みじめな気持ち

 行楽シーズン真っ只中。「国営備北丘陵公園春・花まつり」なんて広告を見ると、もう気持ちがうずうず、行かずにはいられない私。ということで、昨年の秋、コスモスの時期にも行きましたが、今度はチューリップを見に行こう!と日曜日の午後、備北丘陵公園へ行ってきました。
 この日の午前中、念願のデジタル一眼レフカメラを「結婚3周年記念品」と口実をつけ購入。さっそく、新しいカメラ持参で「よーし、これで悠太と光太と花の写真を撮るぞ!」と意気込んでいたのですが・・・

 我が家から車で約1時間、公園に到着です。園内はちょうど見ごろな菜の花、チューリップ、その他春の花でいっぱいです。
 悠太と光太をベビーカーから下ろしてしまうととても花を見どころではないので、とりあえず花の広場を一周しようとしたのですが、早くも2人がぐずり始めました。2人の様子が限界のようだったので、泣く泣くベビーカーから2人を下ろすと、早速2人は水を得た魚のように走り出しました。
 最初私は光太についたのですが、光太はあっという間に花の広場から脱走しようとします。「悠太がこっちにいるから、戻ろうよ。お花もきれいだよ」と、何度も方向修正しようと思っても岩のような意思の光太。行きたい方向を譲りません。
 そこで、まだ動きの激しくなさそうな悠太とバトンタッチ。この日は私が悠太を、夫が光太を見ることにしました。夫と光太はあっという間に姿が見えなくなってしまいました。

 さて、一方悠太は。
 花の広場の中央には見晴台があります。昨年来たときには、その見晴台に執着していた悠太ですが、この日は見晴台に上ろうとせず、見晴台のまわりをぐるぐる走り回っています。もちろん、悠太に付き合って私もぐるぐる、悠太を追いかけます。
 さすがに私も厭きてきたので「ほら、こっちにお花がたくさんあるよ」と悠太をどうにか花のあるほうへ誘導しました。すると、ぱーっと悠太が走り出しました。けれど、どんなにきれいなチューリップも悠太の視界には入っていません。目に入っているのは花の周りに植えてある芝生。芝生の上を走っては座り込み、芝生をさわってはまた走り始めます。その足の速いこと。
 そのとき私は肩からデジタル一眼レフをかけ、背中には子供のミルクを作るためのたっぷりのお湯の入った魔法瓶、その他おやつ、おむつの入った重いリュックサックを背負っていました。ただでさえ身動きが取りにくい状態に、足の速い悠太を追いかけるのは大変です。そんな状態が、私の気持ちをどんどん萎えさせてしまっていました。
 しばらく走ると悠太は広場の横の地下道を見つけました。吸い込まれるように地下道に突き進む悠太。何もない無機質な道の何がおもしろいのか、キャッキャッとその日一番の笑い声をたてて走り回ります。結局その地下道を何往復走ったことでしょう。
 外にはきれいな花がたくさんあるのに・・・
 疲れた私は、何とか悠太をくいとめ夫に電話をしました。すると、夫と光太は花の広場からずーっと先にある大型遊具で光太と遊んでいることのこと。「光ちゃんと滑り台してるのー」のん気な夫の声を聞いたとたん、私の中でぷちっと何かが切れてしまいました。

たいくつだよー。遊びたいよー。 にっこりゆう君。

 とにかく夫のもとまで行ってみよう、と悠太を抱っこします。重たい荷物を背負った上、重たい悠太を抱っこするのは腕力のない私にとっては無理。けれどそんなことを言ってはいられません。ベビーカーを置いてあるところまで何百メートルもあります。
 途中、見晴台まで戻り悠太を下ろすと、また見晴台の周りをぐるぐると走り始めました。同じところを何周も走る悠太を、そこで休憩している人が見て笑っています。走るだけならいいけれど、座り込んだり、はいはいしたり、寝そべったり。それは、3歳間近の体の大きな子供がするには奇異にうつるはずです。それをただただ追い掛け回す私。
なんだか、とてつもなく恥ずかしくなってきてしまいました。悠太のことも、追いかけるだけの私も。それでも、
「もー、悠ちゃん何してるの。ほら、立って立って!」と「普通の子」に諭すと同じように努めて明るく言葉をかけます。もちろん私の言葉なんて聞く耳をもたない、私の言葉なんて分からない悠太は振り向きもしません。その背中を見てたまらなく悲しくなりました。
私は何をしているんだろう。きれいな花を見にきたはずなのに、花なんて満足に見てもいない。他の家族連れはお花畑をのんびりお散歩して、家族で花をバックに写真を撮ってるのに・・・私はただ悠太を追いかけてるだけじゃないか。家族で来たのに、家族もバラバラじゃないか。
情けなくて情けなくて、あまりにもみじめでした。

暴れる悠太をなんとか担ぎあげてベビーカーまで戻り、夫と光太のいる大型遊具のところまでむかいます。
重い荷物を私にまかせ、身軽に光太と遊具で遊んでいた夫の楽しそうな顔をみたとたん、今までの気持ちが一気にあふれて、夫に当り散らしました。
とにかく、もう帰りたい。ちっとも楽しくない。重い荷物と重い悠太抱えてこっちは大変だったのに、なにのん気な顔をしているのか。
腹が立ってしようがありません。
とにかくあせっていました。
せっかくここまで来たのに、楽しいことも何もなく帰ってしまうのか。楽しかったよ、遊んだよ、と言える証拠が欲しい。
私は光太を連れて滑り台へと向かいました。でも、光太は滑り台に興味を持たず、キョロキョロしています。「お父さんとは滑り台したのに、お母さんとはしないの?!」
気持ちがどんどんヒートアップしていきます。
その滑り台は小さなローラーが組み合わさって滑るものでした。気のない光太をつかまえ、滑り台を滑ろうと思った瞬間、私の片足がローラーの上を転がりそのまま尻もちをついてしまったのです。あまりの痛さに声も出ません。その場から動くこともできず、立ち上がることもできず、夫に電話で助けを呼びました。光太がどこかへ行かないよう、押さえ込むだけで必死でした。
気持ちが焦り、注意力散漫になっていました。足元など全く見ていませんでした。
自分のせいとはいえ、踏んだり蹴ったりとはこのこと。
(翌日、外科でレントゲンをとると、お尻の骨のゆるやかなカーブのところが、「く」の字になっている。骨は折れていないけれどひびが入っているかもという状態でした。)

全く、歯車のかみ合わない1日でした。
こんな日は、普段不満に感じないことも不満に思ってしまいます。私の気持ちの中で、気付かないうちに疲れが澱のようにたまってしまっていたのかもしれません。
かわいいはずの子供を、恥ずかしく思ってしまった自分がいたことにショックを受けました。そんなこと今まで思ったことなかったのに。人の目を気にして子供に接したことなどなかったのに。
自分をみじめにするのは自分なのに・・・

でも、無理だと分かっていても悠太、光太と一緒に花を見たかった。「お花きれいね」って一緒に感じたかった。君たちに、それを望むのは贅沢なの?

 時々、子供のことが分からなくなります。
 まだまだ、この子たちに、この子たちの障害に戸惑う自分がいるのです。




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