スニーカー生活

昔、僕が高校生の頃「ビートルズもビリー・ジョエルもスーツにスニーカーを履いた」というラジオ広告があった。何の宣伝だったのかは忘れてしまったが、その頃僕はビートルズとビリー・ジョエルを熱心に聴いていたので、その「スーツにスニーカー」というイメージは深く心に刻まれたのだった。それから数年後、僕は村上春樹を熱心に読むようになったのだが、村上春樹氏は新人賞の授賞式に「スーツにスニーカー」で出たという。

ミュージシャンも小説家も、スーツを着る必要がない自由業の芸術家である。彼らはあるメッセージを表現するためにそういう格好をしたわけである。どのようなメッセージかというと「スーツにスニーカーを履いたっていいじゃないか」である。ここで大事なのは「スニーカーにスーツを着たっていいじゃないか、と言っているのではない」という点だ。スーツというものは「革靴を履かないとイケナイ」という決まりとセットで存在しているのに対して、スニーカーはもともと別に何を着てもいいものだ。

僕はメーカーに就職して20年近くになるが、正真正銘のサラリーマンでありながらスーツなんていうものを着て会社にいったことは一度もなく、年中だいたいスニーカーの類いを履いて仕事をしている。「スーツにスニーカー」ならカッコイイかもしれないが、単に「どうでもいい系カジュアル・ウェア」にスニーカーを履いているだけだ。ともかく、そんな気楽な格好で仕事をしていられるのは幸いである。僕はよく「サラリーマンらしくない」と言われるのだが、そういう人間が勤めを続けていられるのは、スニーカーを履いていられる職場だからかもしれない。

(03.6.29)