本宮〜道成寺〜和歌山
早朝のバスで本宮へと向かった。
この山深くの熊野大社本宮に、自分が本当に来ているのだということに今さ
らながら不思議な感覚があった。みやげ物屋は、「ほんまもん」関連で盛りあ
がっていた。
もう少しゆっくり見たいと思ったが、ちょうど田辺行きのバスがあったので乗っ
てしまう。乗客は老人ばかりである。
田辺から電車で道成寺へ出る。
道成寺にはまったく期待していなかった。ただ、能の舞台になっているので、
ついでに見ておこうというくらいの気分で下車した。無人駅だった。
寺の宝物館に入ると、始まってますのでお急ぎください、と声をかけられた。
何のことだろうと思いつつ講堂のようなところに入ると、お坊さんが絵巻物をひ
ろげて安珍清姫の物語を話しているところだった。随所に洒落やジョークが入
っていて楽しく聞ける。趣旨というか本題は、「奥さんを大事にしなさい」という
ことらしい。すっかり満足し、グッズも購入してしまう。
ふたたび電車で和歌山へ移動して宿をとる。ひさびさの大都市で、楽は楽な
ものの、のっぺりした都市をつまらないとも感じた。旅、という意味では、もう
終了したような気分になっていた。
商店街の書店で、中上健次の「紀州 木の国・根の国物語」(朝日文庫)を
購入。出版社別でなく、著者別に文庫を整理するような小さな書店でこそ見
つかる本もある。