スランプの時はどうするか

電子書籍 「理想論」

「イチロー総監督・インパクト(新潮45別冊)」という本で、中学生からスランプに対処する方法を問われたイチローは、「対処しないことです、つらいけどそれでやって下さい」と答えている。イチローはその意味を説明していないが、僕が思うには、スランプに対処しようとすると「好調時の自分」を取り戻そうとして気持ちが後ろ向きになるから良くないのである。

全くの初心者が「うまくいかないなあ」という状態はスランプとはいわない。あるレベルの達成の後にスランプという状態がある。そこでスランプに対処しようとすると、目標が「一度達成したレベル」に戻ってしまう。実は、スランプというのは次の段階に進むために身体が試行錯誤している段階なのである。なぜ身体が勝手に試行錯誤するのかというと、一度達成したレベルに飽きてしまったからである。頭は「一度達成したレベル」に戻りたいのだが、身体の方はもっと先に進みたい。それでうまくいかなく困ってしまった状態がスランプである。

一度達成したレベルから次の段階に進むためには、一旦成立したバランスを崩す必要がある。そうすると、今までうまくいっていたこともうまくいかなくなる。でも、それを乗り越えて新たなバランスを見つけなくてはならない。それを一言でいうと「変わらなきゃ」になる。新たなバランスが見つかるまでは、どうしたらいいのかわからない。それがスランプだ。

イチローの答えは「対処しないことです、つらいけどそれでやって下さい」で終わりではない。実は、その後に「簡単に見つかったら苦労しません、自分で見つけて下さい」と続く。これはつまり「どうしたらいいかわからなくてつらいけど、わからないままやり続けるしかない」ということであり、「それは簡単なことではないけど、いつかは自分で見つけることができる」ということなのだろう。