「おなかを切らない手術」について


消化器科・外科 川合クリニック 川合千尋



 皆さん、「腹腔鏡下手術」という言葉をご存じでしょうか。それが6、7年前から胆石症などの手術で行われるようになっているおなかを切らない手術のことです。とは言ってもまったく傷をつけないというわけではありません。5から10ミリの穴をおなかに3、4ヶ所開けて、そのひとつから腹腔鏡という器械をおなかの中へ入れます。腹腔鏡はビデオカメラに接続されており、おなかの中の様子がテレビ画面に映し出されます。この画面を見ながらほかの穴から入れた特殊な手術器械を操作して行うのが腹腔鏡下手術です。

 腹腔鏡下手術ではどんな病気の手術ができるのでしょうか。いちばん広く行われているのは胆石症や胆嚢ポリープの手術です。また鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)や、虫垂炎(いわゆる盲腸)の手術も行われています。最近では胃や大腸の早期がんの手術にも応用されています。

 なぜいろいろな手術をこの方法でやるようになってきたかといいますと、従来の手術に比べて、手術後の痛みが少ない、手術の翌日から歩いたり食事ができる、早く退院できて仕事や普通の生活にも早くから戻ることができるなどの長所があるからです。小さな傷で済みますから、美容的にもすぐれています。

 さて胆石症のお話をしましょう。胆石症は胆汁を貯めておく胆嚢に石ができる病気です。中年のふくよかな女性に多いと言われていますが、もちろん男性にも発症します。石が胆汁の流れを邪魔するとおなかの右上やみぞおちのあたりに激しい腹痛発作が起こります。激痛がなくても、食後のおなかの違和感や重い感じが胆石症の症状であることもあります。このような症状を経験し、胆石症であることがわかったら、手術を考えましょう。ほっておくと胆嚢の炎症を起こしたり、まれですが胆嚢がんを併発することがあるからです。胆石のできる場所である胆嚢を取ることが、胆石症の根本治療と考えられています。胆嚢を摘出しても胆汁は肝臓から流れ出てきますので、ほとんど支障ありません。腹腔鏡下胆嚢摘出術なら入院から退院まで五日程度で済みます。

 ただ腹腔鏡下手術では、外科医に今までの開腹手術と違った新しい手術感覚や特殊な器具を取り扱う技術が要求されます。現在ではこの手術に習熟した消化器外科医が増えてきており、どこでもこの手術が受けられる日が来るのもそう遠くないものと思われます。


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