『キミとボク』
 
 変わり映えのない毎日。
 昨日の夜、何を食べたのか憶えていない。
 キミは「自分のいる意味」を何度も問いかける。
 キミのいる意味…。
 ボクのいる意味…。
 分厚い辞書で調べても、載っていない「意味」。
 誰かに聞いたって答えられない、僕達のいる「意味」。
 
 人は時々、自分の価値や意味を問いだす。
 いつも答えは出ないのに。
 変わり映えのない毎日。
 先週のニュースも憶えていない。
 
 今日のキミは、やけに機嫌がいい。
 人に親切にされたそうだ。
 すごく嬉しかったそうだ。
 今日のキミは、問いかけなかった。
 キミのいる意味…。
 ボクのいる意味…。
 
 雨が降る夜。
 キミはボクに問いかけた。
 キミとボクが一緒にいる意味。
 どうして一緒にいるんだろう。
 キミに、明確な答えが出せない。
 キミは遠くを見つめて、答えを探す。
 キミとボク、どうして一緒にいるんだろう。
 
 降り続く雨。
 キミとボクの心がそうさせているようだ。
 キミは、今日もボクに問いかけるのかな?
 変わり映えのない毎日。
 人の流れに添い、ボクは改札口を通る。
 …が、機械はボクだけ通してくれなかった。
 あぁ、そうだ。
 定期券の更新を忘れていた。
 何も変わらない…と思っていても、日々は過ぎているのだ。
 窓の外を見ると、雨は上がっている。
 空にうっすらと虹が出ている。
 ボクは、キミに電話をする。
 虹が出ているよ。
 電話の向こうのキミは、とても嬉しそうにしている。
 ここから見えなくても、キミの笑顔が想像できる。
 ボクまで嬉しくなるよ。
 キミがいる意味の答えが、うっすらと見えた。
 キミがいるから、キミが喜んでくれるから、
 変わり映えしない毎日も、楽しく思えたりするんだ。
 うっすら見えたその答えを、今夜キミに教えよう。 
 

〜終わり〜