寝かしつけ攻防戦

 ドラマ「光とともに・・・」が始まった。
子供を寝かしつけるために夜8時以降のテレビは一切あきらめている私だが、これだけはやはり譲れない。となると、ゆっくりとドラマを楽しむためにはドラマが始まるまでにどうにか子供を寝かしつけなければならないのだが、これが難しい。光太はわりとすんなり眠ってくれるのだが、問題は悠太。
 ドラマの初回、第二回と失敗。さて、第三回の寝かしつけ攻防戦スタートだ。
準備はばっちり。お昼寝も短めにして、早めにテレビも消して「寝る」モードをつくりだす。よし、これだけ時間があればなんとかなるだろう、と私も少しうとうとする。
 はっと目が覚めたとき、9時50分。すでに光太は眠ってくれている。しめしめ。悠太も布団の上でごろごろしながらあくびをしている。
 よし!こうなったら最後は抱っこで落としてやるぞ!と眠そうにしている悠太をにこやかに抱っこして、「さあ、ねんねしようね〜」
 あぐらをかいて座り、たて抱きにした悠太の背中をとんとんたたきながら、ゆーらゆら。眠そうにしているときは、だいたいこれですんなり眠ってくれるはずなのだが・・・
 5分、10分・・・寝ない。寝ないのだ。
 ああ、ドラマが始まっちゃう。でも、もう少しで寝そうだし・・・
うとうとするものの、なかなか眠ってくれない。だんだんイライラしてくる。早く寝ろっつーの!
そんな私の心を見透かしたように、にや〜りと不敵な笑いを浮かべる悠太。
そこで、私の堪忍袋がぷつっと切れた。「もう知らない!勝手にしろ!」と、抱っこしていた悠太を布団の上に放り投げ、テレビをつけ、テレビの前に行く。結局ドラマが始まってから15分が過ぎていた。いいとこ見逃しちゃった・・

我が家は居間つづきの和室で家族4人で寝ていて、おまけに仕切りのふすまも開けたままなので(閉めてもまた子供が開けてしまうのだ)、布団からでも居間にあるテレビが見える。大好きなテレビがついて、布団の上から首を亀のように伸ばしてテレビを見ようとする悠太。もぞもぞと居間に出ようとする。
そんな悠太をきっとにらみつけ、「あんたはもう寝るの!」と布団の中に追いやる。
しばらくすると、悠太はまた、にんまり笑いながら首を伸ばしてテレビを見ようとする。
 再び、「こらっ!」と立ち上がり、2、3歩悠太のほうへ歩いていく。すると悠太はばっと布団にうつぶせて、テレビを見てないふり、寝たふりをしたのだ。
 意外な反応に驚く私。
 さらに、4、5回同じことを繰り返しただろうか。テレビをどうにかして見ようとする悠太に近づくと、やはり寝たふりをする。
 10時半、気がついたときには、私との攻防戦に疲れた悠太は「ぶほーっ、ぶほーっ」とものすごいいびきをかいて眠っていた。
 
 「悠太が寝てる・・・」
 私は、なんとも言えない感情につつまれていた。ハトが豆鉄砲をくらったというのはこんな感じだろうか。
 私が怒ると、テレビを見ていないふり、寝たふりを繰り返した悠太。その動作は明らかに、「自分は今テレビを見てはいけない、布団で寝なければいけない」ということを理解しているとしか思えなかった。そして、「テレビを見たら怒られる」ということも。
私が「怒っている」ことをちゃんと理解したのだ。

 こんなこと今までありえなかった。そう、少なくとも先週までは。
テレビをつけようとして私が悠太のそばを離れたら、「お母さんも一緒に寝るの!」と私の手を引いて布団に連れ戻しに来たし、それでも私がテレビの前に行くと、当然のように悠太も居間に出てきてテレビを見たがった。それを止めさせようとすると大泣きだったのだ。
私が怒ろうが、「だめ!」「いけません!」と叱ろうがまったく気に留めず、意のままに行動していた悠太。自分のやりたいことを制止されたら泣き喚くことしかなかったのに。あの、さっと寝たふりをする悠太のなんとユーモラスな姿だったこと!

確かに最近、やってはいけないことを「ダメ!」と何度か制止すると、憮然とした顔で私をちろっと見て、すーっとやめることがあった。
そのときは、「あれっ?」と思っただけだったのだが、この日確信がもてた。
悠太はちゃんと私の感情を理解しているのだ。

ただ残念なのは、それが「ダメ!」や「こらっ!」の叱ったり怒ったりの否定的感情だったことだ。
悠太も光太も、まだ「よくやったね、えらかったね、頑張ったね!」などと褒められることを分かっていない。褒められることがうれしいことだ、心地よいことだということも分かっていない。
「えらいね、やったね!」とオーバーアクションでどんなに褒めても、何食わぬ顔ですーっと行ってしまうのだ。褒められていることが分かってくれたら、もっともっと伸びるのに・・・

さて、寝かしつけで困ったことといえば、「何がなんでも真ん中で寝たい」。
以前から子供2人を寝かしつけるときは私を真ん中に、その両脇にそれぞれ悠太と光太で腕枕をして寝かしつけていたのだが・・・いつの頃からか2人して真ん中に寝たがるようになった。なので、悠太が光太と私の間に割り込んでくる。すると端っこになってしまった光太がまた私と悠太の間に割り込んでくる。これが毎夜エンドレスに繰り返されるのだ。こんな状態だと私もおちおち寝ていられない。
光太はしばらくするとあきらめるのだが、たちの悪いのは悠太。布団の部屋にいるのに飽きて、居間へぷいっと遊びに行くのだが、戻ってきて、私と光太がぴったり寄り添っているのを見ると、わざとその間へぐいぐいと体を押し込んでくる。その強引さたるや、満員電車でわずかな隙間の座席に体を埋め込もうとするおばちゃんも真っ青。どう見ても全く隙なく抱き合っている光太と私の顔面にお尻をぼんと乗せ、たじろいでいる隙に割り込んでくる。なんなんだ、こいつは!
こうなると、せっかく眠りかけていた光太も起こされて「ぎゃーっ!」
私の苛立ちにさらに拍車がかかるのだ。
この「真ん中で寝たい」は、夜中に子供が寝ぼけて起きたときも繰り広げられる。和室いっぱいに敷き詰められた布団の中、私の眠る1枚のシングル布団に3人がぎゅうぎゅうで、「ボクが真ん中だ!」「いや、ボクが真ん中だ!」とやられた日にはたまったもんじゃない。夜中であろうと私の怒りは炸裂する。

寝かしつけ攻防戦はまだまだ続く。
ゆったりと気持ちよく眠れる日はいつ来るのだろうか・・・




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