選手交代


 以前、悠太がキス魔ということを書いたのですが、最近の悠太はチューのブームはすっかり下火になってしまい、かといって無理やり悠太の唇を奪うわけにもいかず、母としては少々寂しい思いをしていました。
 しかしここにきて選手交代、もう1人のキス魔が誕生したのです。
 そう、光太です。
 悠太と少し違うのは、悠太のチューが前後脈絡不明のチューだったのと比べて、光太は明らかに「ボクを見てっ!」という明確な意思のチューなのです。私があさっての方向を見ていると、ぐいっと両手で私の顔を挟み正面に向け、ブチューっ。ハイハイ、分かったってば。
 そして、悠太のチューは「んーーーっ」とゆっくり顔を近づけてくるので心構えができていたのですが、光太ときたら、ゲラゲラと私のひざの上で笑いながらいきなりブチューっ!そしてまた、ゲラゲラ大笑い。お前、チューのときはせめて口閉じろよ・・・
 また、悠太はお父さんにチューすることはほとんどありませんでしたが、光太はお父さんだろうがお構いなし。おかげで夫は「ああっ、光太がチューしてくれた・・・」とうれしいけれど、なんとも複雑な心境のようです。

 もう一つの選手交代はいつも通う福祉センターのプールでのこと。
 人懐っこい光太がいろんな人に抱っこされて楽しんでいる・・・ということも以前書きましたが、これはまあ、光太の性格ゆえに自然なことかもしれません。
けど、今の光太はプールでもお母さんべったり。
というのも、少し前のある日のこと。
いつもは私に抱っこされるか1人で遊んでいる悠太が、すーっと浅いレーンと深いレーンの境目に歩いていき、傍を通ったおじいちゃんに「抱っこして」と自ら手を伸ばしたのです。
!!!びっくり、目がテンです。
他人との関係をつくりにくい悠太です。その悠太がそんなふうに、他人に甘えていくのをはじめて見ました。
そのおじいちゃん・Hさんは、いつも光太と遊んでくれる人。
Hさんも、「今日は悠ちゃんが来てくれたー!」と驚きながらも、慣れた様子で悠太と遊んでくれます。でも私は不安です。「悠太、本当に大丈夫?お父さんじゃないんよ」と当たり前のことを言いながら(お父さんじゃないことぐらい悠太にも分かっているよねえ)Hさんと悠太について歩くのですが、悠太は私の心配をよそにニコニコでHさんに抱っこされています。

悠太は、いつも光太とHさんが遊ぶのを見ていたのかもしれません。いや、そうとしか思えません。悠太がどういう気持ちでHさんに抱っこしてもらいに行ったのか・・・Hさんと遊ぶ光太が楽しそうでうらやましかったのかな?

その日を境に、すっかり悠太はHさんになついてしまいました。プールに入ると、もはや私のほうは見向きもせず、まっすぐHさんのもとに行って抱っこをせがみます。Hさんは悠太専属の介助士さんになってしまいました。

プール常連のおじいちゃんおばあちゃんにかわいがってもらっている二人ですが、このHさんは特に積極的に悠太・光太と関わってくれます。
Hさんに抱っこされてニコニコの悠太を見た一人のおばあちゃんが、「まあ、楽しそうにして」と言うと、Hさんは「僕も楽しい!」とお世辞ではなく、本当にうれしそうに言ってくださったのを見て、私も遠慮なく、安心してHさんに子供をお任せすることができるようになりました。

Hさんのすごいところは、完璧に悠太と光太を見分けていることです。
親の目から見ると似ていないとはいえ、やはり一卵性の双子。水の中に入り、水泳キャップをかぶった二人は顔のパーツそれぞれを見るとそっくりです。また、お年を召した方で「双子でそっくり」という先入観があればなおさら二人の区別をつけるのは難しいことと思います。
けど、Hさんは光太・悠太と個別で丁寧に関わる中で二人の個性の違い、表情の違いをしっかり見て、感じられたのでしょう。それだけ本気で二人に向き合ってくれているHさん。
抱っこしてもらっていた深いレーンから浅いレーンに戻りたい、という悠太の何気ない仕草のサインも見逃しません。敬服!
 「二人の区別がつく?」と他の人から尋ねられ、「おお、つく、つく。わかるよ!」とちょっと得意気なHさんはとってもチャーミングなおじいちゃんなのです。

 ずっと、悠太は他人と関係をつくるのが難しいのだと思っていました。でも、悠太も自分からちゃんと他人へ、外の世界に手を伸ばすことを知っていました。
実際は、Hさんのことも悠太にとっては(光太にとっても)「遊んでくれる都合のいい人」なのかもしれません。でも、それでもいい。そこから、他人が自分に向けてくれる好意を感じ取ることができるようになって欲しい。そうして、好意に気付いて、自分を取り巻く周りに気付いて、世界を広げていって欲しい。母の切なる願いです。

さて、今日も光太は何度チューしてくれたことでしょう。子犬のような目で見つめ、チューをしてくる光太。んー、かわいい。そしてまとわりついて、よじのぼって、のしかかって・・・ええい、うっとうしい!
結局はぶちキレて1日が終わるのでした。




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