「腸内革命の威力」・・・

96.11.   月刊誌「ゆほぴか」'96/11月号

 
(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)

腸内の悪玉菌がリウマチを引き起こす事が患者の血液を調べて確認された・・青木重久

愛知医科大学教授 青木重久  
1931年生まれ。岐阜県生まれ。62年に京都大学大学院医学研究科病理系を修了。大阪医科大学で助手、講師、助教授を経て73年愛知医科大教授に。同大の加齢医科学研究所、運動器病態部門の教授を歴任。専門は免疫病理学。

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リウマチはアレルギー性の病気
 リウマチは、全身の関節が腫れて痛む病気です。厳密には慢性関節リウマチをさしますが、軟骨が擦り減って痛みが生じる変形性関節症など、関節に痛みや腫れを起こす多くの病気を含めてリウマチ性疾患としています。日本には、リウマチの患者さんは現在70万人〜100万人いるとされています。30代、40代の女性に比較的多く発病しますが、高齢化が進んで、最近では60歳での発病も認められます。

 中々治らない病気で、30年、40年この病気と付き合う人は珍しくありません。欧米では日本よりも多く発病しており、約2倍の有病率となっています。リウマチが中々直らないのは、その病状がなぜ出るのか分からないからです。その原因が未だに解明されていないのです。ですから、治療は、痛みを抑えるなどの対症療法しかありませんでした。
 病気の存在自体は良く知られているものの、リウマチ科の看板が新しい診療科名として正式に認められたのは今年('96)の8月のことです。それまでは、患者さんは病院のどの科を訪ねて良いのか判らなかったのが実状なのです。

 これまでリウマチに関してわかっているのは、発病に免疫(病原菌に対する反応)が深く関わっていることです。 私たちには、免疫といって、外から入ってきた細菌やウイルスなどの外敵 (抗原) に対して特定の物質(抗体) を作って対抗し、体を守るしくみがあります。ところが、この抗原に体が過敏に反応すると、花粉症などのアレルギー反応を引き起こすことがあります。これをアレルギー性疾患と呼んでいます。そして、実はリウマチもこのアレルギー性疾患の一つなのです。
 ただし、免疫が発病に関わっていることはわかっても、この病気気を引き起こす物質はわかりませんでした。そのため、100年も前から原因物質を探す研究が続けられていたのです。

リウマチの−因が腸内細菌だと実証された
 リウマチの原因物質は意外なきっかけで見つかりました。
 かつて私は、米国で、細菌感染によって起こる腎盂腎炎という腎臓病の研究をしていました。当時は、腎臓が炎症を起こすのは、尿道から腸内細菌が入リ込むことが原因だと考えられていました。 しかし、腸内細菌が尿から検出されないのに症状が改善しない、という場合がありました。これが難治性の腎孟腎炎です。

 この難治性の腎孟腎炎の場合は、腸内細菌そのものではなく、腸内細菌の細胞を構成している物質(菌体成分) が抗原となつているのだろ、つと考えました。 といっても、腸内細歯の種類は膨大で、どんな種類の菌体成分が抗原となつているのかわかりませんでした。
 そこで、まず大腸歯0−14株という腸内細菌を加熱して菌自身を死滅させ、これをウサギに投与して抗体を作リました。

 大腸菌0−14株はプロテウス菌、クレブシエラ菌など多くの腸内細菌と共通の抗原を持つ細菌です。そこで、この大腸菌0−14株の抗体を使えば、ほかのさまざまな腸内細菌から抗体を作らなくても一つですみます。多くの腸内郷菌の共通の抗原を探せるのですから。
 ところが、思わぬことが起こりました。この実験に使ったウサギに関節炎が起こつたのです。ウサギの血清 (血液の一部) を調べてみると、人間のリウマチ因子(自己抗体) によく似た物質の反応が出ました。

 このことから、リウマチを引き起こす物質が腸内細菌の菌体成分である可能性がクローズアップされたのです。

 そこで、78羽のウサギに大腸菌0-14株から作った加熱死菌を1ヵ月に1回、1年間投与してリウマチがどんな割合で発病するかの実験を行いました。
 ウサギを使った実験では、個体によって反応が異なります。人間の場合に同じ抗原を与えても、反応に個人差があるのと同じです。そのため、反応の違いによって、ウサギを3つのグループに分けて調査しました。

 その結果、第1グループのウサギは86・7%、第2グループのウサギは75・8%、第3グループのウサギは46・7%と高い割合で関節リウマチが発症したのです。
 しかも、これらのウサギは人間のリウマチと同様の炎症を起こしていることも確認されました。

 このウサギの実験で、免疫学的なリウマチ発病の一因が実証されたのです。

 そこで次に、愛知医科大学整形外科の丹羽教授と共同で、リウマチの患者さんの血液と関節液の調査を行いました。
 まず、リウマチの患者さん83人と健康な人62人の血清を採取して大腸菌0-14株に対する抗体の値を調べました。
 すると、リウマチの患者さんの40%が抗体陽性で、しかも健康な人よりも格段に高い値になつたのです。

 次に、リウマチの患者さん58人と変形性関節症の患者さん31人を対象に、炎症を起こしている部位の関節液中の大腸菌0-14株に対する抗体を調査しました。
 リウマチの患者さんの65%が陽性となりました。
 これらのことから、次のようなことが証明されました。

・大腸菌0-14と共通の抗原を持つ腸内郷菌がある。
・その腸内細菌が持つある種の物質に対して抗体が作られ、過剰な反応が起こる。
・その過剰な反応がリウマチの発病の原因の1つである。
 それでは、腸内細菌のどんな物質に対して抗体が作られるのでしょうか。先の実験結果からクレブシエラ菌、プロテウス菌などの菌に共通する物質であることが予想されました。そして、これらの菌のアミノ酸(たんばく質の構成成分)をさらに細かく調べたところ、35KD、38KDという2つのたんばく質を発見でき、結局、これらがリウマチの発病に関わる抗原だとわかりました。

 リウマチの抗原が見つかったことから、ワクチン開発の可能性も開けてきました。ワクチンが開発されると、患者さんに投与して抗原に対する過剰な反応を抑えることが可能となり、病気の予防にも用いることができます。
 ただし、リウマチの発病には、免疫だけでなく遺伝的な要素なども複雑にからみあっているので、まだまだ研究の余地は十二分にあります。

 発病して苦しんでおられる恩者さんが少しでも楽になられるよう、さらなる研究が進むことを願わずにはいられません。

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