焦らず気長に続けていると、そのうち食べ始めるものが出てくる。1匹でも食べ始めればしめたもの、連鎖反応でそれはどんどん広がっていく。生存競争の激しい混泳水槽は餌付けが比較的楽だ。これが単独飼育だと、なかなか人口飼料に馴染んでくれなかったりすることもある。
エニサエはアピストに比べて食に対する執着が強いらしい。思ったより早く稚魚たちが人口飼料に馴染んでくれた。人口飼料オンリーにするのはもう少し先の話で、とりあえず1ヵ月半の今現在は朝に生餌を与え、夕食を人口飼料としている。
そんなこんなでしばらくはイトメ時々ブラインの生活が続いた。
が、あまり長引かせると人口飼料への切り替えが難しそうなので、ここらでいよいよ人口飼料の投入を試みる。
別にずっと生餌のままでも育てられるのだが、ブラインやイトメは脂肪分が多めなので気をつけないと肥満の原因になるらしい。エニサエが鯉サエになってしまったらシャレにならない。それに人口飼料のほうが、管理の手間が楽なのだ。
元のままだと粒が大きいので稚魚の口のサイズに合わせて小さく砕き、最初は少量を与えてみる。案の定といおうか、勢いにつられて口には含むもののすぐに吐き出してしまう。
栄養のバランスは良いが、生餌に比べたらやはり美味しくないのだろう。食べ残しは水質悪化の原因になるので、しばらく様子を見たのちスポイトで回収した。
1回や2回食べないからといって、へこたれてはいけない。イトメに混ぜて、毎回少量ずつ投与していく。そして回収…
約50日目
大きいものはすでに3cmほど。
色もさらにキレイになり、尾鰭がやや突起し始めている。
そんなわけで、イトメをメインにした給餌に切り替えた。吐き出しから1ヶ月もたっていないが、小さいイトメなら刻まなくともすでに十分食べられるサイズに稚魚は成長している。
イトメとはイトミミズのことだが、毛髪ほどの太さの小さいものから木綿糸サイズのやや大きめのものまでが、ひとかたまりになってウニョウニョしている。それをバラして、スポイトで小さいものだけを選り分けて与える(暇人だな〜)。たまにユスリカの幼虫であるアカムシも混ざっていたりするが、イトメに比べて外皮が硬いので念のためこれも除ける。
朝、ライトを点けるとなぜか稚魚が1匹死んでいる。毎日ではないが、そんなことが何回か続いた。喧嘩で、とか水質の悪化で、などの様子は見受けられない。いわゆる突然死状態。
考えられる原因として、まず餌を疑ってみた。ブラインの卵の殻を食べてサカナが死ぬという噂があるからだ。
ブラインをスポイトで吸い出す時に殻は除けるのだが、それでもいくらかは混入してしまう。それを餌と間違えて食べてしまい、腸に詰まらせて死んでしまうというものだ。
そんなことでは死なない、フンになって出てくるという意見もあるが、それはケースバイケースなのではないかと思う。
なぜならイトメを与えた時には稚魚が死んでいないからだ。観察していると死ぬのはブラインを与えた翌日となる。必ずしもではないが、運の悪い稚魚がそうなってしまうのではないだろうか。

約1ヶ月目
そろそろヒレに色が出始めてきた。画像では分からないが、身体にも薄っすらとメタリックブルーが乗っているおませさんもいる。
いが、プラケースの容量を考えたらまぁ妥当な数だろうと自分を慰める。この先まだまだ稚魚の死ぬ可能性はあるし、雌雄の比率に偏りが出ることもあるので、最初は稚魚の数が多いに越したことはない。
なぜ雌雄の比率に偏りが出るのか? 飼育下の水質(ph)に関係が深いのではないかと言われているが、はっきりこうとは分かっていないらしい。人間でも男の子ばかりや女の子ばかりの兄弟姉妹がいるように、魚でもオスを産みやすい体質、メスを産みやすい体質というのがあるのかも??

ベタの繁殖はこれが初めてだったが、稚魚の成長の早さには驚いた。我が家には他にアピストグラマという種類の稚魚もいるのだが、その成長速度を三倍速にしてみているような感じだ。
スタート地点での大きさは確かにエニサエのほうが大きいが、それにしても稚魚が皆こうだと楽なのに…と惚れ惚れするほどだ。スプレンデンスも孵化まではさせた経験があるが、ミジンコ並みの大きさしかなかったと記憶しているので、エニサエほど速くは成長しないのだろうか??
10日もすると稚魚の大きさにバラつきが出てくる。強い個体ほど良いポジションをキープするので、どんどん餌を食べて早く成長する。弱い個体は水草の中とかフィルターの陰などに隠れているので捕食量も少ないだろうし、ストレスも成長を阻害しているのかもしれない。
餌にブラインを使う利点はここにもある。人口飼料だとなかなか隅々にまで行き渡らなかったりするのだが、ブラインは勝手に水中をあちらこちらと泳ぎまわるので、弱い個体でもそこそこありつける。
が目的。だからと言ってもちろんそれでOKというわけではないので、少しでも水質の悪化を防ぐため、しばらくはスポイトでフンやゴミを吸い出して足し水をするという日々が続いた。

稚魚の餌にはブラインシュリンプという、1mmも無い小さなエビの幼生を使うのが最もポピュラーな方法だ。昔流行ったシーモンキーを想像すると、どんなものだか感じがつかめるかも知れない。
市販のブラインシュリンプの卵を20℃くらいの塩水に入れてエアレーションしてやれば、24時間ほどで孵化する。それをスポイトで吸い出し、真水で洗って塩抜きをしてから稚魚に与える。多少の手間はかかるが、人口飼料よりも喰いつきが良く、稚魚の成長も早い。

当初50匹ほどだった稚魚は、2〜3日もすると半分に減ってしまった。水質のせいか、もともと淘汰される弱い個体だったのかは分からな

約15日目
体つきもだいぶしっかりし、すでに親と同じ体形をしている。
そうさせないためにも新しくセットした水槽は、魚を入れない状態で1週間ほどろ過器を回してバクテリアが発生するのを待つほうが良い。
しかしいったん取り出してしまった稚魚をまさかまた口の中に戻して「1週間後に吐き直してね〜」などと言えるはずもない。そこで裏技(?)を使うことにした。
まず60水槽から汲んだ水で少しずつプラケースを満たしていく。「こなれた水」という表現を使うのだが、水道水などを中和して新品で使うよりも、このほうが魚が順応しやすい。買ったばかりの革靴は硬くて履きにくいが、しばらく履いていると足に馴染んで履き易くなるのと似たようなもの(多分…)
さらに60水槽に浮かせておいた水草も浮かべ、ついでに水中に僅かばかり沈んでいたウィローモス(サシミの下に敷いてある海草みたいな形をした水草)も導入。これは稚魚が身を隠す場所を確保して落ち着かせるのと、水草に沸く微生物が稚魚の餌となるから。水質の浄化にも多少の役目は果たす。
ろ過器として使う小型スポンジフィルターにはバクテリアがまだいないので、それを補う意味で60水槽に敷いてある底砂をひとつまみ入れる。「種砂利(この場合砂利じゃないけど)」という言い方をするのだが、すでにバクテリアの付着している底砂を入れることで、バクテリアの増殖をスピードアップするの
しかも吹けば飛ぶような弱々しい稚魚を今さら他に移動するのもコワイ。
そこで、ある程度大きくなるまでこのままプラケースで育てることにした。が、問題は環境。セットしたての水槽は、魚の飼育にはあまり適していない。
それはバクテリアがいないからだ。
魚を飼育する水槽にはバクテリアの存在が必要で、これが魚の食べ残しやフンなどの不要物を分解し、水質の悪化を防いでくれる。水中内で発生したバクテリアは主にろ過器のフィルターや底砂などに付いているのだが、新たに使用する器具類の場合にはまだそれがない。バクテリアのいない水槽に魚を入れてしまうと不要物の分解が行われずに堆積してしまい、それが魚に有害な物質へと変化して水質の悪化を招く。
2日目 腹部がオレンジ色なのは餌が透けて見えるため
思いのほか順調にいった稚魚吐き出させ作戦だったが、実は無事に遂行することに神経が注がれており、その後のことを何も考えていなかった…
水槽の空きはない。新たにセットもしていない。セットする場所もない。ないない尽くし。