光太、5分間の大冒険

 水曜日のお楽しみ、療育センターの教室のプールの日だ。
初回だった先週、光太はよほど楽しかったのだろう。2回目のこの日は教室に着くやいなや、私の手を取りプールが設置してあるベランダへ続く出入り口に連れて行き、
「プール行こうよー」。
 私が、「まだだよ、待ってね」と適当にかわすと、今度は保育士の先生の手を引っ張る。先生も抱っこしてプールを見せてくれるのだが、当然「後でね」。
 すると、教室にいる大人、保育士の先生4人、お母さん4人すべての手をとっかえひっかえ引っ張り出した。この人がダメならこの人に頼んでみよう、という感じ。
 お前は誰でもいいのかー(笑)!
(でも、手を引っ張ってお願いしていたのは、そういえばみんな大人だった。誰を頼ればいいか、ちゃんと光太なりに分かっていたんだね!)
 
 さて、同じく水曜日の出来事。
 水曜日は夫が定時退社して、いつも7時前に家に帰ってくる。日が長くなった5月の終わり以降、天気のいい日には、子供たちは早めに夕食を済ませ、お父さんのお迎えがてら、最寄のローカル線の駅まで子供を二人乗りベビーカーに乗せてお散歩することにしていた。
 普段、夕食後に外出することはないので、子供たちは大はしゃぎ。
 せっかく見られる電車には相変わらずあまり興味がないようだが、あたりをキョロキョロ、お目目キラキラ。
 帰宅後、ベビーカーから下ろすとこれまた大はしゃぎで、そこらじゅうをキャッキャッと走り回る。ひとしきり走り回って遊んだ後は、「車に乗せて」とどちらかがせがむ。
 「駅までの散歩→外遊び→ドライブ」がお決まりのコースだった。

 ちょっとした変化が起きたのは先週のこと。
 お散歩から帰ってきて、「さあ、ちょっとお外遊びしてごらん」と2人をベビーカーから下ろしたところ、光太が一目散にもと来た道を走り出したのだ。何度「もう行かないよ、帰るよ」と止めても、「ボクは行くんだ!」とばかりに走る光太。こうなったら手に負えないので光太は夫に任せ、私は悠太と近所一周のドライブ。
 しかし、ドライブから帰ってきても夫と光太の姿がない。どこへ行ったのだろう?と心配していると、かすかに光太の泣き声が聞こえてきた。声のするほうを見ると、顔を真っ赤にして暴れ、泣き叫ぶ光太を夫が必死にかついで帰ってきた。
 夫いわく、光太は駅までの道のりの半分あたりまで行ったとのこと。あまり遠くなると大変なので、何とか連れて帰ってきたのだそう。
 「光太、駅まで行くつもりだったのかなあ・・・」
 「どうだろうねえ・・・」
 こんな会話をかわしつつ、「こんな脱走をされたんじゃ危なすぎる。もうお迎え・お散歩は連れて行けないな」、と思っていた。

 そんなことがあった、1週間後の水曜日。
 いつもどおりの時間に子供たちの夕食をすませる。すると、普段この時間は「お外に連れてって」とせがむことはないのに、光太が私の手を引いて玄関まで行こうとする。
 もしや、「療育センターに行った日=夕方のお散歩の日」と、光太の中でつながっているのだろうか?
 うーん、今日は暑かったから夕方のお外遊びもしてないし、連れて行ってやるか。
 そんなホトケ心が間違いだったのか・・・
 それでも、いつものベビーカーでのお散歩ではなく車で、いつもと違う道を通り、駅近くのコンビニまでお父さんのお迎えに行き、そのままぐるっとドライブをした。
「光太、車から降りたらまた脱走するのかな・・・」
「うーん、するだろうねえ」
「今日、光太が走り出したら、どこまで行くか付いて行ってみようか」
「そうだねえ」
そんな会話を車中で交わす。
 そして家に到着。車から光太を降ろすと、案の定、一目散に走り出した。夫も猛ダッシュで光太の後を追う。
 さてさて、2人はどこまで行くのやら・・・

 ほどなく、夫から電話が入ってきた。
「今、駅前の自動販売機の前・・・このまま連れて帰るのは難しいからベビーカーで迎えに来て〜」
 確かに、「帰ろうね」と言っておとなしく帰るような光太じゃない。
 あわてて二人乗りベビーカーをスタンバイし、外遊びをしていた悠太を乗せて駅までの道を行く。
 こりゃ、とんだ二度手間になっちゃったなあ。結局、駅までの「お散歩」しなきゃいけなくなっちゃった。
 駅前に着くと、自動販売機とそのそばを流れる用水路の水をうっとりと見ている光太と夫がいた。
 「さあ、帰ろうね」と光太をベビーカーに乗せるのもまた一苦労。渾身の力をふりしぼり、大絶叫して乗車拒否する光太。
うーん、そうだよね。せっかく来たばかりなのにそれはないよね。でも帰ろうね。
夫と私、2人がかりで何とかベビーカーに光太をねじこんで出発。

夫いわく、光太は何の迷いも無く、駅までの道をダッシュしたのだそう。
時間にして約5分。大人の足でも徒歩7、8分かかる距離だというのに!(電車に乗り遅れそうになった夫が走ったら3分で着いたそうだが)
曲がり角も4箇所あるのだが、その曲がるところも間違えることなく、本当に、何の迷いもなかったらしい。夫は光太の後を危なくないようについて行っただけで、補助はしなかったらしい。
確かにそんなに難しい道ではない。それでも、引っ越してきて間もなく私1人で駅まで歩いたときは、以前夫と歩いたことがあったにもかかわらず、「この道でよかったっけ?」と駅に着くまで不安だったものだ。

光太はまだ2歳だ(もうすぐ3歳になるけど)。普通の2歳児がこんなふうに、家から離れた明確な目的地に向かって一人で行ったりするだろうか(うちの子は「普通」じゃないけど)。
こわいもの知らずだからできたことだろう。
それにしても、何度か通った道とはいえ、すごい記憶力。角を曲がるポイントにしろ、道の周りの風景にしろ、きっと光太の頭の中ではしっかりと焼き付けられているのだろう。
光太、大冒険だったね。
これも才能とはいえ、困った、困った。
私しか人手のないときでも、脱走しようとするんだもの。あんたに付き合ってたら、悠太が行方不明になっちゃうよー!1人で行ったら車にはねられちゃうよ!
心を鬼にして光太の行く手をはばむ。当然光太は不服で泣き叫ぶ。
最近のトラブルメーカーは常に光太。これも成長の証というべきか。
はー。1人でにこにこ水遊びをしている悠太がとてもいい子に見えるなあ・・・

駅にむかってダッシュ! 駅前の自販機に夢中



育児なんか大キライ!目次へ
ホームへ