ラテン語の景色 - 2.ラテン語1 |
●名詞 |
ラテン語は文型を持ちませんが、標準的な語順というのがあるそうです。
ラテン語 Anto_nius cleopatrae rosa_s dat. 読み方 アントーニウス クレオパトラエ ロサース ダット 日本語 アントニウスは クレオパトラに (複数の)バラを あげる 文法1 主語 間接目的語 直接目的語 動詞 文法2 単数主格 単数与格 複数対格 三人称・単数・能動 この4つの単語はどの順序に並べても構いません。強めたい言葉を先頭に持ってきます。 動詞を先頭に持ってきても命令文にはならないのです。また、冠詞はありません。
では、名詞にどのように「が、の、に、を・・・」という【格】をつけるか見てみましょう。 辞書でro_saをひくと、次のように書かれています。
辞書 ro_sa ae,f.バラ [ae]は、ro_saの属格で 「ro_sae」の事です。属格がこの形になるのは、第一変化名詞だけです。 辞書は第一変化とは書かずに「属格」が記されています。 そして「f」は女性名詞という意味です。ラテン語の名詞はこのように「ローサ・アエ・エフ」と 覚えるようにします。
それから「ローサ」の「ロ」は「R」なので巻き舌です。これをちゃんと巻き舌で覚えれば「R」と「L」の違いに苦労しません。 発音の通りに単語を書けば、まずあっていますので綴りを覚えるのは楽です。次にそれぞれの格についてみていきましょう。
格 略称 訳 意味 主格 nom. は、が 主格 呼格 voc. よ 呼びかけ 属格 gen. の 所属、所有 与格 dat. に、のために、にとって 間接目的、利害、関与 対格 acc. を 直接目的 奪格 abl. から、によって 手段、理由、原因 呼格は「呼びかけ」に使いますが、殆ど主格と同じ変化なので省略します。 それから辞書をひくときに「略称」が使われていますので、覚えないとちょっと不便になります。ここでは省略しますね。
英語と違って、ラテン語は用語がバラバラで統一されていなので注意が必要です。「主格・属格・与格・対格・奪格」も、 「主格・対格・属格・与格・奪格」の順で記載されている本もあります。変化を覚えるには後者の順番がよいと思いますが、 第何変化かを辞書で調べるとき、属格で書かれているわけですから、私は「主格・属格・与格・対格・奪格」の順で 覚えることにしました。ここではその順番で話を進めます。
第一変化は女性名詞が大部分を占めます。クレオパトラで変化をみますと、次の表のようになります。 星座や星の名前はこの第一変化の女性名詞が多いです。
格 cleopatra
(クレオパトラ)単数訳 複数 訳 主格・呼格 cleopatra
(クレオパトラ)クレオパトラは、が、よ cleopatrae
(クレオパトラアエ)クレオパトラたちは 属格 cleopatrae
(クレオパトラエ)クレオパトラの cleopatra_rum
(クレオパトラールム)クレオパトラたちの 与格 cleopatrae
(クレオパトラエ)クレオパトラに cleopatri_s
(クレオパトリース)クレオパトラたちに 対格 cleopatram
(クレオパトラム)クレオパトラを cleopatra_s
(クレオパトラース)クレオパトラたちを 奪格 cleopatra_
(クレオパトラー)クレオパトラから cleopatri_s
(クレオパトリース)クレオパトラたちから 変化だけを並べると「a,ae,ae,am,a_:ae,a_rum,i_s,a_s,i_s」になります。もう少し小さい表にしてみましょう。 覚えるには「ア、アエ、アエ、アム、アー:アエ、アールム、イース、アース、イース」とします。
格:ro_sa(バラ) 単数 複数 主格・呼格(は、が、よ) ro_sa ro_sae 属格(の) ro_sae ro_sa_rum 与格(に) ro_sae ro_si_s 対格(を) ro_sam ro_sa_s 奪格(から) ro_sa_ ro_si_s このように「ro_s」の後に「a」という【幹】が入るのが特徴です。
第二変化名詞は、ちょこちょこっと違う「3つの変化」の総称です。
その「3つの変化」は「us型」「er型」 「um型」です。まとめてみてしまいましょう。
格 us型単数 複数
- 主格(は、が)
- 属格(の)
- 与格(よ)
- 与格(を)
- 奪格(から)
- 呼格(よ)
- Bru_tus【er】【um】
- Bru_ti_
- Bru_to_
- Bru_tum【um】
- Bru_to_
- Bru_te【主格と同】【主格と同】
- Bru_ti_【a】
- Bru_to_rum
- Bru_ti_s
- Bru_to_s【a】
- Bru_ti_s
- 各々主格と同格i_,a
- us型だけ、単数の主格と呼格が異なります。あとは何変化でも同じです。
- us型は、ほとんど男性名詞です。
- er型は、原則us型の単数主格以外同じです。
- er型は、ほとんど男性名詞です。
- um型は、例外なしで中性名詞です。
- um型は、主格と対格が同じです。これは中性名詞の特徴です。
ラテン語はほぼ全て規則変化なのですが、良く使う単語だけ不規則変化が多い気がします。不規則といっても 音韻変化や、長音が単音になる程度です。ここではアントニウスとクレオパトラをメインにしているので、アントニウス[ius]の変化を見てみます。
格:Anto_nius(アントーニウス) 単数 複数 主格(は、が) Anto_nius Anto_ni_ 属格(の) Anto_ni_ Anto_nio_rum 与格(に) Anto_nio_ Anto_nii_s 与格(を) Anto_nium Anto_nio_s 奪格(から) Anto_nio_ Anto_nii_s 呼格(よ) Anto_ni_ Anto_ni_ 「ii_」や「ie」の部分が 「i_」になっていますね。
このように名詞は第一変化から第五変化まであります。第三変化が一番の曲者です(^^;)
●動詞 |
名詞の第三変化以降は蹴っ飛ばして、動詞の説明に移りたい思います(^^;)動詞は第一活用から第四活用まであります。ここでは能動形の第一活用の説明にしましょう。動詞もやはり単数形と複数形があります。 人称は3つ、一人称(私)・二人称(あなた)・三人称(彼、又は彼女)で、合計6種類の変化があります。彼と彼女の区別はありません。
辞書をひくときは、一人称単数に戻します。ゆえに先に文法を知らないと名詞と同じで辞書がひけません。変化の覚え方は 「押すと、蒸すティスんと」と覚えます。
amo_(愛する) 単数 複数 一人称(私) amo_
(私は愛する)ama_mus
(私達は愛する)二人称(あなた) ama_s
(あなたは愛する)ama_tis
(あなた方は愛する)三人称(彼、彼女) amat
(彼は・彼女は、愛する)amant
(彼らは・彼女らは、愛する)「am」の後に、一人称単数を除いて「a幹」がついています。 一人称単数の「o」は「ao_」が縮まったと考えましょう。 他の不定形を作るときなどにaがでてきます。 また一人称単数は「o_」か、変化形によっては「m」に なります。
「ro_sam amo_.」(ローサム・アモー) (バラ、単数対格:愛する、一人称単数)で、(私はバラを愛する)になります。 これで立派な文章です。動詞の変化で人称がわかるため、人称代名詞は特別強調するとき以外には使いません。
ついでに英語で言う「be動詞」もみておきましょう。英語と同じで「である」と「存在する」の2つの意味があります。 少し不規則ですが、他のロマンス諸語(イタリア語・フランス語・スペイン語など)と似ています。それはそうラテン語はご先祖様の言語に あたりますからね。
esse(不定形) 単数 複数 一人称 sum sumus 二人称 es estis 三人称 est sunt
「co_gito_, ergo_ sum.」(コーギトー・エルゴー・スム) co_gito_は「私が考える」で第一活用動詞。
ergo_は接続詞で「ゆえに、だから」、sumは「私がいる」
『我思う、ゆえに我あり(デカルト)』という訳になります。
「Cleopatra re_gi_na Aegypti_ est.」 (クレオパトラ・レーギーナ・アエギプティー・エスト) Cleopatraは第一変化女性名詞の単数主格で「クレオパトラは」。
re_gi_naはは第一変化女性名詞の単数主格で「女王」。
Aegypti_は第二変化女性名詞の単数属格で「エジプトの」。
estは三人称単数で「彼は、彼女は、である」。訳すと、
『クレオパトラはエジプトの女王である』となります。estは最後に持ってくるスタイルが多いですね。
●疑問文 |
疑問文は尋ねたい言葉のあとに「-ne」という小辞をつけるだけです。
「Cleopatrane amat Anto_nium ?」
(クレオパトラネ・アマト・アントーニウム)クレオパトラがアントニウスを愛しているのか?
「Anto_niumne Cleopatra amat ?」
(クレオパトラネ・アマト・アントーニウム)クレオパトラが愛しているのはアントニウスなのか?
「Amatne Cleopatra Anto_nium ?」
(アマトネ・クレオパトラ・アントーニウム)クレオパトラはアントニウスを愛しているのか?
疑問文に対する回答の仕方は
「肯定なら動詞を繰り返すだけです」上記の文なら「amat.(アマト)」。
「違うと否定するなら」「no_n amat.(ノーン・アマト)」とします。
●否定文 |
文を全部否定する場合には、動詞の前に「no_n」という言葉を置きます。
「Cleopatra Anto_nium no_n amat.」
(クレオパトラ・アントーニウム・ノーン・アマト)クレオパトラはアントニウスを愛していない。
文を部分否定する場合には、否定する言葉の前に「no_n」という言葉を置きます。
「No_n rosam amat, sed Cleopatora.」
(ノーン・ロサム・アマト、セッド(not but)・クレオパトラ)彼はバラではなく、クレオパトラを愛しているのだ。
「〜しないだろうか・いやするだろう」と肯定を予想した疑問文の場合には、文頭に「No_nne」を置きます。 また、「〜するだろうか・いやしないだろう」と否定を予想した疑問文の場合には、文頭に「Num」を置きます。
●命令文 |
動詞の命令形を作るには、まず、動詞の不定形をつくります。語幹に「-re」を付けます。「amo_」→「ama_re」となります。隠れていた 「a_」というようにa幹が出てきます。
不定形から「-re」を取ると、命令形になります。「ama_re」→「ama_」 (愛しなさい)という命令になります。
「〜してはならない」という否定命令は、先頭に「No_li_」をつけて、動詞を不定形にします。 相手が複数の場合「No_li_te」を使います。複数のときは「-te」 を付けます。
「No_li_ me_ tangere.」
(ノーリー・メー[私に]・タンゲレ[触れること])私に触れてはなりません。(聖書より)
法律文などは第三者にたいしての未来命令を使います。動詞の語幹に「to_」か、 複数なら「to_te」を付けます。
「hominem mortu_um in urbe ne_ sepeli_to.」
(ホミネム(人間)、モリトゥーウム(死んだ)イン・ウルベ(市中に)
ネ(未来命令専用の否定)、セペリートー(埋葬する))市中に死者を埋葬してはならない。(十二表法より:ローマ法の起源)
このように、語尾が変化することで、様々な文章が出来ます。これを屈折言語といいます。