みじめな気持ちの後に 〜悠太と光太へ未完のラブレター〜

 悠ちゃん、光ちゃん、この間行った備北丘陵公園は楽しかったかな?

 園内に入るとすぐに目に付いた大型遊具。光ちゃんはあの遊具でとっても遊びたかったんだね。花の広場でベビーカーから下ろすと、一目散に大型遊具のあるほう目がけて走っていってしまった。花の広場からは大型遊具は見えないというのに、すごい方向感覚だなあってびっくりしたよ。まあ、どんなお店に行っても本能的・動物的(?)なカンで出口を探し当てて突進してしまう君だもの、そんなことは簡単だよね。来た道順も覚えていたのかな?だとしたらすごい記憶力だね。
 いつも、いろんなところへ行っても、光ちゃんはお母さんと遊ぶだけだから、久しぶりに大好きなお父さんを独り占めできて良かったね!
 でもお母さんは、お花と光ちゃんの写真をもっと撮りたいなあと思ってたから、ちょっと残念だったよ。

 そして悠ちゃん。
 よく(君の障害のことを)考えれば、あの花の広場はとってもしんどい場所だったんだよね。たくさんの人、音、さまざまな花の色。そんな情報・刺激が一気に飛び込んできて、きっと君の頭の中はショート寸前だったんだろう。だから、同じ場所をぐるぐる回ることで気持ちを落ち着かせたり、何にもない地下道が安らぎの場所でうれしかったんだよね。たくさんの情報を処理することで精一杯で、お母さんの声なんて聞こえないよね。
 落ち着いて考えてみれば分かることだったのに、あの時お母さんは君と一緒にお花を楽しみたい一心で気付いてあげられず、そんな君をうとましく思ってしまった。
 本当にごめん。

 でもね、お母さんにも夢があったんだ。
あの備北丘陵公園は家から遠いからそんなにたびたび行くことはできないけれど、とっても大好きな場所だったんだ。お父さんと結婚する前、お父さんと一緒に行ったときにも、「いつか、自分たちの子供連れてまた来れたらいいね」って話してた。こんなに広―い気持ちいい場所で、お花もいっぱいで、家族みんなでお弁当食べて、遊んで・・・ってしたかった。
 残念ながら君たちとお外でのんびりお弁当食べて、っていうのは今のところ無理だけどね。
去年あの公園に家族で行ったときは、君たちと一緒に来れた!ってことだけでうれしくて、夢がかなった気分になったんだ。君たちがお花を見ようが見まいが関係ない。ただ、君たちが楽しそうに走り回ってくれるだけでうれしかった。
だけど初めて行ったときから半年以上たって、ずいぶん成長して賢くなった(?)君たちに、ちょっとお母さんの期待を押し付けすぎてしまったね。一緒にお花を見たい、きれいだねって一緒に感じたい、どうしてできないの?って。
君たちの障害のこと、忘れてしまっていたんだ。
特に悠ちゃんは成長著しくて、周りのことが見えるようになったぶん、君の障害・自閉症の傾向もかなりはっきりしてきた。ああいう場所に行って君がしんどい思いをするってこと、すっかり忘れてたんだ。
お母さんが夢に描いていた「普通の家族」像にこだわりすぎて、君たちのことが見えてなかったんだ。
私たちは私たち。それで良かったはずなのに・・・

遊具をかけ上るこう君。 芝生を駆けるゆう君。

外ではあんなにお母さんには見向きもしない君たちなのに、家に帰ってきたとたんにお母さんにまとわりついて、おひざにコロンと横になる。そのうれしそうな顔。
こんなお母さんなのに、君たちはお母さんのおひざで、抱っこで安らいでくれるんだ。

家の中の君たちといると、君たちに障害があるっていうことを忘れそうになることがあるよ。
朝、目が覚めたら傍に先に目を覚ましていた光ちゃんがいて、お母さんと目が合っただけでうれしそうに笑ってくれる。そんな1日の始まりは温かい気持ちをくれる。
にこにこでお母さんを見つめて、「次は何をしてくれるんだろう」って期待いっぱい。
「でこぼこフレンズ」のじょうろうくんのまねをすると、おめめきらきら。「種をまいて、お水をあげると・・・」(ここでわざと間をあける。するとワクワク、ドキドキした顔でお母さんを見つめている)「ほうら!お花畑!」と言うと、げらげらと大笑いする君たち。そんなに面白いかなあ?でもそんな君たちを見ているとお母さんまでおかしくて、おかしくて3人で大笑い。
そんなときは、どこから見ても、まったく普通の親子の姿。
耳からの情報が入りにくいと言われている君たち。だけど、ちゃーんと言葉と言葉の間のユーモアも分かっているんだよなあ、って感心するよ。
悠ちゃんは絵本が大好きだね。お気に入りのページをめくっては、「ここ読んで」ってお母さんに視線を投げかける。あんまりしつこいから、「もーっ」って怒ってしまうこともあるお母さんだけど・・・
「悠ちゃん!」って何度呼んでも来ないくせに、お気に入りの歌のフレーズを小さい声でちょっと口ずさんだだけで、ものすごい勢いで駆け寄ってくる。
光ちゃんはこの頃名前を呼んだら「ん?」って顔で振り向くことが増えたかな。でも、だいたい「光ちゃん、食べる?」っておやつをもらえそうなタイミング限定だけどね(笑)。

「音声言語だけが言語ではないんですよ」って、君たちの障害のことをよく知る先生が言っていたけれど、本当にそうだなあと思う。
君たちは言葉を喋ることはできないけれど、いろんな気持ちがいっぱいあって、君たちはできる限りの方法で一生懸命気持ちを伝えようとしてくれているね。
何気ない顔でとことこと近づいてきたかと思うと、お母さんの首根っこにぎゅっと両腕を回してしがみついてくる。「お母さん、大好き」って・・・
お母さんは、そんな君たちの気持ちにどれだけ応えてあげることができているだろう?

家の中では、いっぱいお母さんを求めてくれる君たち。でも、だからこそ外での君たちと家の中での君たちの姿に翻弄されてしまうんだ。どこまでわかってるの? どうしてお母さんが呼んでも行ってしまうの?
君たちの心を掴んでいたと思っていたのに、とたんに君たちのことが分からなくなる。
そんな時はとても悲しくなるよ。君たちのお母さんとしての自信も、消えてなくなりそうになる。

 たまに、本当にすごーくたまにだけど、君たちのことがたまらなくいやになることがある。一生懸命いいお母さんでいようと努力しているけれど、君たちにお母さんの気持ちが届かなくてつらくなるとき。
 そんなときは、君たちに声をかけることはもちろん、君たちに触れられることすらお母さんの心と体が拒否してしまう。「さわらないで!あっちへ行ってよ!」、って君たちから逃げ回る。でも、君たちはそんなお母さんが分からないから、泣きながら追いかけてくる。逃げて、追いかけて、逃げて、追いかけて・・・
 とうとう3人泣きながら疲れ果てて眠ってしまう夜がある。
 君たちのことを大切に思う気持ちは本当なのに・・・

ありのままの君たちを受け入れることは、どうしてこんなに大変なんだろう?
でも、ありのままの君たちを愛している。

 そんなふうに、自信を持って言えたなら・・・




育児なんか大キライ!目次へ
ホームへ