脳の回路と秩序

プラスの信号を送る興奮性結合の回路において、回路の下流から上流への結合によってループが形成されるとそのループを信号が回り続けます。それは、何かの思考や行動が意志とは関わりなく起こり続けるということなので、我々にとって不都合な状態です。自分で制御できない神経症的な思考や行動というものは、そのようにして生じるのかもしれません。

そういった不都合を避けるために、興奮性結合からなる大脳の回路において下流から上流へ結合することは禁止されるでしょう。したがって、興奮性結合には順序的秩序があるはずです。また、大脳における意識的な概念は順序的秩序を前提として作られると考えられます。その代表が、近代社会のシステムであろうと思われます。

一方、抑制的結合の回路はループになっても信号が回り続けたりせず自己抑制が起きるだけなので、回路の下流から上流へと結合することができます。どんなシステムでも、安定するためには抑制的フィードバックが必要であり、小脳は大脳の回路に抑制的結合のフィードバックを加えることによって円滑な制御を行うという役割があります。しかし、それは大脳的秩序の維持に反するものになります。小脳による下流から上流への抑制的接続は、大脳にとっての順序的秩序の下位から上位への否定的情報の伝達なので秩序の破壊です。

しかし、ここで言う破壊は「大脳的秩序の破壊」であって、元の回路を破壊しているわけではありません。元々あった大脳の回路はそのままにして、抑制的結合を追加しているだけです。そうすることによって、意識的な概念が前提としていた順序的つまり一元的な秩序はなくなりますが、新たに生まれるのは抑制を基本とする円滑な制御のための回路です。大脳から見れば小脳は無秩序をもたらすが、その無秩序は人間が環境に適応するための創造性の源であると考えられます。

近代社会システムで言うと、これまでは権威から一般に向かって一方的に明示的情報が流れていたが、今後は逆方向(素人から専門家、子供から大人、身体から頭)に暗黙的情報が流れるということになります。