| 破水。 前触れもなく、私を包む圧力が緩む。羊膜が破れ、ゆりかごを満たす羊水が外へ溢れていた。私はまだ出来上がっていない。私が産まれるにはまだ早い。私は危険を察知した。 ズズッ……ズズズズッ……。 冷たく固い物が侵入する。冷たい爪のような物だ。私のゆりかごの中を無遠慮に動いていた。 ガリッ! 『殺される!』 爪は殺意を持って私を掻きむしる。私は、爪から逃れようと暴れた。しかし、狭いゆりかごの中に逃げ場はない。 ガリッ! 爪が、まだ脆い私の脚をもぎ取った。私の脚の感覚がなくなった。 『助けて!』 私は大きく口を開ける。母に私の命の危険を告げなければいけない。しかし、私はまだ声を出すことが出来なかった。 『やめて! やめて! やめて!』 ガリッ! 今度は腕をもぎ取られる。段々と寒さを感じていた。深淵に引きずり込まれるような、嫌な寒さだった。 ガリッ! ガリッ! ガリッ! 両手、両足、体のほとんどがもぎ取られた。私の残った体は冷たくなっていた。冷たい爪から逃れようと、動く事さえ出来なくなってしまった。私の肉片……私の体の一部だった物は、冷たい爪によって外の世界へと掻き出される。 『死にたくない……産まれたい!』 私が夢見ていた外の世界。その場所へ、私が望まなかった方法で強引に排出されようとしていた。 私の頭を、爪よりも無骨な冷たい何かが挟み込む。 ゴリッ……ギリッ……。 ソレが強く頭を締め付ける。 『やめて! やめて! やめて!』 グシャッ!! 私の頭を挟み潰した。 グシャッ!! グシャッ!! グシャッ!! 出しやすい大きさになるまで何度か潰され、私は外の世界へと掻き出された。 外の世界の音は……匂いは……。何も感じられなかった。それらを感じる器官は、私の回りの肉片のどれか。私と、私の体だった肉片は、冷たく平たい入れ物に置かれていた。私は、ただ、その入れ物の冷たさを感じるしかなかった。 『産まれたい……産まれたい……』 私は、違う入れ物へと移される。その中には、私よりも冷たい、私と同じ様な肉片が詰まっていた。 |
| ぽうぅ……。 感覚が突然に広がる。肉片の詰まったゴミ箱の上、黒く汚れた球体がいくつも浮かんでいる。自分も、その球体の一つだった。 『産まれたかった……』 『産まれたかった……』 『産まれたかった……』 球体は、皆、”諦め”を呟いていた。無気力に同じ言葉を繰り返している。 「キャハハハッ♪ 今日のオヤツは、無念な魂♪ おっ、今日は大量だね〜♪」 |
| 楽しそうな声が近付く。黒い羽根を生やした少女が、手近な球体……魂をひょいっと捕まえる。 『産まれたかった……』 「うんうん、残念だったね♪」 『産ま……んぐっ』 女は魂を口に放り込んだ。 「ん〜おいちー♪」 女は頬を膨らませて、飴玉を舐めるように口の中でコロコロと魂を転がす。魂にこびり付いていた黒い汚れを舐め取り、汚れが取れ青白くなった魂を吐き捨てる。青白い魂はユラユラと天井へ浮かんで行き、天井をすり抜け、見えない高さへと消えて行った。 どうやら、黒い汚れが重石になっている様だ。あまり汚れていない魂は高い位置で揺らめき、汚れの酷い魂ほど床に近い位置で揺らめいていた。一番低い場所にいる私は、どうやら一番汚れているようだ。 「おおっ! これは重いぞ♪ すごい執着心だぞ♪」 女は、楽しそうに私を摘み上げ、大きく口を開けた。 |
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