「腸内革命の威力」・・・

96.11.   月刊誌「ゆほぴか」'96/11月号

 
(著作権の関係上、内容をそのまま全て掲載出来ません。 概要として纏め直して掲載しています。)

腸内の善玉菌は大腸ガンばかりか、肝臓ガンの発生も減らす事が実験で判明・・・辨野義己

理化学研究所室長 辨野義己  
1948年大阪生まれ。農学博士。理化学研究所培養生物部分類室室長。 酪農学園大学卒業、東京大学で農学博士号取得。86年日本獣医学会員賞受賞。 74年同研究所に入所、研究員を経て現職に。農林水産センター科学技術研究所 「ルーメン共生微生物研究チーム」チームリーダ、東京農工大非常勤講師など。
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高脂肪の食生活が大腸ガンを引き起こす

 日本人のガンによる死亡率は胃ガンが多く、10万人に40人位の割合です。これに足し、欧米人の胃ガンによる死亡率の割合は10万人に20人の割合です。むしろ大腸ガンの方が多いのです。
 しかし、ここ数十年来、日本人に大腸ガンが増え続け、21世紀には胃ガンに取って代わると見られています。こうした地域差や変化がなぜ出るのでしょうか。

 病理学者の研究によって脂肪の摂取が多い地域ほど大腸ガンによる死亡率が高く、反対に脂肪の摂取が少ない地域では大腸ガン(特に結腸ガン)の死亡率が低い事が判ってきました。
 そして、脂肪の摂取量と大腸ガンとの関わりから、にわかに注目されてきたのが腸内細菌の存在です。なぜ、腸内細菌なのか説明しましょう。

 脂肪を摂取すると、それを分解する為に胆汁が肝臓で作られて分泌されます。胆汁に含まれる胆汁酸は帳で脂肪を消化し脂肪酸やグリセリンなどに分解します。こうして分解した脂肪酸やグリセリンは肝臓に貯えられます。一方、分泌された胆汁は、小腸の末端の粘膜を通って再び肝臓に戻ります。
 といっても胆汁が全て肝臓に戻るのでは有りません。肝臓に戻るのはおよそ8割で、残りの2割は全て大腸に流れて行きます。この2割の胆汁が問題となります

 私達の大腸には、胆汁酸を分解する腸内細菌がたくさん住んでいます。これらの腸内細菌が胆汁酸を分解すると、新たな物質(二次胆汁酸)ができます。この物質が発ガン物質を刺激し、発ガンを促進します。
 腸内細菌が分解した二次胆汁酸を与えた動物実験でも、確実に大腸ガンが出来ました。しかもガンが出来るまでの期間が非常に早い事が判りました。

善玉菌が悪玉菌の増殖を抑える

 といっても、腸内細菌は発ガンを促進するだけでは有りません。ガンの発生を促進する働きがある一方で、ガンを抑制する働きも有るのです。
 これまで理化学研究所では、肝臓ガンが発生しやすいネズミを使って、腸内細菌と肝臓ガンの発生の関係を調べました。ネズミの腸内に成人から分離した様々な腸内細菌の組合せを定着させ、12ヵ月にわたって育て、肝臓ガンの発生を調べたのです。
 その結果、通常の腸内細菌を持つネズミでは、発ガン率が75%でした。これに対し、腸の中に全く菌を持たない無菌状態のネズミの発ガン率は30%。これは最も発生率の低い結果です。
 この無菌ネズミに大腸菌を定着させた場合は発ガン率が62%、腸球菌を定着させた場合は67%でした。これに対してビフィズス菌だけを定着させたネズミは47%と低い発ガン率でした。
 さらに、無菌ネズミに大腸菌と腸球菌、クロストリジウム菌(悪玉菌の代表)の3種類の菌を組み合わせて定着させてみました。これらの菌は。腸内に入って来た蛋白質やアミノ酸をアンモニア、アミンなど体に有害な物質に変える腐敗細菌です。結果はなんと100%の肝臓ガンの発生率となったのです。
 ところが、先の3種の菌に乳酸桿菌の一種であるアシドフィルス菌を加えると肝臓ガンの発生率が65%に、同じくビフィズス菌を加えると46%にまで発ガン率が減少しました。
 悪さをする腸内細菌にビフィズス菌や乳酸桿菌等の有用な菌を添加する事により、発ガンを起こす要因を抑制できる事がわかったのです。

 なぜ、ビフィズス菌や乳酸桿菌がガンを抑制できるのでしょうか。腸内細菌は腸内で細菌の集団(細菌叢)を形成しています。この集団でビフィズス菌や乳酸桿菌が優勢になっていると、これらの細菌が産成するによって大腸菌や腸球菌、クロストリジウム菌などの悪玉菌の増殖が抑えられます。そのために、悪玉菌が作り出す有害物質の生産を抑制できるのです。

 又、ビフィズス菌や乳酸桿菌には免疫力(病原菌に対する抵抗力)を高める働きも有ります。免疫力は、外からの異物を攻撃する血液中のリンパ球や、ガン細胞を抑制するマクロファージ(白血球)の働きに支えられています。

 ビフィズス菌や乳酸桿菌はリンパ球の分裂を促進しますし、マクロファージを活性化するのです。そこで、ガン予防の為にビフィズス菌や乳酸桿菌の摂取が薦められています

 確かに、食事によって取り入れられたビフィズス菌などの多くは胃酸によって死んでしまいます。といってもビフィズス菌などは摂取するのは無駄では有りません。残された菌体成分が免疫力を刺激する働きも認められているのです。

 こうした実験の結果から、私たちはが健康である為の1つの提案が出来ます。まず、ビフィズス菌などの善玉菌を腸内で増やす事。そして大腸菌や腸球菌、クロストリジウム菌などの悪玉菌を減らす事です。

 腸内で善玉菌を優勢にするには、先ず脂肪の摂取を減らして食物繊維をたっぷりとることが必要です。食物繊維は便のかさを増やして有害物質を早く外に出してくれます。

 又、ゴボウや玉ねぎなど植物繊維やオリゴ糖を含む食品を摂る事です。オリゴ糖はブドウ糖や果糖などがいくつか結合して出来た糖類です。このオリゴ糖は胃や小腸で吸収されずに大部分が大腸へ届き、ビフィズス菌の栄養源になってくれます。

 さらに腸内の細菌叢をきれいに保つ上で大切なのはビタミン類、ヨーグルトなどの発酵乳、オリゴ糖など、ビフィズス菌や乳酸桿菌の菌体成分を摂る事です。

 人によって腸内細菌叢は異なるので一概に言う事は出来ないのですが、こうした食生活を続けると四五日でおなかが張ってきます。これは腸内細菌が変化している時期なのです。

 良い状態へと変化するのは1週間ぐらいかかります。

 最近、子供に便秘が増えています。その原因は食事の偏りなどが有りますが、便秘はガンなどの病気を誘発することがわかっています。食生活を整える一方で、まず、親が排便と便のチェックの大切さを教えて頂きたいものです。

 便所とは体からの便りを知る所でも有るのですから。
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