外食大作戦

 「大作戦」などと仰々しいことはないのだが・・・
我が家の坊ちゃんず、悠太と光太は外食ができない。いつもと違う場所では、周りの雰囲気、音、人の声などが気になるのか、食事を受け付けないのだ。
(旅先の旅館での部屋食なら、静かな個室で家族だけなので大丈夫。療育センターで食べるお弁当も、通いなれた場所、教室なので大丈夫のようなのだが)

 1歳9ヶ月の頃に行った旅行先で外食を初体験させたときは、意外にもすんなりと食べてくれた。
「これなら、たまにはみんなでファミレスに来てもいいね!」なんて話しながら、親と同じものを食べられるようになった成長ぶりに感動したものだった。
 が、その感動もつかの間。
外食するとなると当然いくらかの出費が伴う。たかがファミレス、子供は親のお皿から取り分けとはいえ結構な金額になる。お財布事情もあって、しばらく外食から遠ざかってしまっていた。

2歳を過ぎた頃だったか、久しぶりに外食してみようという運びになった。
子供が食べられそうなメニューを選び、いざ食べさせようとしたのだが・・・食べない。おなかも空いているはずなのに、スプーンを近づけても顔をぷいっとそむけ、全く食べようとしないのだ。
「なんで食べないの?食べないとおなか空くよ!」
焦ってなんとか食べさせようとするのだが、完全に拒否・無視する2人。頑として「食うもんか!」という表情の2人に私も頭に血が上る。
もう気疲れして散々だった。
それ以来、子供との外食はすっかりNGになってしまっていた。

きっと、初めての外食のときは、まだまだ2人とも赤ちゃんの分からんちんで、周りの状況も見えていなかったのだろう。
成長して周りのものに目がいくようになると、今度は周りが気になるあまり食べられなくなってしまったのではないかと思う。
外食ができないと行動も時間も制限されてしまう。しかし練習しないと、いつまでたっても外で食べられるようにはならない。ここは、だめもとで外食の練習をするしかない!と、「これから月に一度は子供をつれて外食すること」というルールを夫と作ったのだ。

 さあ、今日はその外食作戦第一回目。
場所は、我が家の近くの小さなデパートの、明るく開放的なフードコートを選んだ。
時間も人が込み始めるより早めの11時半前。メニューは子供も食べられる中華丼と玉子丼。セッティングはばっちりのはずだった。
 が、最初の関門は2人を子供用の椅子に座らせること。
けど、座ってもものの1分ももたない。多動の2人はすぐに椅子から降りて脱走しようとするか、椅子から立ち上がりテーブルの上に乗ってしまう。
 こんなときのため、と持ってきたチェアベルトをまず悠太に夫がつけようとしたのだが、嫌がって暴れてしまう。力も強くなった2人を押さえつけるのは至難の業だ。
 椅子から脱走しようとする光太を椅子に戻し、すかさずスプーンを口元に持っていくと、「あーん」と口をあけた。「やった、光太が食べた!」
 その間、何とか悠太にチェアベルトを着け、椅子にくくりつけた悠太に食べさせようとするが、悠太は手でスプーンを払いのけ、拒否。
「こーのやろーっ!」と腹の中で思いながらも、
「まあまあ、そう言わずに食べてごらん」と笑顔でスプーンを運ぶのだが、悠太は完全拒否を貫く。
 光太は一口食べた後も、二口、三口とわりと機嫌よく食べたのだが、落ち着かずに、本格的に脱走しようとし始めた。
こりゃあいかん、と光太にもチェアベルトを着けようとしたのだが、上がろうと思ったテーブルから引きずりおろされ、おまけにわけの分からないものを装着されそうになった光太がここでパニックになってしまった。
 体をのけぞって泣き叫ぶ光太。
 そうしているうちに、悠太もチェアベルトを「外せ」としつこく言ってくる。
事態はどんどん深刻になってくる。
これ以上椅子に座らせておくのは無理だった。とにかく2人をベビーカーに移そう、とベビーカーに座らせようとした。普段はベビーカーに乗りさえすればそれで安心して落ち着いてくれるのだが、それさえも体を突っ張り嫌がる2人。そんな2人をなんとか夫と私2人がかりで押さえつけベビーカーに座らせる。
光太に食べさせようとするのだが、もはや光太はスプーンなど見えていないようで泣き続ける。
フードコートは人がどんどん増えてきていた。最初は静かだった周りもどんどん人の声でうるさくなっていく。そんな音も光太のパニックに拍車をかけていたのかもしれない。
注文した食事を残すのはもったいない。
夫と交代でフードコートの外をベビーカーを押してぐるっと散歩する間に、お互い丼をかきこむ。こんな状態では私はほとんど食も進まなかった。
周りには、悠太・光太よりもっと小さな赤ちゃんでさえ、ちゃんと椅子に座りおとなしく食事をしている。
比べてもしようがない、思ってもしようがないことだけど、思ってしまう。
(普通の子がうらやましいなあ・・・)
2人とも、特に光太が精神的にその場にいるのが限界というのが明らかだったので、ほうほうの体でフードコートを後にした。

光太の興奮状態は尾をひいた。
子供にちゃんと昼ごはんを食べさせなくちゃ、と急いで家に帰ろう、車に乗せようとしても泣き叫び、体を突っ張って車に乗ることも嫌がる光太。
なんとか車に乗せても、不快な表情は崩れず不満げに叫んでいた。

家に帰り食事を出すと、当然のようにぺろっと食べる二人。
ほっとしたが、同時に疲れもどっと出てくる。やっぱりというべきか、けどここまで外食が難しいとは・・・
外食大作戦、第一回目は惨敗。けれど、これであきらめるわけにはいかない。
さあて、次はどこで外食にチャレンジするかな?すでに思案中なのだ。




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