月ひとしずく

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「月ひとしずく」は昔、小泉今日子が歌ってわりとヒットしたが、井上陽水奥田民生の「ショッピング」というアルバムで聴くまで彼らの曲だとは知らなかった。「ひとーにーまーかーせーてー、ぼくーらーはーいーこーう」という出だしはいきなり2拍遅れで始まる上にメロディーは拍の裏裏裏...である。そうやってずれた感じの歌メロが歌詞の内容と合っている。歌詞がリズムの裏に乗っているから、あまり押しつけがましくなくて独り言みたいだ。ちょっとジョージ・ハリスンの「My Sweet Lord」に似ている。

Bメロになると「よるのとばりのかおりが」のところは半拍遅れで、キモである「月ひとしずく」は1拍遅れ...というように遅らせ方にも変化を付けている。「ひとーにーまーかーせーてー」というメロディーが裏に乗っているのに対して、「つーきーひーとーしーずーくー」のところはオモテ返っていて、何となくそこだけ「念を押している」ような感じだ。

「つーきーひーとーしーずーくー」と念を押して、何が言いたいのだろうか。そもそも、月「ひとしずく」と言うが、月と水はどう関係があるのか。もちろん、月と言えば潮の満ち干である。それに月はカラダで感じる「何となく」の象徴で、我々のカラダの半分以上は水だから、月と水は「何となく」繋がっているのだ。しかし、本当にこの曲はカラダのことなんか言っているのか?...というと、ちゃんと「人の言葉でそのまま来たら、とても疲れてカラダに悪い」と言っているのだ。

1番は「人に任せて僕らは行こう」で、2番では「人の心は移りが早い、浮かれていたらバカを見るけど気にするな」と言う。つまり、マイペースで行こうという歌だ。そういえば月はマイペースである。太陽は昼夜とか季節という目立つリズムを作り、人の心は目立つものに引きつけられる。月は昼間出ていることもあるが太陽の光に隠れて目立たない。太陽の高さは季節によって変わるが、月の高さはあまり変わらない。月の形はマイペースで変わるが、気にしてない人には気付かれない。

ところで、この曲のサウンドはどこかで聴いたような雰囲気だなと思ってよく考えたらポール・マッカートニーが「Back To The Egg」というアルバムでやっていた「ロケストラ」だった。「ロケストラ」というのは「ロック」と「オーケストラ」からポールが作った言葉で、要するに「オーケストラのように大人数でロックを演奏する」というコンセプトである。「ロケストラ」ほどではないが、「月ひとしずく」ではアコギを7人で弾いて、ドラムを2人(1人は奥田民生)で叩いている。分厚いサウンドが気持ち良い。

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