「自閉っ子、こういう風にできてます!」を読んで 


 本題に入る前にひとつうれしいニュースを。
 昨年12月24日に多臓器移植手術を受けた大橋陽佑ちゃんが、1月15日に退院されたそうです!
 これまで大きな拒絶反応もなく、経過も順調ということです。
 おめでとう!

 本題に入りますと・・・
 この冬休みの間に、2冊の本を読みました。
1冊目は、「自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社)というニキ・リンコさんと藤家寛子さんの対談集。お二人とも、アスペルガー症候群(知的障害を伴わない自閉症)という診断を成人になってから受けています。
 藤家さんは「他の誰かになりたかった-多重人格から目覚めた自閉の少女の手記」を執筆、ニキさんは翻訳家としても活躍中、自閉の世界では有名人です。

 もう、目からウロコの連続の本でした。
 アスペルガーというと、「言葉も話せるんだからいいじゃない」と思われがちですが、やはり自閉症であることには変わりないのです。自閉症であるからこそのしんどさ、つらさ、感覚の過敏さ、反対の愚鈍さなどは、知的障害があろうとなかろうと同じ。言葉が話せるからこそ、そのしんどさに気付いてもらえない、周囲に誤解されやすいという一面もあります。

 自閉症ならではのつらさは、何度講演会に足を運んで勉強して分かったつもりになっていても、実際なかなか我が身に置き換えて納得するのは難しいのですが、自閉症者本人の言葉が詰まったこの本は、今まで読んだどの本よりも分かりやすかったです。

 おもしろかったエピソードを少し紹介すると・・・
 ニキさんが高校生の頃のこと。「くそばばあ」という言葉が使いたくて使ってみました。それも、お父さんに向かって・・・
 普通なら、「なんだ、親に向かって!」と険悪になるところですが、お父さんは大笑い。
 「くそばばあ」が人をののしるときに使う言葉ということは知っていました。「ばばあ」という言葉が、女性を指す言葉ということも知っていました。けれど、「くそばばあ」が、「ばばあ」から派生した女性を限定してののしる言葉とは分からなかったのです。

 もうひとつ。
 ホテルの部屋に入ると、「お客様の声をおきかせください」なんて書いてありますよね。ここでは当然、「声」というのは「意見」という意味。けれどニキさん、文字づらそのまま「わーーーっ」と部屋の中で1人叫んで。しばらくたってもし〜ん。そこで初めて、あれ、おかしいな、と気付く。ご本人はいたって真剣です。

 そういう障害なんですよね、自閉症って。言葉の裏に隠された暗黙の意味が読み取れない(まあ、言葉を理解できない悠太・光太はそれ以前の話ですが・・・)。
 あと、「見えないものはない」から、スカートが怖くてはけない、こたつに入れない(足が見えないので、自分の足があるのかどうか分からなくなる)。どこからどこまでが自分の体なのか分からない、自分の体の感覚がつかみにくいということもあるそうです。
 聞こえてくる音をすべて拾ってしまうので、耳からの情報が入りにくいというのは自閉圏の人は共通しているようです。

 この本を読んで、気持ちが随分ラクになりました。
 悠太・光太もきっと、私の想像をはるかに超えたしんどさを抱えて生活しているのだと思います。そんな中で、躾は二の次、「いつも笑顔で楽しく、心地よく生活してくれること」がこれまでも二人に対する最重要課題でしたが、これでいいんだ、と自信をもてました。

 特に、こちら側の感覚の押し付けは危険です。
 食に関して過敏な二人。「どうして温かいものしか食べられないの!?」ということはいつもいつも、私の心の中にずっしりのしかかっていて、いつこれがクリアできるかということばかり気になっていました。
 けど、自閉の人たちは「食べるという作業がつらい」と感じる人もいるらしく、嚥下すら高度な技術が要ったりする場合もあるようです。
 食べ物の見た目からしてNGだったりもします。食べ物が「こわい」という感覚です。
うちの子が麺類がNGなのもこんな理由からなのかもしれません。
 そんなに食べることがつらいのに、しんどいのに、こちらの感覚で「おいしいよ、どうして食べないの?」と押し付けられたらたまったもんじゃありません。

 「嚥下が難しい人には大人でも積極的に流動食を取り入れていったらいい」、というくだりがありました。
 栄養がとれるならいいじゃないか。食べ物は脳を動かす源なんだから、何もとれないよりは、とれるものを探すという発想も大事、だというのです。

 そうそう、よくぞ言ってくれた!
 温かいものしか食べられなくてもいいじゃないか。温かいミルクしか飲めなくてもいいじゃないか。麺類もケーキも食べられなくてもいいじゃないか。
 大人になってもミルクしか飲めなくても別にいいじゃないか。魔法瓶にお湯入れて、ミルクの粉入れて持ち歩いて、自分で飲みたいときに温かいミルクが飲めるように作り方を教えてあげればすむこと。
 誰にも迷惑かけることじゃなし。
 何をそんなに私は悩んでいたんだろう。

 自分で食事ができるようになって欲しい。脱ぎ着もできるようになってほしい。トイレで排泄もできるようになってほしい。
 これは、自立した人として必ず身につけて欲しいスキルだから、どんなに時間がかかっても少しずつ教えていきたい。
 けど、食べ物の嗜好までは口出しできないですよねえ。

 「苦手な食べ物、飲み物もチャレンジさせてみましょう。チャレンジすることによって、世界が広がるのです」な〜んて療育者も言ったりしますが、これ、本人にとってみれば大きなお世話かもしれないですよね。
 確かに、頑張ることでクリアできるものもある。それは否定しません。けど本人にしてみたら、「いやだってば。このままでいいってば。世界なんて広がらなくてもいいってば。だからそれはいやなの、こわいの!」と思っているかもしれません。

 親が、療育者が、「これが良いのだから・正しいのだから」というこちら側だけの価値観で自閉ちゃんをひっぱってやって、世界を広げてやるとか、正しい方向へ導いてやるとか、そんなのはこちら側の勝手なおごりです。
 悠太・光太にしても、世界を広げるときは、ちゃーんと自分の力であっさりとクリアしちゃってますもんね。
 子供の成長していこうという力の前に、親なんてほんとに無力なものです。親なんて、子供を見守るだけ、愛情をそそぐだけの存在でいいんだなあと常々思い知らされます。

 定型発達の私たちからはなかなか想像できない感覚の中で生きている自閉っ子。
 もっともっと彼らの感覚に寄り添って、お互いが心地よく生活していけるようにしたいなあ、と思いました。

 まだこの本を読んでいない自閉っ子をお持ちのお父さん、お母さん、この本はお勧めですよ〜!
 そして、自閉っ子と直接かかわりのない方たちも、もし、自閉症に興味を持っていただけたのなら、本屋さんでぱらぱらっとでも読んでみてください。自閉っ子のしんどさが具体的に分かっていただけると思います。
 赤い表紙が目印ですよー! 

 1冊目の紹介が長くなったので今回はここまで。
もう1冊の紹介はまた後日・・・



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