お母さんのメガネ

 普段、メガネを常用している私(気合が入っているときはコンタクトだが)。
 ある日、お昼寝の寝かしつけのためにメガネを外し、よっこらせと子供に添い寝すべく横になった。
 すると、先に布団の上でごろごろしていた光太がむくっと起き上がり、私がはずしたメガネを手に取ると、なんと、私に渡してくれたのだ。
 まるで、「お母さんのメガネでしょ、どうぞ」とでも言わんばかり。
「ありがとう」と光太から渡されたメガネをかけると、光太は子犬のようなキラキラした目で私の顔を見つめてにっこり、うれしそう。

 今まで、この単純な「どうぞ」「ありがとう」の儀式は皆無だったのだ。
「ちょうだい」と言ってもくれるはずもなく(自分のものは自分のもの!ボクが手にしたものは絶対誰にも渡すもんか!・・・という意識ばりばりの悠太・光太)、私が「どうぞ」と何かを子供に手渡すことがあっても、子供から私に「どうぞ」と物をくれることはなかった(飲み終わったカップを渡してくれることはあったけれど)。
 それに、光太は「このメガネはお母さんのもの」、とちゃんと分かった上で渡してくれたのだ。
 (ちなみに悠太は、私のメガネをつかんでもすぐにポイッと放り投げてしまった・涙)
 光太の伸びをこんなところにも感じる。
 すごいぞ、光太!

 メガネを手渡してくれる光太がかわいくて、日に何度も光太の見ている目の前でメガネをはずしては、知らん振りをして置く。そのたびに、ハッとした顔でメガネをつかみ手渡してくれる光太。
「ありがとう、光ちゃん。おかげで光ちゃんのお顔がよーく見えるよ」
 満足気、得意気な顔の光太。
 このやりとりがおもしろいのかな?でも、それってすごいことだよね。

 夜、ほんとに眠るときは外したメガネを光太の見えないところに置く。
「あ、お母さんがメガネをはずしてる!」と気がつく光太。いつも私がよくメガネを置く場所を必死で探している。
 笑いをこらえながらも、「ごめんね、光ちゃん。もうお母さんメガネしないんだよ」
 そこまで執着はないのだろう、すぐにあきらめてくれるけれど、ちょっと残念そう。
「もうおしまいよ」が分かればいいのだけれど・・・

 さて、週1回通っている療育センターの親子教室では、7月からプールでのお水遊びが始まった。
 案の定、お水遊び大好きの2人は大喜び!
 特に光太は、家でのお水遊びはビニールプールが小さくて、いつも悠太に占領されていて遊べず、我慢しているので、水を得た魚のように大はしゃぎ。プールの中を自由にばっしゃばっしゃと歩く光太の満面の笑顔を見ていると、「あー、家ではこんな笑顔はさせてやれないなあ」と、少々心が痛んだ。
 本当に楽しかったのだろう、悠太は割りとすんなり「おしまい」を受け入れられたのだが、光太は「いやーっ!もっとやるー!」と大パニック。止めても止めても、プールのあるほうへ行こうとする。お着替えも先生2人が押さえつけてもままならない。顔を真っ赤にして号泣、大絶叫する光太。
 もっとやらせてあげたいけど、教室だから仕方ない。光太にとってはとっても理不尽だったに違いない。ごめんね、光太。また来週できるからね。

 ここのところ2回続けて、前年度メインの担当だった保育士のS先生が、この教室でも補助でついてくださっている。悠太・光太のこともよく知ってもらっている。
 親子ペアでのリズム遊びは、うちの子は必然的に1人は先生と組むのだが、そのとき、
悠太がS先生と組むことになった。
 その悠太の顔を見ていると、他の先生と組んだときと比べて、明らかに表情が柔らかいのだ。他の先生と組んでいるときは、嫌がりはしないものの、「あんた誰?」という表情を崩さない悠太。それが、S先生には自分から手を伸ばしたり足をかけたりしている。
 マンガ「光とともに・・・」の青木先生いわく、自閉症児は人の顔を覚えるのが苦手とのこと。
 S先生のこと、覚えているのかな?
 S先生に、「悠太、先生のこと覚えているみたいですよねえ」と言うと、
S先生も「うーん、そうみたいですねえ。なんか今日、悠太くん光太くんとよく目が合うんですよ。うれしい」とニッコリ。
 S先生もやっぱりそんなふうに感じていてくれたんだなあ、と思うとうれしくなった。
きっと、悠太も「この人知ってるなあ」くらいの認識だろうと思う。
でも、それってすごい!
去年1年間お世話になった先生だもの。正面きって先生になつくことはないけれど、悠太も「自分に一生懸命かかわってくれた人」っていうのは分かっているんだよね。
それが垣間見れただけでもうれしい。

悠太と光太、それぞれの成長。




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