チューが好き

 最近、私によくチューをしてくれる悠太。それも、ばっちり唇に。うまいもんです。
そんなにしょっちゅう子供にキスを迫っていたわけではないのに、どうしてこんなことを覚えたのか、不思議でならん。

 子供かわいさに、親のほとんどは我が子にチューすると思う。私もしかり。そのつやつや、ぷにぷにのほっぺは「チューしてください!」と言っているようなもの。
 けど、唇は・・・
 赤ちゃん時代、その唇を奪いたい!という衝動によくかられたものだ。
 しかし、それはいかんいかん。唇は「とっておいて」あげなくては・・・と律儀に自制してきた。

 しかし、1歳を過ぎた頃だろうか。ついに、ついに、衝動おさえがたく、その禁断の唇にふれてしまったのだ!
 その感触や。
 なんということでしょう!
 こんな清らかな感触がほかにあるだろうか。柔らかいというのを通り越して、桜貝のようにうすく、触れてしまえばすぐにこわれてしまいそうな、繊細なその唇。
 こうなると、大人の唇なんて「ぺっぺっ」ってなものだ。
 それ以来、子供とのチューのとりこになってしまった。

 とはいえ、そんなにしょっちゅうチューするほど子供との時間を楽しんでいたわけではない私。子供に背を向けて暮らしていた時期もあったのだが、それでもたまにふっと、子供の唇にふれることがあった。

 そんな私を見て、うるさい外野が1人。
 夫である。
 唇チューをしている私と子供を見ると、「だめーっ!だめーっ!何してるのっ!」
「そんなにうらやましいなら、お父さんもやれば?」と言うのだが、
「男同士はだめなのっ!」と、これまた律儀なことで。
それでもある日、ふとした拍子に子供の唇に触れてしまったらしい夫が、
「ああっ!・・・・キスしちゃった・・・」呆然としている。
「どう、どう?いいっしょー!」
「ウン・・・」
ふふふ。そうだろう、そうだろう。
 それでもやはり、男同士はチューしないものらしい。他の家のお父さんはどうなのかきいてみたいものだ。息子に唇チューはしないものなのか?

 かえすがえすも、そんなにたびたび(子供が覚えるほど)チューはしていない。基本的に、子供にはかなりクールに接している私だ。
 それなのに、である。
ここ二月前から、たびたび私の唇を求めて悠太がやってくるのだ。

最初は「?」 キスをしに来たのか、たまたま顔を近づけてきて触れただけなのか分からなかった。
そうこうしているうちに、奴は明らかに唇めがけてやってくることに気がついた。
んーーーーっ、と唇を寄せてきて、ぷちゅっ。し終わると、「シッシッシッシッ」とまるでケンケンのように笑って去っていく。なんじゃ、お前は。

ちょっと寝転んでいてもチュー、外出先でもチュー、いつでもどこでもチュー。
きっと、ラブラブな親子に見えることだろう。
そりゃ、私もうれしいんだけど。
けど、「悠太、チューは?」と言っても通じないところが悠太。私がチューしようとしても、ふいっと顔をそむけてしまうし、とっても自分本位な気まぐれ男なのだ。

チューするとうれしいのかな?
唇の感触が気持ちいいのかな?
お母さんだけにチューしてくれるのは、お母さんが君の一番だから?
(不思議と、夫にはしない。あんなにお父さん大好きなのにねえ?)
いつまで、お母さんにチューしてくれるのかな?
いつまでも、君の唇をお母さんが独り占めしてていいのかな?

悠太に聞いてみたいことはいっぱいあるけど、今日も悠太はどこ吹く風なのだ。




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