『ユキくんの夢』
 
 ユキくんの夢は『ウルトラマン』になること。
 幼稚園の庭の1段高い所から「えいっっ」と飛んでみせる。
 きっと大きくなったら、『ウルトラマン』みたいに空を飛ぶんだ。
 それなら、妖精ちゃんがユキくんの夢を叶えてあげるよ。
 
 ユキくんは、夜、ぎゅっと目をつぶり、布団の中で待っていました。
 チリンチリン…。
 ユキくんの暗くなった瞳の奥に、ピンクの自転車に乗った妖精ちゃんが
現れました。
 妖精ちゃんは、ポッケから小さな魔法のステッキを取り出し「えいっっ」と
かわいく振りました。すると、ユキくんの体はみるみるうちに大きくなって、
通天閣のてっぺんが見えるぐらいになっていました。
 いつも見上げていたビルはとても小さくなって、歩く人々もありさんみたいに
小さくなっていました。
 ユキくんは小さく1歩を踏み出しました。
 それを見て、驚く人々。踏まれないように、一斉に逃げ出しました。
「踏まないようにしなくちゃ…」
 ユキくんは両手を広げて、お空を飛んでみました。
「飛んでるよー」
 ユキくんはスピードを速めたり、遅くしてみたりしてみました。
 飛行機が少し驚いたように、ユキくんを避けて通ります。
 上から見る街はホントに小さくて、よくわかりませんでした。
 けれど、少し臭いなぁ…。
 けふ、けふ…。
 道路には、たくさんの車が走ったり、止まったりしていました。
 その車が吹き出している排気ガスがたくさん広いお空に上がっていたのです。
「車がたくさん走っているから、こんなに臭いの?」
 それだけじゃありません。
 たくさんの工場やお家からも煙や熱が出て、お空に上がってくるんだよ。
「これじゃあ、鳥さん、かわいそうだね」
 きっと鳥さんも、けふけふ咳をしているかもしれませんね。
「どうすれば、お空は臭くならないの?」
 そうだね。どうすれば臭くならないのかな?
「車が走らなければいいのかな?工場を使わないようにすればいいのかな?」
 そうだね。そうすれば、煙や熱がお空を汚さないかもしれないね。
 でも、車が走らないと困る人もいるよ。
 工場を使わないとユキくんの使っている物、着ている服も作れないんだよ。
 ユキくんは、困ってしまいました。
「どうしよう…」
 そうだね。煙を少なくするようにすればいいんだよ。
 車を止めている時は、エンジンも止めれば少しでも煙は減るんだ。
 工場は、どうしたらいいかな?
「煙の出ない機械を作ればいいじゃない。妖精ちゃん、魔法で出してよ」
 ユキくん、それは出来ないよ。
 車も工場も、人が作りし物。
 人の力でちゃんとしないといけないんだよ。
 人ががんばって勉強して、煙の出ない機械を作れば、きっとお空の空気もキレイになるよ。
「そうか、がんばって、そんな機械を作ればいいんだ!」
 
 チュンチュン…。
「ユキくん、起きなさい」
 お母さんの声が聞こえる。
 ユキくんは眠い目をこすり、起き上がりました。
「お母さん、ボク、ウルトラマンになるのやめるよ。ボクね、たくさん勉強して、
煙の出ない機械を作るんだ!」
「あらあら、どうしたの?」
 お母さんは、びっくりしたみたい。
 窓の外から、すずめが3羽、ユキくんを見ていました。
「すずめさん、待っててね」

〜終わり〜