『大好きと言って』
 
 お鍋にお水を入れて。
 火にかけて、5分ぐらい?
 ワタシは、半熟たまご。
 とろっと。
 ぷるっと。
 かわいいでしょ?
 おねえちゃんが大好きな、ワタシは半熟たまご。
 
 ワタシには、選択権があるのよ。
 これから固ゆでになってもいいし。
 このまま半熟でもいいのよ。
 固ゆでたまごさんにはない選択権ね。
 
 すると。
 固ゆでたまごさんが、ワタシを笑うの。
 「半熟ちゃんに選択権?」て。
 何よ!固ゆでたまごさんは、もう選ぶことが出来ないからって、
半熟のワタシがうらやましいのね。
 すると。
 固ゆでたまごさんは、また笑うの。
「半熟ちゃんをうらやましいなんて思ったことないわ。
半熟ちゃんは、固ゆでになるか、そのまま食べるしかないもの。
でも、ワタシたち固ゆでは違うわ。
サラダさんに飾ってもらえることもできるし、サンドイッチさんの具にもなれる。
もちろん、そのままで食べることだって出来るのよ。
半熟ちゃんは、飾れない。ただ食べるだけなんだもん。つまんない」
 ワタシにだけ選択権があると思ってた。
 固ゆでたまごさんには、もう自由がないと思ってた。
 でも、本当は違うんだね。
 固ゆでさんは、形も変えられる。
 サラダさんやサンドイッチさんとも一緒にいられる。
 割ると、こぼれてしまう半熟なワタシ。
 ワタシだけ特別だ…と思ってたのに。
 
 食卓で、おねえちゃんは言ったわ。
「わたし、半熟たまごが大好き」
 半熟で、そのまま食べることしか出来ないワタシを大好きだって
言ってくれたわ。
 お父さんは、固ゆでたまごが大好き。
 お母さんは、固ゆでたまごを具にしたサンドイッチが大好き。
 
 何がいいとか悪いとか。
 本当は、ワタシたちが決めることじゃないのね。
 大好き…と言ってくれる人が決めることなんだね。
 
 
〜終わり〜