大江健三郎さんと光さん

 昔、大江健三郎さんと息子さんの光(ひかり)さんがテレビ(たぶん徹子の部屋)に出演されていたのを見たことがあります。光さんの作曲の演奏とインタビューの番組。光さんの言葉数は少なく、うまく喋れなくても作曲の才能があるんだ・・・不思議な印象を覚えています。

 ノーベル賞作家の大江さんが知的障害のある光さんをどう育てられたのか気になり、先日、エッセイ集を読みました。「「恢腹する家族」と「ゆるやかな絆」。いずれもご自身の家族のことを中心に書かれたエッセイ集です。
 ノーベル賞作家だから障害のある息子さんでも余裕で受け入れ、育てられているのだろう、と穿った見方をしていましたが、それは誤りでした。
 障害をもって生まれた光さんが手術せねば生き延びられない状況のなかで、とまどい、悩んだ末に手術を決意したこと。5歳の光さんに腹を立て、デパートで迷子にさせてしまったエピソード。てんかんの発作の心配のある光さんを大江さんが作業所まで送り迎えする日常など、実に普通の感覚で光さんとの生活を送られている様子がエッセイに描かれていました。それは、驚きであり、嬉しくもありました。
 なにより、光さんを中心にまとまっている大江さん一家の姿が理想の家族の形のひとつに感じられ、その家族は弱い構成員である光さんを他のメンバーでカバーしあうことで築かれていったものだと思うと勇気が出ました。

 しかし、一方で、障害児のいる家庭での虐待や無理心中といった事件が続けて起こっている現実を思うと、大江さんの家庭はやはり恵まれているとも思います。光さんの個性、大江夫妻の強さ、妹弟や周囲の人のサポートなどで上手くバランスをとって支えあっておられます。
 でも、障害の重さや家庭環境によってはバランスをとることが難しいケースもあります。実際、我が家も不安定な綱の上を渡っていると感じることもあります。家族だけではいつ倒れてしまうか分からない。倒れてしまう前に支えを探さなくてはいけません。でも、支えてくれる人たちにめぐり合うまでにも、結構なエネルギーが必要です。
 障害児の親の立場になると、今の社会は障害者を支える社会というよりも、親が社会に対して立ち向かわなければいけない、というイメージを持ちました。療育、就学、就職・・・親の責任で必要な支援を獲得せねばなりません。ある程度は仕方ないのでしょうが、負担が大きいのは事実です。
 大江さんのご家族が光さんを他のメンバーでカバーしあうことですてきな家族になられたように、弱者をカバーできる社会があらゆる人にとって住みよい社会になると思うのですが・・・。

と、いつも愚痴で終わってしまうのもあんまりなんで、ここで別の話題。
カイパパ通信blog☆自閉症スペクタクル
の中で発達障害者支援法成立キャンペーンが展開されていました。議員さんにお手紙を書いて、発達障害者支援法の成立を応援する試み。(私は手紙を送っていないので偉そうなことは言えませんが・・・)議員さんからのリアクションをみると、私たちにできることが意外にあるのかもしれない・・・と気付かされました。次回のキャンペーンにはぜひ参加させて頂きたいと思います。




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