三菱自動車のことをライバルメーカーのOBはどう考えているか

「三菱自動車工業」やその子会社の「三菱ふそう」が生産した欠陥自動車問題の影響は、リコール隠しが発覚してから時間が経過するに伴って、収束に向かうどころか、逆に、販売の激減や、路上で火災を起こす事故が毎週のように報道されるなど、ますます広がりを見せているようです。あるライバル自動車メーカーの品質管理部門で重要な地位に就かれたあと、別の業界に移られた方から、三菱自動車の問題についてお話をお聞きする機会がありましたのでご報告します。その方のお考えをまとめると、ほかのメーカーからみると、(1)三菱自動車の品質管理体制は理解し難く、また、(2)このような欠陥車メーカーを放置しておいた国土交通省にも大きな責任があるというものでした。

(1)三菱自動車の品質管理体制は理解し難い

自動車の部品のうち、ブレーキ、ステアリング、今回問題になったハブ(タイヤのホイールと車軸をつなぐ特殊な鋳鉄製部品で、車軸の周囲をベアリングで回転する。つばのある帽子のような形をしている。三菱のトラックが原因となった横浜市の母子死傷事故では、帽子のつばに当たるフランジ部の付け根が破断し、タイヤがブレーキドラムごと脱落した)、プロペラシャフト(エンジンと車輪軸が離れている場合に、エンジンで発生した駆動力を、車輪軸に伝達するための棒、三菱車では、この棒が破断することによる事故も起きている)などの、安全性と直接関係する部品は、道路運送車両法で「重要保安部品」と呼ばれていて、普通の会社なら絶対に壊れないように、十分な余裕を持たせて設計するそうです。

そんな重要な部品が壊れることが信じられないだけでなく、リコールによって交換されたハブが、再び欠陥製品であることが分かって、再度交換の必要に迫られたのには驚いた、「要するに、"ゆるふん"(ふんどしの締め方がゆるいこと、(転じて)心構えのいいかげんなこと)なんじゃないの」とおっしゃっていました。

品質管理に関して、もう一つ不思議な点は、世界有数のトラック・バスのメーカーでもあり、世界でも最も厳しい品質管理基準を適用しているメーカーの一つと考えられている、ダイムラー・クライスラー(メルセデス・ベンツのメーカー)が2000年から資本参加している(今回の事件後には、追加支援は断りましたが)にもかかわらず、このような不祥事が起こった点だそうです。ベンツの品質管理基準が適用されていれば、少なくとも、資本参加後に生産されたり、修理された車について、こんな事故はありえなかったはずであるともおっしゃっていました。なぜ三菱に、ベンツの品質管理基準が適用されなかったのかという点については、ほかのメーカーに資本参加する場合に、出資側のやり方をあまりに一方的に押しつけたため、関係がこじれてしまった例があったことも関係しているかもしれないとおっしゃっていました。

(2)このような欠陥車メーカーを放置しておいた国土交通省にも大きな責任がある

今回のような事件が起こった背景には、国土交通省のリコールの体制にも問題があるというのが、この方のご意見でした。ライバルメーカーのOBとして最も疑問を感じるのは、三菱自動車が特別扱いされてきたと考えられる点だそうです。たとえば、欠陥ハブの問題では、50件近い事故が発生し、母子死傷事故まで起こしているにもかかわらず、国土交通省は三菱自動車にリコールを迫らなかったようですが、ほかのメーカーだと、死傷事故が起こらなくても、10件くらいになるとリコールを迫られたそうです。リコールは従来、メーカーの自主性にまかされていたため、見落としもあったというのが、国土交通省の言い分ですが、2002年には法改正で、国土交通省がリコールを命令できるようになったため、責任は免れないと考えられます。

ハブの欠陥のような単純な問題なら、ゲージが一つあれば、一人でも一週間くらいかけて調べれば、十分に状況を把握することが可能であるとその方はおっしゃっていました。国土交通省は、傘下に独立行政法人、交通安全環境研究所(2003年度予算43.5億円、東京都調布市)、さらに、自動車メーカーを管轄する経済産業省は、傘下に独立行政法人、産業技術総合研究所(筑波市、2004年度予算1,209億円、一周3,200mという試走路まで備えてある)を抱えていながら、こんなことを見逃すのでは、なんのための研究なのか分からないとおっしゃっていました。

三菱自動車については、トラック以外でも「デリカ」(車高の高いワンボックスカーで、一見して不安定そうな印象を与えるため、ご存知の方も多いと思います)の横転事故が多発しているにもかかわらず、いまだに販売されているのも不思議であるというのが、この方のご意見でした。

三菱自動車が特別扱いされている理由は分かりませんが、可能性としては、親会社の三菱重工が防衛庁と深いつながりがある(国内最大の武器メーカーである)点が関係している可能性があるという意見を、ケーブルテレビの「朝日ニュースター」というチャンネルで土日に5回放送(ただし、4回は再放送)されている、愛川欣也の「パックインジャーナル」(本音トーク番組という感じです)という番組で話されていた方がいらっしゃいました。

国土交通省は、無駄な道路を造るのには、信じられないほどの熱意を持っているようですが、国民の安全には無頓着であると言われても仕方がないのではないのでしょうか(2004年7月31日)。

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