たかが手帳されど手帳


 4月6日、療育手帳(知的障害者のための障害者手帳)の再判定のため児童相談所へ行ってきました。
 広島市ではこの療育手帳、障害の重いほうからマルA(最重度)、A(重度)、マルB(中度)、B(軽度)と段階に分かれています。
 悠太・光太は目下のところマルB判定、つまり中度の知的障害ということになっています(自閉度は別にして)。

 初めて手帳をとったのがちょうど1年前、2歳8ヶ月のときです。
1年後の再判定というのは、2歳代は発達の個人差もまだ大きな時期。この1年で伸びる子はぐ〜んと伸びるわけです。1年前は中度の知的障害と判定されていても、1年後には軽度になっていたり、はたまた知能も健常に追いついて手帳を返却することさえあるのです。
悠太・光太にはそんな、中度から軽度になっている・・・なんてことありえないのは百も承知。だって、1年前と比べて・・・基本的に変わっていないんだもの。
それどころか、光太は今回A判定ねらいでした。
A判定になると、受けられる福祉サービスもぐんと増えるのですよ(笑)。そんな親のせこい期待を背負って臨んだ再判定でした。

判定は、子供に課すテストはほとんどなく親の聞き取りが主でした。その間光太は自由気ままに部屋の中をうろうろしたり、悠太はお道具箱のふたの開け閉めにはまって、ずっと遊んでいました。
そんな子供を、ベテランの優しい女性の判定員さんは温かい目で見守ってくれます。
聞き取りが続いていくうちに、やはり、悠太・光太がいかに「できない」かが浮き彫りになっていきます。
う〜ん、これはもしかしなくても・・・

果たして、判定は。
優しい判定員さんです。親のショックを少しでも和らげようと(笑)、懸命に1年間の数少ない「できたこと」や生活面での成長を評価しつつ・・・「あくまでこれは知的障害の手帳なので、言葉の発達状況を見ると、今回はお二人ともA判定にさせてもらいました」

うっわ〜!二人ともA判定かい!!
光太は覚悟していたけれど、我が家の期待の星・悠太もか・・・
でも、「言葉の発達」と言われればひとたまりもない。
夫とも話したのですが、二人には「言葉の概念」というものが全くないのです。
「バイバイ」も「ねんね」も「ごはん」も「ワンワン」もわからない、自分の名前すらわからないのです。モノに名前があることもまだ気付いていません。
 そんな3歳児。
 重度の知的障害といわれても文句は言えません。

聞けば、1年前の判定の段階でも、中度と重度のボーダーだったとか。「まだ2歳代」という可能性を加味してのマルB判定だったそうです。
前年度の療育センターの母子教室でのお友達も、ほとんどがマルB判定でした。
そのお友達のなかでも、ひときわのんびりちゃんだったうちの子。みんなと比べて、同じマルB判定というのも申し訳ないなあと常々感じていました。
でも、「みんなと同じ」ということで、「うちの子もまだいけるんだ!」とすがる気持ちもあったのです。
うちの子は障害児で普通の子供からみればハネの状態だけど、ここにいるみんなとは同じレベルなんだ。うちの子も近いうちに指差しもできて、単語も出てくるようになるかもしれない・・・
現実には、そんなお友達とは程遠いところにいると分かっていながら、どこかで「同じ判定」に安心感があったのです。

それが今回、この日、がらがらと崩れてしまいました。「まだまだいける」という気持ちの支えがなくなってしまったのです。
そして、「やっぱり」。
分かっていた現実をこうやって実際に形として、「A」という文字として突きつけられてしまったのです。

笑うしかないですよね。
あっはっは〜!な〜んだ、やっぱり二人とも折り紙つきのおバカちゃんなんだなあ!やったねえ、これで受けられるサービスが増えたね!こうまでして家計を助けなくてもいいのにねえ・・・

悠太は悠太、光太は光太。マルB判定がA判定になったからといって、昨日の二人と今日の二人が別人になるわけではないのです。
私たちは今までどおり、仲良く楽しく暮らすだけです。

それはわかっているけれど。
そんなのは建て前、きれいごとなんじゃーーーーーっ!!
「あんたの子供はすっげーおバカです」と烙印を押されてショックを受けない親がどこにいるっていうんだ!

その場では笑うしかなくて・・・その後。私、久々に荒れました。
6日は忙しく、午前中に児童相談所に行って、午後からはお役所まわり。
子供たちもいつになく緊張して疲れたのか、私の雰囲気を察してか、ぐずぐずモード。光太は夕方から延々と泣き続ける有様で、私の疲れにも拍車がかかります。
翌日からは、デイサービスでのK学園への通園が始まります。
入園前祝いで「おめでとう!」のはずだった一杯のビールが、手帳判定の複雑な気持ちと疲れと、光太の延々の泣き叫びでイライラ・・・悪いお酒に変わってしまいました。

そして子供に向けて出てきた言葉、
「このでき損ないが!」

おまえらなんて、どこまでいってもでき損ないじゃないか。チクショーっ!
いったん飛び出した罵倒の言葉はもうおさめることはできません。
普段、いい母でいることに、子供に愛情をかけることに、子供と楽しく暮らすことに精一杯やってきました。それでも、それなのに・・・子供はどんどん「普通の子供」から遅れていくのです。
それどころか同じ障害を持つ子どもからさえも、遅れを取り始めてしまったのです。
これが荒れずにいられるかっての!私は聖母じゃないんだ!

悪酔いは言い訳にすぎません。
汚い言葉を吐きながら、頭の隅っこのとこは冷静に自分を見ていました。
「悠太・光太がかわいいなんて言いながら、これが私の本音なんだ・・・」
ありのままの子供を受け止めるなんて言いながら、結局障害児を、自分の子供を差別してるじゃないか。自分の子供を足蹴にしてるじゃないか。
あんな無垢ないい子をでき損ないなんてよく言ったもんだ。
私のほうがよっぽどでき損ないじゃないか・・・

知的障害者であることを公に証明する療育手帳。
去年、療育手帳を取ることには何のこだわりもなかった私ですが(中には、子供を障害児と認めたくない、と手帳をとることに抵抗のある親御さんもいます)、今回、改めてこの手帳の重さを実感しました。

K学園の園長先生に今回手帳がA判定になったことを言うと、
「う〜ん、まあ、手帳は手帳ですからねえ」とあっさり。そのとおりでございます。返す言葉もございません。
けど、たかが手帳、されど手帳なんですよね、親にとっては。

大事なのは子供の今ある姿、子供の笑顔。
たかが手帳の判定に打ちひしがれている暇はありません。
K学園への通園が始まります。悠太・光太の社会生活の第一歩です。
さあて、何が起こるかお楽しみ・・・




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