「おいおい! 大変だぞ♪」
 デビコは全然大変ではなさそうな顔で、健司の回りを楽しそうにパタパタと飛んでいた。

『ん……』
 感覚がゆっくりと現実に慣れる。真っ先に、口から泡を吹いて真っ青になっている健司の姿を知覚した。
「こいつ、死んじゃったぞ。心臓発作だ♪」
 

 
 

 
 

 
 デビコが言うやいなや、健司から魂の球体が浮かび上がった。尾を引き肉体に繋がっていたが、それがプツリと途切れる。それは、父、健司の死を意味していた。

「これは、不味そうだ。い〜らない♪」
 デビコは、健司の魂を捕まえるが、口にする前に手放す。魂はユラユラと宙に登って行く。地上への執着心が薄いようだ。
『そ、そんな……父が死んでしまっては、家計は尚更、苦しくなる。これでは、私は産んで貰えない!』
「オマエ、考え方が所帯じみてるぞ」
『なんで、こんな事に……』
「呪い殺すとは、やるなぁオマエ。コイツの気が小さ過ぎたんだろうけどな♪」
 私が父を殺してしまったも同然だ。これでは、まるで怨霊だ。
『父の魂を、肉体に戻す事は出来ないのか!?』
「無理だ。こんな、執着の弱い魂は、戻しても肉体に根付かない」
 健司の魂は、中絶され諦めを呟いていた胎児に比べても力強さに欠けていた。みるみる間に天井を抜けて空へと流れて行ってしまった。
『…………産まれたい……ただ、産まれたい! それだけなのに……産まれたい! 私は産まれたいんだぁ!!』
「おおっ、そうだ! オマエなら根付くかもしれないな♪」
 デビコはポンッと手の平を打つ。

『!?』
「オマエくらい執着が強ければ、きっと根付くぞ。それも面白いな♪ この体だったら腐らないぞ♪」
 デビコは気さくに、健司の体を叩く。
『私が父の体を……その後、私が母の体に戻る事はできるか?』
「んっ? そうすると、パパの体は滅びるぞ」
『出来るのか!?』
「普通の人間みたいに子供を作って、その子供に乗り移ればいい。そこまでして産まれなくても、パパの体を使って生きれば良いんじゃないか?」
『産まれたい。私は、どうしても産まれたい!!』
「おおっ!?」
 私の勢いにデビコが押され、そのまま一回バック転して元に戻る。
「オマエ、やっぱり面白い♪ 早くしないと腐る。急げ!」
 デビコは私を鷲づかみにし、父、健司の口へ突っ込んだ。
「キャハハハハハッ♪」
 遠慮無しに押し込み、グリグリと掻き混ぜられる。

「んぐっ! ゴホッゴホッ!」
 私は喉に詰まった物を飲み込み咳き込んだ。飲み込んだのはさっきまで私が入っていた肉体……私は父の体に乗り移っていた。
「もうすぐ朝だ。デビコは帰る。面白いから、また見に来るぞ♪」
 デビコはブンブンと手を振りながら、窓を通り抜けて出て行った。
「…………」
 私は手を足をしばらく動かし、人間の感覚を確かめていた。夜明けにはまだ時間があり、体が睡眠を求めている。私は欲求に従い目を閉じた。
 

 
 


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