『君がいるから』
 
 この世界には、光の妖精と闇の妖精がいました。
 光の妖精はいつもキラキラと輝いていて、人や物を照らすだけではなく、そこにいるだけで
心にも明るい気持ちや希望を持たせる力がありました。
 それとは逆に、闇の妖精はいつも影の中にいて、闇の中ではどんな物も見えなくしてしまい、
それが、心にも不安を与えてしまっていました。
 
 世界に住む人々は、光の妖精をとても大切にしました。
 中には、光の妖精を追い求めている人もいました。
 光の妖精は、いつも大人気です。
 それを闇の妖精は、横目に見ながら少しうらやましく思っていました。
 でも、だからと言ってひがんだりはしませんでした。
 なぜなら、川辺で暮らす蛍が言ったのです。
「君たちがいてくれるおかげで、僕達は恋のサインを送る事が出来るんだ」
と、お尻をピカピカと光らせました。
「いい蛍に逢えるといいなぁ」
 蛍は、ちょっぴり恥ずかしそうに笑いました。
 真っ暗な中でも、闇の妖精にははっきりとわかるのです。
「君が素敵な蛍に逢えるように、いっぱい暗くしてあげるよ。そしたら、
その光はとても綺麗に見えるもんね」
 それを聞いて、蛍はとても嬉しそうでした。
 
 ある日、世界のとある場所で争いゴトが起きました。
 光の妖精は慌てて、その場所に向かいました。
「争ってはダメ」
 光の妖精は、眩しいぐらいの光を放ちました。
 すると、その光が傷だらけになったお互いの顔を照らしました。
「あぁぁ、こんなにもケガをさせてしまった」
「ごめんなさい…」
 争っていた人々は、自分達のしていたことを反省し、
共に歩み寄り握手をしました。
「やっぱり光の妖精はいいね。どんな場所にも明るい光を射してくれる」
「そのくせ、闇の妖精はダメだ。人の心まで真っ暗にしちまう」
「そうだ。心にも闇を作るから争いが起きるんだ」
「これを機に、闇の妖精を封印してしまおう!」
「そうだ。あいつさえ居なければ、争いなんて起きないぞ!」
 人々は、あっと言う間に闇の妖精を封印することを決めてしまいました。
 そして、いろんな場所にいる闇の妖精は、封印の瓶の中に捕まえられてしまいました。
「なんてことをするの!」
「やめてよ!」
 闇の妖精がそう訴えても、人々は聞こうとしませんでした。
「光の妖精も、何とか言ってよ!」
 すると、光の妖精は微笑みながら言いました。
「私も前から思っていたのよね。闇がなくなれば、全ての人や生き物が幸せになるんじゃないかって。
当然のことなんじゃないかしら」
 闇の妖精達は、ぽろぽろと涙をこぼしました。
 そして、すべての闇の妖精が封印の瓶に捕まえられてしまいました。
「やったー。これで、世界は平和だぁ!」
「みんな幸せに暮らせるぞ〜」
 人々は両手を挙げて喜びました。
 世界には、影は一つもなくなり、眩い光に包まれていました。
「僕達って、そんなに居ちゃダメだったのかな?」
「私たちにも大切な意味があると思っていたのに…」
 はしゃぐ人々を見て、封印の瓶の中の闇の妖精達はとても悲しい気持ちでいっぱいになりました。
 人々がお祭り騒ぎをする中を、一匹の蛍が飛んできました。
「あ、蛍さん」
 蛍は、よろよろとしていました。
「どうしたの?」
「こんな眩しい光の中じゃ、僕の光はちっとも見えないんだ。どんなにどんなにサインを
送っても、誰も気付いてくれない。一生懸命にがんばったのに…」
 蛍は、ぽとっと瓶の前に落ちました。
「蛍さん!」
「さようなら。闇の妖精さん達、僕は大好きだったよ」
 そう言って、蛍は息を引き取りました。
 闇の妖精達は、涙が止まりませんでした。
 幾日かして、人々がお祭り騒ぎに疲れ始めました。
「ふぅ、少し休みたいよ」
 疲れた人が目を閉じました。けれど、目を閉じても暗くならず、逆に眩しいぐらいでした。
「なんでだよ!目を閉じてるのに、眩しくて眠れないよ!」
「目がチカチカするよぉ」
と、子供が泣き始めました。
「明るすぎて、何だか落ち着かないねぇ」
 人々は、口々に文句を言い始めました。
「あんたが、明るい方がいいって言ったからこんなことになったんだ!」
「なんだって?!お前も言ってただろ!」
 なんと、人々が取っ組み合いのケンカをし始めてしまいました。
「争いはダメ!」
 光の妖精は、より一層の光を放ちました。
 が、その光は周りの光に消えてしまい、争う人々に届くことはありませんでした。
「どうして?今までこんなことなかったじゃない!」
 光の妖精は、とても慌てました。しかし、どうすることも出来ません。
 すると、蛍の大群がやって来て、封印の瓶を勢い良く倒しました。
 倒された瓶は割れ、その中から闇の妖精達は逃げ出すことが出来ました。
 その途端、世界には闇が広がり、光の妖精が放った光は争う人々を見事に照らすことが
出来たのです。
 争っていた人々も、それに気付き、ケンカを止めました。
「どうしてよ?!闇の妖精のおかげだって言うの?!」
 光の妖精は、納得が行かないようですが、久々に暗い部分を見た人々は
「なんか落ち着くねぇ」
と、ほっと一息ついたり、
「おぅ、目を閉じても明るくないぞ」
と、すぐに眠りについたりしました。
「なんで、私だけなら、闇の妖精がいなければみんな幸せになるんじゃないの?」
「それは違うよ。闇の妖精が居てくれるから、光は眩く見えるんだ。全部光の中にあれば、
どんなに眩しい光を放っても、何の意味もない。ほら、見て。僕達も光が生きているだろ?」
 そう言うと、蛍たちは、光ったお尻をふりふりとしました。
「わぁ、綺麗ねぇ」
 それを見た人々は、蛍の光にうっとりとしました。
「争ったりするのは、暗闇のせいなんかじゃない。全部、人のせいなんだ。
人はわがままだから、すぐに闇のせいとかにしちゃうけど、明るくても心が荒めば争ってしまうんだ」
「…闇の妖精さん達、悪いことをしたねぇ」
 闇の妖精の前に、人々が集まり謝りました。
「いいえ。また一緒に暮らしてもいいですか?」
「もちろんだ!あの星がキラキラと見えるのも、君たちが居てくれるおかげなんだから」
 人々は、嬉しそうに夜空を見上げました。
「…じゃあ、私がいない方がいいの?」
 光の妖精は、不安げに言いました。
「君は、暗い中でも道に迷わないように、みんなを照らしてあげなくちゃ」
 闇の妖精は、優しく笑いました。
「ありがとう」
 光の妖精は、闇の妖精の優しい言葉に嬉しくなりました。
 
 そして、また世界には、光と闇が生まれました。
 暗く寂しくなった時は、光の妖精が飛んできてくれます。
 そして、ゆっくりと休みたい時には、闇の妖精がやって来てくれます。
 
 
〜終わり〜