短編


 素敵になりたい 

 失恋をすると女の子は誰でも思うこと。
 『きっと今より素敵になって見返してやる』
 そして失恋をする度に女の子は今よりもっと素敵になっていく。

「もうきらい!! あんな奴なんか忘れてやる! なによ、『お前が一番好きだ』とか『お前がいなきゃだめなんだ』なんて言ってたくせに、ほかの女連れてきていきなり『別れてくれ』だって? わたしをなんだと思ってるのよ! 馬鹿-----!」
 ワンルームのわたしのマンションで大声で泣き叫んでいるわたしの親友。彼氏とケンカするたびにこれだから今更あわてないけど、そろそろ泣き止んで欲しい。もう午後11時を回ってる。この娘が来たのが確か午後7時だったからかれこれもう4時間は経っている。
「萌子、いいかげん泣き止やみなよ。あんな男別れたほうがいいって」
「静香にはわかんないのよ、わたしがどんなにあいつのことが好きだったかなんて! ほんとうに好きだったのよぉ。あいつがいないと生きてけないのぉ」
「わかったから。ほら、そんなに飲んだら体に悪いって。送ってくから、立って」
「いいの、体に悪いことしたいんだから。静香、もっとついでよ」
 はい、はい。もう好きにして。そう思いながら萌子のグラスにビールを注いであげる。
 一気にビールを飲み干して彼の悪口を言う萌子のやるせない気持ちは手にとるようにわかる。
「絶対今より素敵になって後悔させるんだから!!」
 何度も何度も彼女はそう叫ぶ。その気持ちもよくわかる。
 グデングデンに酔っ払った萌子がやっと2階下の自分の部屋に帰ったのはもう午前4時を回っていた。
 急に静かになった自分の部屋で、少し淋しさを感じながら考えた。
 たぶん萌子は知らない。
 朝一で提出しなければならない日本文学史のレポートが完成してないことも、萌子と同じように悪酔いしたかったことも。
 わたしも素敵になりたい。
 後悔してくれなくてもいいから、ほんの少し素敵になれたわたしを見て思い出してほしい。わたしという女の子がいたことを。
 ちょうど12時間前に萌子と同じことがあったわたし。
 朝が来たら、今までのわたしよりももっと素敵になっていたい。

Fin

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