石臼」「椿尾の石仏」として知られるようになった。

 小泊・椿尾地区に、佐渡の石工が集中している理由に、石細工に適した石切山の存在があげられる。小泊・椿尾地区には、約2000万年前の火山活動によって噴出した良質な安山岩が産出する。「真珠岩質デイサイト」と呼ばれる石で、ゴマ塩状の黒い結晶が見られる石は、形状が御影石(みかげいし)に似ていることから「佐渡御影」呼ばれ、ゴマのない硬い石は石臼に、ゴマのあるやわらかい石は石仏の加工に向いている。
 小泊・椿尾の石丁場(石切場)は隣り合っているが、小泊からは、石臼に適した硬い石が、椿尾からは石仏や石塔に適した柔らかい石が産出される。このように石製品の用途ごとに産地が異なることが、佐渡の石丁場の特徴とされている。

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 佐渡は「地蔵の島」と呼べるほどに石仏の多い島で、元両津高校教諭の祝(ほうり)勇吉氏の調査によると、島内には約4万基の石像があるという。
 島内の寺社やお堂をはじめ、路傍に立つ石造物のほとんどが、椿尾・小泊の石工職人によってつくられたもので、島内だけでなく北陸・東北などにも、北前船によって広く出荷されていった。

 本サイトで紹介している「岩屋山石窟」の八十八カ所石仏も小泊石工の名人・五平の作と伝えられている。
 慶長年間(1596〜1615)には、小泊石工の惣左衛門が蓮華峰寺(れんげぶじ、佐渡市小比叡)の五輪塔や、大安寺の河村彦左衛門五輪塔を制作している。また、文化・文政年間(1804〜1830)には、椿尾の石工・重太郎は、薬師堂の如意輪観音や七観音像を、同じく椿尾の五兵衛は、椿尾の六地蔵のほか、宿根木称光寺にある聖観音菩薩像などをつくったことが知られている。

 石臼塚は名工の作ではないが、往時の石工の里の繁栄ぶりを偲ぶよすがとなるものである。佐渡の石仏めぐりをされる方は、ぜひ立ち寄ってみてほしい。まさに「島民が選んだ、島の宝」にふさわしいオブジェである。

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2021年6月26日 撮影


小泊の石切場から石臼に適した硬い石が、
椿尾からは石仏に適した柔らかい石が産出される。


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