光太の屈辱


 2008年、怒涛の1年が終わろうとしています。
 卒園、入学、そして入学してからのあんなこと、こんなこと・・・てんこ盛りの1年でした。
 よくぞ、悠太も光太もこれだけたくさんのことを乗り越え、頑張ったものだと思います。

 学校にも慣れ、すっかり学校が「自分の場所」になったようです。
 ずーっと優等生の皮をかぶっていた悠太は、この秋以降、ようやく少しずつ本来の自分を学校でも出し始めました。
 先生にわがまま言ったり、反抗したり、そうかと思えばどっぷり甘えたり。そうやって、先生の反応を試しているのです。
 先生もそれは重々承知で、そんな悠太とのやりとりを楽しんでくれています。
 悠太らしいなー、と思います。
 時間をかけて、人との距離感を計っていく子なのですね。やっぱり、半年はかかるんだなあ。

 最近は日直さんのお仕事もこなしているようです。お友達と「おはよう」の握手をしたり、ネームプレートをお友達に渡したり、見よう見まねで、どうにか。
 へぇ〜っ!ですよ。
 一クラスが少人数で、先生に目と手をしっかりかけてもらえる、この状況が今の悠太には(もちろん光太にも)よかったんだなあ、とつくづく思います。


 さて、光太ですが、光太はきっと、学校で「あれをやらなきゃいけない、これをやらなきゃいけない」というプレッシャーよりも、大好きなK先生と今日は何して遊ぼうかな〜♪くらいの感覚なような気がします(笑)。
 K先生に絶対の信頼と愛情を置く光太。先生というより、光太にとっては「ツレ」とか「ダチ」って感じなんだろうなあ・・・

 最初はK先生も、光太のラブラブチュっチュ攻撃にさぞや面食らったことだと思います。(返す返すも、K先生は中年の男性)
 けどまあ、最近はそれにも慣れていただき、時に受け止め、時にはかわし。先生にしてみれば、なぜこうも光太が厭きずに先生にアプローチしてくるのかが不思議なようですが・・・
 「好き」に理由はないもんねえ、光太。

 けど、これだけK先生に依存していたら、2年生に上がるときにクラス替えがあるのかないのか知らないけれど、K先生と離れたときに光太がどうなることやら。きっと、がたっと崩れちゃうんだろうなあ・・・それだけが今から恐ろしいです。

 先のことはいいとして。
 光太、最近給食に出る紙パックの牛乳に興味をもって、ストローを自分でさす仕草をして、少し牛乳を口にもしているようです。

 光太にとって、紙パックの牛乳ってハードルがすごーく高いでのです(悠太にはエベレスト級かも)。
 なにせ、中身が見えない!味の予測ができない、すごーくまずいかもしれないでしょ。
 牛乳を飲んでいたのはかれこれ2年近く前までで、それも温かい状態でストローマグに入った状態でしか飲んだことがない。その後、飲み物はぱたっとコップで冷たい麦茶にスイッチしちゃって、そのほかのものを飲まなくなった光太にとって、冷たい牛乳ってのは未知の飲み物なのです。

 ストローで吸うのもよく分かっていないかも。たぶん「吸う」という動作も忘れてる。ストローマグのストローと、紙パックの飲料についてくる普通のストローって、質感が全然違うし・・・口にした瞬間、別物だもの。

 そんなこんなで、「ちょっと飲んでみようかな」って思えるのってすごいことです。みんな、飲んでるもんね。おいしいもの?おいしいものだったら、飲まなきゃソンだもんね。

 牛乳だけじゃなく、今まで食事は手づかみオンリーだった光太が、たまーにスプーンでご飯をすくって食べることもあるそうです。
 そうでなくても、食事の間、ずっとスプーンを握り締めていたり。

 そんな学校の様子をきいて、家でも食事のときにちょっとスプーンを使うように促してみました。
 以前は「スプーンで食べたら?」って言ったら、逆ギレしていたんですよ(笑)。「こんなもんで食えるか!オレにスプーンなんか必要ないんじゃっ!」って。
 はあ、そうですか〜、ってなもんで。
 その光太が、「おっ、オレ、これで食べればいいんだな」ってちょっと得意げにスプーンを使うじゃないですか。
 全然へたくそですよ。2、3つぶすくってパクッ、だったり、すくったのをわざわざ手で持ち替えて口に運んだり、結局最後は手づかみなんですが、そこにスプーンがあることを意識しているというか、あんなに頑なに拒否していたスプーンの存在を許してくれているのです。

 自分でプリンをスプーンで食べる練習を始めたのが4月。スプーンですくう動作が定着して、ご飯に応用できるようになったのが12月・・・これが光太のペースなんですねえ。いっぱい、いっぱい時間をかけて、本人が納得してようやく、です。

 手づかみ食べは、一番私が気になっていたことでした。外食する機会も増えてきて、やっぱり人目も気になるし・・・
 学校にどういう指導をされるかもとても不安でした。
 でも、学校の先生も作業療法士の先生との連携で、「光太くんはまず、しっかり食べてもらおう、手づかみOK!」とのお許しをいただいて、心底ほっとしたものです。
(要は、その程度の発達段階ってことで・・・手づかみ食べって、離乳後期だよなあ)

 今、ニコニコでスプーンを使おうとする光太を見ていて、あー、手にスプーンを縛り付けて、二人羽織状態で無理やり食べさせるような食事指導をしなくてよかったなあ、とつくづく思います。
 ま、うちはもう一人いるので、実質一人にそんな手をかけることができなかったのですが、これが子どもが一人だったら、分かりません。基本、過保護上等の私ですから、一人に愛情と手と時間とプレッシャーを全部かけて・・・ああ、恐ろしい(笑)。
 良かったねえ、うちは双子で。うん、うん。


 先日、ちょっとした事件がありました。
 以前にも書きましたが、最近の光太は自分でトイレでおしっこをします。
 その日も、もよおしたらしい光太、いつものようにすたたたた〜っとトイレへ行き・・・しばらくして、蒼白な顔で戻ってきました。
 「光ちゃん、どうしたの?」
 「・・・・」
 一瞬思案したのち、後ではかせようと思って置いておいた布パンツをおもむろに手にとり、トイレへ逆戻り!

 その日はちょうど休日で夫も家にいたのですが、その瞬間、夫も私も全てを悟りました。
 「あー、光ちゃん!雑巾、雑巾っ、急げっ!」
 雑巾を手に光太を追い、トイレにダッシュする夫。
 これも以前書きましたが、光太は、こぼしたり汚したりしたものを自分でどうにか始末しようとするのです(で、被害が余計に広がる、と)。

「いいよ光ちゃん、お父さんがするよ」と諭された光太が、とぼとぼと戻ってきました。そして、泣き始めたのです。それはもう、悔しくて、悔しくてたまらないといったふうに。
「オレ、ほんとはちゃんとできるのに。おしっこちゃんとできるのに。ふわあああああんっ!」

 トイレを掃除してきた夫によると、結構ひどい状態だったとか。
 トイレは寒いので、光太はギリギリまで尿意を我慢しているらしいのですね。で、「もう、ダメっ!もれちゃう!」という状態でトイレに駆け込み、蓋と便座を上げようとして、あせってうまくいかなかったのか、もう間に合わなかったのか。トイレの蓋の上に思いっきりおしっこがぶちまけられていたそうです(笑)。
 そりゃあなあ、光太にしてみればショックだよなあ・・・

 屈辱に泣き崩れる光太に、「もー、そんなに気にしなくていいのに・・・」と言いながら、私も涙、涙です。
 失敗したことを悔しいと思う、その気持ちの育ちが何よりうれしくて。光太の切ない泣き声が突き刺さり、胸が震えました。
 まー、3、4ヶ月前までは、ところ構わず水溜りつくって、へらへら笑っていた人がねえ。
 なんだか、光太も変わったなあ・・・
 
 悠太も光太も、なんてことのない日常の1日、1日の積み重ねが、確実に彼らの血肉になっているんだなあ、と思います(それは誰にも言えることだけど)。
 光太なんてほんと、学校へ行っても、K先生とラブラブしているだけ(じゃないけど、それに限りなく近い状態)なんですよ。
 でも、不安なときに必ず受け止めてくれる人がそばにいる、困ったときに必ず手を差し伸べてくれる人がそばにいる、その心強さが、彼らを支え、いろんなことに目を向けよう、チャレンジしてみようという気持ちにさせる後押しをしているのは間違いありません。
 たとえその歩みの一歩がかたつむりに追い越されるくらい遅くても、確実に、彼らは成長しているのです。

光太。豊平どんぐり村にて。


 歩みの遅さといえば・・・
 悠太がちょっとした一芸をマスターしました。
 機嫌のいいとき、悠太が「まあ、やってやってもいいか」という気になってくれたとき、30回に1回くらいの割合ですが、私が、「悠太〜、あたま!」というと、両手で自分の頭をぽん、とやってくれるようになりました。
 ハイ、これだけ。まさに一芸(笑)。

 この一芸に苦節7年ですよ!どれだけかかるんじゃい!
 悠太は私と手遊びやスキンシップ遊びするのが大好き。悠太のご機嫌をとるときや、何もやることがないときに私の膝の上に向かい合わせで座らせ、悠太の手をとり、「あたま、かた、ひざ、ポン♪」とよくやっています。

 しかしまあ、模倣する気がさらさらないのですね。いくらやっても、自分でやろうとしない。悠太にとって手遊びとは、母が自分の手をとりいろんな格好をやらせてくれるもの、なのです。ううむ。
 悠太の手をとり、悠太の頭に手をのせさせ、「悠太、あたまだよ。あーたーまっ」と教えるのですが、悠太はその私の顔がおかしいのか、「うひゃひゃっ」おいおい。
 分からんのか、もうええわ、とやめようとすると、「もっとやって〜」だそうです。

 で、エンドレスに「あたまっ、あたま〜、あたまっ」とやっていたら、いつの間にか「あたま」と言うと、私の頭をさわさわしてくれたり、自分の頭に手をやるようになっていました(ほんとーに、悠太の気が向いているときだけですが)。
 くううっ。この達成感!(笑)

「あたま」トレーニング中の悠太。

 次は「肩」だ!と「悠太、肩だよ、かーたっ」と肩を教え込もうとするのですが、「うひゃひゃひゃひゃ〜っ」
 ダメだ、こりゃ。
 なーんで、「あたま」と言ったら頭をさわる、「かた」といったら肩をさわる、こんな簡単なルールが飲み込めないんでしょうねえ。
 まあそれが自閉ちゃんで、そんな意味のないルールを覚える脳の回路は持ち合わせていないってことか。でもなあ、意味がないこともおもしろいんだけどなあ・・・

 じゃ、悠太の2009年の目標は「かた」を覚える、ってことで(笑)。いや、2009年だけじゃおさまらんか。「かた」を覚えるのも7年越し!?「あたま、かた、ひざ、ポン」をすべてマスターするにはどれだけかかるんだろう・・・なにとぞ、お母さんが元気なうちによろしく。


 これで2008年の更新も最後です。
 1年間、悠太・光太を見守っていただきありがとうございました。
来年は、どんな成長を見せてくれるのか楽しみです。
 来る2009年も、悠太・光太とともに、ハッピー・スロー・ライフ!


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