『ユキくんと1枚のハガキ』
 
 公園の砂場で、ユキくんはお隣のタカちゃんと遊んでいました。
「大きいお山が出来たねぇ」
 すると、ユキくんとタカちゃんの作った大きなお山の上に、ひらひらと
ハガキが落ちて来ました。
「なんだろうね」
 ユキくんはそのハガキを見ると、そこにはかわいくクレヨンで
『あそびにきてね。なつお』と書かれてありました。
「なつおって、誰ぇ?」
 タカちゃんも、不思議そうにそのハガキを見ました。
 二人は、上を見ました。
 二人の上には、青く広がったお空があります。
「なつおくんはお空にいるのかなぁ」
 
 その夜、ユキくんは持ち帰ったそのハガキを持って、
ぎゅっと目を閉じました。
 すると、チリンチリン…と暗くなったユキくんの瞳の奥に
ピンクの自転車に乗った妖精ちゃんが現れました。
「ユキくん、今日はどうしたの?」
「妖精ちゃん、なつおくんて知ってる?」
 ユキくんは、ハガキを妖精ちゃんに見せました。
「なつおちゃんなら知ってるわ。小さいクマのなつおちゃんだよ」
「小さいクマ?」
「なつおちゃんはね、大きな森の中の小さいお家に住んでるのよ」
「遊びに来てねって書いてあるんだ。ボク、なつおちゃん所に行きたい」
「よし、じゃあ明日、出発しよう!」
 
 次の日、ユキくんはその日のおやつのお母さんの手作りクッキーを
食べずにおいておきました。
 小さいリュックに、そのクッキーとキャンディーを入れました。
 そして、ぎゅっと目を閉じました。
 チリンチリン…。
 暗くなったユキくんの瞳の奥に、ピンクの自転車に乗った妖精ちゃんが
現れました。
「おまたせぇ」
「ね、ね、早く行こうよぉ」
 ユキくんは小さいリュックを背負い、妖精ちゃんと一緒に、
なつおちゃんのいる大きな森へ向かって歩き始めました。
「ね、なつおちゃんのお家がある大きな森ってどこにあるの?」
「この道をずぅーっとまっすぐに行ったところよ」
 妖精ちゃんが指差した先には、たくさんのお花や木が生えていて、
そのずぅーっと先には、大きな森が見えました。
「よぉしっっ!」
 ユキくんは、てくてくと歩いていきました。
 すると、赤い帽子に赤い服を来たかわいいコが、向こうの方から歩いてきました。
「あら、妖精ちゃん!」
 ユキくんはその女のコが近くに来ると、暑く感じ始めました。
「あら、このコは?」
「ユキくんよ」
「ユキくん、こんにちは!」
 その女のコは、にっこりと笑いました。
「ユキくん、このコはね、火の妖精もえちゃんだよ」
「もえちゃん、こんにちは!」
「もえちゃんはね、みんなのお家に火を配って歩いているのよ」
「みんな、もえちゃんのおかげで、美味しいスープが飲めるんだね」
 もえちゃんは、うふふと笑いました。
「これから、まだいっぱい届けるの。じゃあね!」
 もえちゃんは、ユキくん達に手を振り、歩いて行きました。
 さて、ユキくんも歩き始めます。
 てくてくてく…。
「よーせーちゃん!」
 道の横で、絵を描いていた女のコが声をかけてきました。
「あら、さっちゃん!」
「どこかにお出かけ?」
「うん、ユキくんと一緒に、なつおちゃんのところに行くの」
「ユキくん、こんにちは」
 さっちゃんは、ユキくんに優しく笑いかけました。
「こんにちは」
「さっちゃんはね、森の絵描きさんなんだよ」
 さっちゃんは、えへへとテレ笑いをしました。
「そうだわ!なつおちゃんところに行くなら、今出来たばかりの絵を
もっていって。今日の絵は自信作よ」
 さっちゃんは、書いたばかりの森の絵をユキくんに手渡しました。
「ありがとう」
「気を付けて、行ってらっしゃい!」
 さっちゃんは手を振り、ユキくん達を送り出しました。 
「妖精ちゃんは、森にたくさんお友達がいるんだね」
「うん。みんな優しくて、いいコばっかし。ユキくんもお友達だよ!」
 ユキくんは、なんだか嬉しくて、スキップし始めました。
 ルンルルン、ルンルルン。
「もうすぐなつおちゃんのお家が見えてくるよ」
 森に入ってすぐ、妖精ちゃんはそう言いました。
 ユキくんは、わくわくし始めました。
「なつおちゃんは、どんなコなんだろう」
 ユキくんは、てくてく歩く足を早めました。
「ふぅふぅ」
 ユキくんの目の前を、大きなカゴを持ったおばさんが歩いています。
 とっても重たそうです。
「あら、たえさんだわ」
 どうやら、妖精ちゃんのお友達みたいです。
 ユキくんは、駆け寄りました。
「カゴ、持ったあげますよ」
「あら、妖精ちゃんとユキくんじゃないの」
「ボクのことを知ってるの?」
「ええ。妖精ちゃんがいつもユキくんのお話をしてくれるから、知ってるわ」
 ユキくんは、カゴの取っ手を半分持ってあげました。
「あらあら、ありがとう。ユキくんは、妖精ちゃんの言うとおり、とっても
優しいコね」
 たえさんは、優しく笑いました。
 カゴの中には、たくさんのリンゴやバナナが入っていました。
「今日は、森に住むたくさんのおじいさんやおばあさんに、果物をあげるの」
 そう言うと、たえさんは優しく笑いました。
 しばらく歩くと、道の分かれ目に着きました。
「ユキくん、なつおちゃん家はこっちなの」
 妖精ちゃんは、左側の道を指差しました。
「あら、私はこっちなの」
と、たえさんは右側の道を指差しました。
「あ…」
 ユキくんは、迷いました。
 なつおちゃんところにも行かなくちゃ、けど重いカゴを持つたえさんの
お手伝いもしてあげたい…。
 すると、たえさんはにっこりと笑い、
「ユキくん、重いのに持ってくれてありがとう。なつおちゃんのところに行くなら、
これ、持っていってあげて」
と、カゴからリンゴを2つ、ユキくんに手渡しました。
「…ごめんなさい、たえさん。最後までお手伝い出来なくて」
「あらあら、いいのよ。こちらこそ、ありがとう。また会いましょう」
 たえさんは、ユキくん達に手を振り、右側の道を歩いて行きました。
「たえさーんっっ、リンゴありがとう!」
 たえさんは振り向き、ユキくんの声ににっこりと応えてくれました。
「さぁ、もうすぐよ」
 ユキくんは、てくてく歩き始めました。
 てくてく…。
 しばらく歩くと、小さいお家が見えてきました。
「ユキくん、あれがなつおちゃんのお家よ」
 妖精ちゃんにそう言われて、ユキくんは走り出しました。
 そして、なつおちゃんのお家に着きました。
 こんこん。
 ユキくんは、木のドアをたたきました。
 すると、中から、
「はぁーい」
と、かわいい声が聞こえてきました。
 がちゃ。
 ドアが開くと、ユキくんと背の高さがほとんど変わらない茶色いクマさんが
立っていました。
「君が、なつおちゃん?」
 ユキくんがそう聞くと、クマさんは、
「そうだよぉ。こんにちは!」
と言いました。
 なつおちゃんは、とっても嬉しそう。
 早速、お家の中へ案内しました。
 部屋の中に、大きなテーブルがあって、その上にはごちそうがたくさん
並べてありました。
「待ってたんだぁ。さ、座って」
「あのね、これもらったんだ。さっちゃんから絵とたえさんからリンゴ。
それとこれはボクからおみやげ」
 ユキくんは、持ってきたおやつともらった絵とリンゴをなつおちゃんに
手渡しました。
「ありがとう!」
 なつおちゃんは、さっちゃんからもらった絵を飾りました。そして、
「一緒に食べよう!」
と、リンゴをむき始めました。
「ね、どうして、ボクにハガキくれたの?」
 なつおちゃんは、うふふと笑いました。
「ボク、ユキくんとお友達になりたかったんだ。んでね、鳥さんにハガキを届けて
もらったんだ」
「そうなんだぁ」
「いつも妖精ちゃんが、ユキくんの話を聞かせてくれるんだ。とっても
優しいコだよって」
 それを聞いた妖精ちゃんは、テレくさそうに笑った。
「さ、召し上がれ」
 なつおちゃんは、たえさんからもらったリンゴを、うさぎの形に切ってくれた。
 それから、ユキくんはなつおちゃんが用意してくれたごちそうを食べながら、
たくさんお話をしました。
 幼稚園のこと。お友達のタカちゃんのこと。
 妖精ちゃんと遊んだこと。
 お母さんのこと。
 なつおちゃんは、とっても嬉しそうに聞いていました。
 そして、楽しい時間はあっと言う間に過ぎて、もう夕暮れになってしまいました。
 ユキくんは、そろそろ帰らなければ…。
「また遊びに来てね」
 なつおちゃんは、すごく寂しそう。
「うん、今度はタカちゃんも連れて来ていい?」
「もちろんだよ!」
 なつおちゃんは、ユキくんのその言葉にとても嬉しそうです。
「あ、今日の記念に…」
 なつおちゃんは、ユキくんに木で作った木の形の置物をくれました。
「ありがとう。じゃあ、またね!」
 歩き出すユキくんは、なつおちゃんの姿が見えなくなるまで、たくさん手を
振りました。
 なつおちゃんも同じように、ずっと手を振っていました。
 また、遊びに来るよ。
 
「ユキくん、そろそろ起きなくちゃ…」
 ユキくんは眠っていました。
「もうすぐ、晩ご飯よ」
 お母さんは、ユキくんを起こすと台所へ行きました。
 ユキくんは、むにゃむにゃ…と寝ぼけた目をこすろうとした時、
手には木の置物がありました。
「あ、なつおちゃん…」
 ユキくんは、とっても嬉しくて、なつおちゃんがくれた置物を
ぎぅーっっと、抱きしめました。
 また、遊びに行くよ。
 
〜終わり〜