母子分離のとき


 5月12日、ようやく今年度の療育センターでの週一度の教室が始まった。
昨年度の教室が3月のはじめに終わってから2ヶ月間、どこにも通う場所もなく、私ひとりで子供と向き合わなければならなかった。
 実に長かった!この日をどんなに待ちわびたことか!

 新しい教室は、昨年度の教室よりも30分早く9時30分に始まり、11時45分に終わる。さて、悠太と光太がこの長丁場に耐えられるのか?
 教室のお友達はうちの子を含め6人。見回したところ、やっぱりうちの子が一番おバカちゃん(笑)。でもいいよね。療育センターが大好きな2人。楽しく遊べるのが一番だもんね。

 そう思っていたのに。
昨晩寝るのが遅かったからか(君たちが寝ないのがいけないんだぞ!)、自由遊び、リズム遊びが終わる頃には疲れてぐずぐず坊やになってしまった。
 おまけに、次の遊びは絵本を題材にした先生の寸劇もどき。悠太と光太は絵本を自分のペースで見るのは好きだが、「言葉がわからない=話の筋がみえない」ので、ストーリーのあるものは苦手。
 他のお友達が、先生の動きやお話に夢中になっているのを横に、うちの子はぐずぐず泣きながら寝そべってやる気ゼロ。あーあ・・・

 次はびっくり、トイレの時間。
みんなでこぞってトイレに行くのだ。そこで、トイレでおしっこできる子はするのだが、うちはトイレトレなんて全く手付かず状態。なおかつ家のトイレは子供は便器に手を入れて水遊びをしてしまうので、鍵を外からかけて入室厳禁にしてあるのだ。
 そんな状態のうちの子が「トイレ」を理解するはずもなく、いきなり連れてこられた未知の場所に恐れおののき、泣く、泣く、泣く。あーあ・・・
 ちゃっかり、先生と先に教室に帰っていた悠太は、次のお弁当の時間のためにセッティングされたテーブルと椅子に一番先に座っていた。

 冷たいものが食べられない悠太と光太のために、お弁当を温めにダッシュしてくれた先生、感謝!おかげで、場所が変わると食べられない悠太もちゃんとご飯を口にしたし、
家ではすぐにお食事椅子から脱走してしまう光太も、みんなが座っているからか、一度も立ち上がることなく、お弁当を食べることができた。
 うん、まずまずだね。

 お友達みんなが一緒に席に着くと、不思議と2人もおとなしく座っていることが出来る。こんな2人を見るにつけ、やっぱり子供同士ならではの力を感じる。
 家の中ではせっかくこうして2人兄弟なのに、お互いある程度は意識しているようだが、おもちゃや絵本の取り合い以外接点がない。
 私と1対1で接するときは視線もしっかり合って、ニコニコ笑顔、きらきらの表情なのだが、お母さん、お父さん以外の人には関心がほとんどない。
 お友達といても、その子の持っているおもちゃは目に入っても、お友達に関心があるわけではない。もっと、ほかの子供に関心を持って欲しい。お母さんと、お父さんとではなく、子供同士の世界を広げて欲しいと思う。

 そう思っていた矢先のこと。
 他の子供が楽しそうに遊んでいても無関心だった二人だったが、このところ、他の人の動きが随分と目に入っているようなのだ。
 先日、2人を外で遊ばせていると、目の前を数人の子供たちが三輪車や乗り物のおもちゃに乗って行ったり来たりしていた。
 悠太と光太の目はその子たちに釘付け。そして、自然と体が動き、その子たちを追いかけよう、近づこうとするしぐさを見せたのだ。
 きっと、「楽しそうだな、ぼくもやりたいな」そんな気持ちがあってのこと。うれしく思いながらも、「悠ちゃんと光ちゃんは危ないから、ここで見ていようね」と引き止めた。
なおも、近づこうとする悠太と光太。子供たちは悠太と光太が近づこうとしても、乗り物の速度をまったくゆるめようとしない。本当に危ない!なんとか2人を抱きかかえる。するとその子供が、
「来ちゃダメ!さわらないで!これは○○ちゃんのお友達のなんだから!」
子供だから、自分のものに触られたくない気持ちも分かる。けど、あんたもそれ、借りもんでしょーが。
すると、続けて3人ぐらいの子供が
「ダメ!さわるな!くるな!」と連呼し始めた。
まったく、子供はー。半ばむっとしながら、あきれながら、悠太と光太を他の遊びにうながした。
それでも、その子供たちは悠太と光太のそばを行ったり来たりしながら、延々と「来るな!さわるな!」を繰り返す。

悠太と光太は言葉を喋れない。言い返したくても言い返せない2人がかわいそうだった。ぷちっと私の心の中で何かが切れた。そして、言ってはいけないことをその子たちに向かって言ってしまった。
「うっせー、ばーか!」
大人気ない。恥ずかしい。実に大人気ない。
けれど、やっぱりつらかった。悠太と光太が疎外されているようで。
悠太と光太がいわゆる「普通ではない」ことで、疎外感は澱のように私の中でたまっていた。でも、それがこんな形で爆発するのはよくない、ですね。やっぱり。

 子供には子供同士の世界が必要だ。
一緒に遊んだり、意地悪したりされたり、いいことも、いやなこともひっくるめて。
 今の安定した私と、悠太・光太だけの世界。楽しいけれど、心地よいけれど、刺激の少ない世界。もちろんそうした親子関係は絶対崩れてはならない大事なものだけれど、近いうちに、悠太と光太もそこから外へ出なくてはいけない。
 少しずつ、外の世界へ出たい、うまくはいかないけれど、他者とかかわりたいという気持ちの芽が2人のなかに出来つつあるような気がする。
 母子分離のときは、意外と近いのかもしれない。




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