第六話 王様の宝物
王様は、いつものようにあの娘に会いたくなりました。
会いたいと思った瞬間、王様は渡りの魔法を使っていました。
娘の家の前に王様はたたずんでいました。
しかし扉をノックしても、出てきたのは違う人間、しかもずいぶんと若い少年でした。多分、王様の遠征後に生まれたのでしょう、王様の顔も知らないようでした。
「はい、どちらさまですか」
少年は王様の立派な鎧に目を奪われながら尋ねました。
「ここに住んでいた女はどうしたのだ」
少年はピンと来たようでした。
「あんた、遠征兵の人だね。ここは遠征前からおいらのかあちゃんのうちでした。かあちゃんは、遠征がはじまってすぐの頃、おいらがまだ小さい頃に死んじまいました」
王様の表情が凍り付きました。
「そうか…、あの人は死んだのか…」
「あなたはどちらさん?」
見上げる少年の顔を、王様はまじまじと見つめます。少年はどことなくあの娘に似ていましたが、それ程醜くはありません。そして、少年の顔に自分の物とよく似たところがあるような気がしていいました。
「お父さんは?」
「とうちゃんはわからないって、かあちゃんいっていました。でもいつかとうちゃんが迎えにきてくれるから、ここで待ってなさいっていってました」
少年はハッと気がついて、そのアイディアがすぐいわなければ消えてしまうものかのように、慌ててたずねます。
「もしかして、あんたがおいらのとうちゃん?」
良く見れば少年は賢そうです。
「そう…、君はわたしの息子だ。もしよければ、君をわたしの家に招待するが」
少年は頬を紅潮させていいました。
「とうちゃん、とうちゃん、ずっと待ってたんだよ、おいらもかあちゃんも!なかなか迎えにきてくれなかったのは、遠征にいってたからなんだね」
「君の母さんは、私を待っていてくれたと?」
少年は嬉しそうにうなずきます。
「そうだよ、かあちゃん素直じゃないから、おいらが生まれてからはずっと浮気しないで待ってるっていってたよ。いま荷物まとめてくるから待っててね」
少年は一度奥にひっ込んでからすぐに顔を出し、
「先にいったりしないでね」
と付け足しました。
待っている間に王様は一番信頼できる部下のところに渡りの魔法を使って、
「私は用があるので一足先に帰る。軍のことは任せたぞ」
と急いで命令してきました。帰ってきたときも、少年は準備中だったので王様はホッと一安心。
「お待たせ」
ぼろ布に、大して価値もない家財道具を詰め込んだ少年が出てきました。王様は少年の荷物を代わりに持ち、開いたほうの手で少年を肩に担ぎました。
「軽いな、家に着いたらもっと鍛えてやるぞ。…うちが気にいるといいのだが」
少年はニッコリとほほ笑みました。
「きっと気にいるよ」
王様を悩ませる物はもう何もありません。王様は少年と幸せに暮らすでしょう。どんなに大きな空虚を抱えても、王様がそれを望む限り。
END
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